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神が創りしこの世界  作者: 小林マコト
死んだって幸せ。
34/45

 私らしくないくらいに、悲しくなってきたとき。

 最近はご無沙汰になっていた声が聞こえた。


「その必要はないよ、シャルル、ソフィーさん」


 現創造主、アレクサンドル。


 声が聞こえたと思うと、アレクが現れた。ふいに何もないところから現れるのは慣れているので気にしないけど、なんか身長高いな、と思ったら少しだけ浮いていた。そして、とん、と真っ黒になった床に着地。

 無邪気に楽しそうに嬉しそうに笑うアレクは、重たい空気が流れていたこの空間に似つかわしくない。


「ミサイド、シャルル、ソフィー、三人にとってもボクにとってもいい知らせだよ」


 にこにこと明るく話す。

 ミサイドは何か察したみたいで、少し表情が明るくなった。


「ソフィーさんの冥界行きはナシ! よってシャルル、もう泣かないでよ。きみが半泣きなんて絶対悪いこと起こるからさ!」

「……本当か?」

「本当だよ! ボクが嘘ついたことある?」

「……結構あるだろ。俺が天界にいたときとか特に」

「大切なときには言わないもん」

「……なら、本当なんだな? ソフィーは俺の所に来なくていいんだな?」


 よかった……と息を吐くシャルルは、本当に安心したようだった。

 一人だけよくわかってない私は、ただ喜んでいるアレクを不思議なものでも見るような目で眺めるしかなかった。


「色々あってよく理解が出来ないので説明よろしくお願いします」


 思わず敬語でそう問い頭を下げると、三人ともに笑われた。

 さっきまでの重い空気はどこに消えたのか。まるでそんなことなかったかのように明るい。


「ソフィーのチカラは強くてね、本来ならソフィーさんの決めたことは誰にも覆せないんだ。だけど、天界のみんなのチカラを使ったら、たまたまソフィーが精神的に揺れたときにぶつかって、決められたことをなかったことにできたんだ」

「……とりあえず、私は冥界に行かなくてもいいってことですか」

「そう。行かなくていいんだ」


 なんかよく分かってない私をよそに、アレクは嬉々としてミサイドやシャルルに「もうしばらくは安心だよ」とか「一旦は活動停止してるみたい。自我も戻ってるしね」とか言っている。まったく意味が分からん。


「ちょっと待て。じゃあ私はこれからどうなるんだ」

「天界に」

「……え?」

「だから、天界にいるの。天界で暮らすの」

「それってどういう意味?」

「そのまんまだよ。ミサイドの監視の下、天界で暮らすの。まあ、天界だから監視はあんまり必要ないと思うけど。悲しいかな、あんまり長くはいれないだろうけど、まあ、しばらくは、天界で暮らすことになってるよ」


 ぶっちゃけ、冥界行きの説明をされたときのほうがまだ理解出来た。

 でも流石に私のような普通の人間――いや、感情が足りない普通の人間以下の存在がいきなり天界で暮らすとか言われても理解できるわけがない。理解できると思うやつは、多分嘘ついてるだけだ。理解できるわけがない。


 そもそも私は、本当に何をしてしまったのだろう。

 冥界に行くのならまだしも、天界にいることを許されるなんて。


「ソフィーさんが死んでしまったのは、ボクの管理が悪かったせいだよ。ごめんね」


 アレクが謝罪するも、笑っているのでどうにも心がこもっていないように思える。

 謝るときくらい、真剣な顔しようよ。


「……じゃあ、俺はそろそろ冥界に帰る」


 そうシャルルが言うと、シャルルの足元から、元の白が広がっていった。


「……ソフィー」

「はい」

「……今度は、もう穢れたりしてはいけないよ。ソフィーは、俺たちにとって、特別だ」

「どういう、意味?」

「……まだ、わからなくてもいい。けど、これだけは、覚えておいて」


 ミサイドがシャルルを睨む。何故だかわからないけど、シャルルを睨んだように見えた。

 それもおかまいなしに、シャルルは続ける。


「俺は――俺たち天界に住む神や天使は、何があっても、ソフィーの味方だ。たとえソフィーが死んでも、ソフィーが穢れても、冥界に堕ちなくてはいけなくなっても、俺たちは、ソフィーの味方だ。だから、困ったことがあれば、いつでも言っておいで。俺たちは、少なくとも俺は、何よりも先にソフィーを助ける。何があっても、必ず。どんな些細なことでもいい。俺たちに頼って。俺たちはそのためにいるんだ。そのために存在しているんだ。忘れないで。ソフィーは特別だけど、特別な存在にして、一般的な存在なんだよ。ソフィー、ソフィーは覚えていないだろうけど、自分が思っている以上に、ソフィーは、特別なんだ。だから――」


 シャルルが喋っている間にも、白は広がっていく。先ほどとは打って変わり、今度は白が黒を飲み込んでいくようだった。


「――絶対に、忘れないで。次、ソフィーが記憶を失ってしまえば、俺たちは存在し続けることができなくなるかもしれない」


 私の目を真剣に見つめ、シャルルは言った。

 それから目を離すことができない雰囲気になっていたため、私は、どうしてそこまで私という存在が特別なのか、またも混乱するだけだった。


「シャルル、そこまでにしておけ。君の体力の限界だ。もう冥界に帰れ」

「そうだよ、シャルル。きみが冥界にいるのは、きみの体を保たせるためだろ。ここに来るだけでも負担がかかっているんだから、もう無理はしないで」

「……わかってる。ソフィー、じゃあ、また会えるまで」


 そう言い残し、シャルルはすっと消えてしまった。

 なんだったんだ今の、と思いつつ私は残ったミサイドとアレクに目をやる。とてつもなく不思議な感覚に襲われながら、必死に状況を理解しようとする。


「えっと、とりあえず、私は冥界には行かなくていいと」

「うんっ!」

「へ、へえ、そうなんだ……」


 きらきらした笑顔でそんなこと言われてもなあ。

 理解出来ないものは出来ない。


「理解なんてしなくていいんだよ。理解出来るときは出来るものだからさ。それよりソフィー、天界に行こう。ボクすっごく嬉しいんだ、ソフィーさんと一緒に暮らせるの。ボクね、いっつも思ってたんだ。またソフィーと暮らせるならどんなに楽しいだろうな、って」

「また?」

「あ、ごめんごめん。言い間違えただけだよ、気にしないで。たまにあるでしょ、言い間違い」


 楽しげに笑うアレク。

 ミサイドに目をやると、どことなく嬉しそうにしていた。


「クールぶってんじゃねえよ、ミサイド。ほんとは私が冥界に行かなくてよくなって嬉しいんだろ?」


 そう茶化してみると怒られた。

 ものすごく怒られた。


「あははっ、楽しくなりそうだね!」


 アレクの言うとおり。

 しばらくの間だけみたいだけど、楽しくなりそうだ。



     死んだって幸せ  完


(あんまりふざけたことを言っていると潰すぞ)

(うっわ潰すとか酷い。神サマが言うことじゃない)

(でもそれでこそミサイドらしいよね)


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