2
「彼は、篝人形と言って、心を持たない――いや、心を失くしてしまった人間だよ」
「人間? 如何して人間が天界に?」
「遥か昔、天界にも人間が居たと話したことがあるだろう? その残りの人間だ」
ミサイドにもっと詳しい説明を求める。
少年は如何して天界に居るのか。
少年は一体何者なのか。
珍しく激しい興味に揺さぶられた私は、ミサイドに問う。
「あれは、人間が文明を築きだした頃のことだ。人間たちは戦いによって自分たちの国の領地を広げるためや、国を守る為に争うことをしていた。そんな中、地上に『英雄』と呼ばれる人間が出現し出した。英雄と呼ばれる人間たちは、自分の為だけに行動する他の人間たちとは違い、他人の為だけに行動する人間だった。彼らは驚異的な強さを持つ。それは、彼らが神々のチカラを少量ながら持って生れてきたからだ。何故彼らに神々のチカラが宿ったのかは、未だに解っていない。多分、その理由は初代創造主にしか解らないだろう。まあ、解らなくても解っていても、英雄たちが人間の中で特別な存在になったのは紛れもない事実だ。そして、英雄たちは神々のチカラを、やはり他人の為に使った」
「そうやって、英雄たちは何度も人間を正しき方向へと導いた。けれど、英雄であっても、人間は人間でしかない。創造主から与えられた寿命を迎えると、皆死んでいった。死は、逃れられないものだからな。何人もの英雄が生まれ、何人もの英雄が死んでいった。そうして長い時間が過ぎ、英雄の中でも、特別な英雄が生まれてくるようになっていった。それが、天界で言う『人形』だ。英雄が地上で死んだ後、天界で文字通り人形となって新たな存在となり、永遠を生きるようになった。篝人形も、その特別な英雄のひとりだよ。正確には、英雄だった。地上で死んだ篝人形は、天界で生きることになった。勿論、無理に天界で生かすことはしていない。篝人形自身が望んだことだ。しかし彼は、人間であった時の記憶を穢れとして封印した。よほど地上で嫌なことでもあったのだろう。強力なチカラで記憶を封印し、その反動で心を失った。心を失った篝人形だが、自分の役目だけは果たそうと、この部屋を作ったのだよ」
ミサイドは少年の頭から手を離し、オブジェのような三つの歯車の、真ん中の歯車をコンコン、と軽く叩いた。
ミサイド曰く、この部屋にあるものは、天界で想像して作った幻ではなく、全て地上の存在する物で作られているという。
そしてミサイドは部屋中を眺め、左手を頭上に掲げる。




