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ルルアは物語を喰う能力を持っている。図書館には様々な館長や司書がいるが、中でもルルアは特別であり特殊であり異端であった。図書館で職に就いているにも関わらず、物語を喰うなど言語道断。それ故普段から喰わないよう細心の注意を払っていたのだが、時折最高責任者から直々に呼び出され、この物語を喰えと言われもした。
断る必要も理由もなかったため、それまでは言われたままに喰っていた。
しかし今回は、ルルアにとってそれはあまりに残酷なものだった。
「それはあまりに難しいことだよ。おまえにもできるかどうかわからない。それでも、やるつもりかい? ミサイド」
やるつもりも何も、やるしかない。
そうしなければきっと、この物語は終わらない。彼女はそれを知っている癖に、やはり自分で決めさせようとする。自分で選択させようとする。
長年の付き合いだ、彼女がいくら大きな存在でも、それくらいは理解している。
「ソフィーはそうしなければならない。そう言ったのは貴女だろう。そうしなければソフィーはどうなるかわからず、私もどうなるかわからない。だからこそ、できるかどうかわからなくても、やらなければならない。そうだろう?」
「私に同意を求められてもねえ……。私はソフィーに会ってないんだ、今どうなっているかわからないよ。現状がわからなくては何も行動できない。私は成功の確率が90パーセント以上じゃなきゃ動けないからね。この立場は本当に難儀だよ」
「……それが成功しなけば、ソフィーは一体、どうなるんだ?」
彼女は電話の向こうでため息をつく。長いため息。それは彼女の憂いを表すには最適で、私に不安を与えるのに抜群の効力を発揮した。
「まあ、最悪の事態も想定しなければならないね」
わかった、ありがとう。
そう言って通話を終えようとしたそのとき、ああ待って、いい話だってひとつあるんだ、と彼女が慌てたように口にした言葉は、少しだけ希望を持たせた。
それでも成功する可能性が低いことは変わりない。どうしても成功させなければならないことこそ、成功しないのが世の常だ。ここはいつも以上に慎重に行動せねばとは思うものの、本当にこれでいいのかと問う自分もいる。




