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「どこから説明したらいいのかよくわからないが、とりあえず最初から話そう。君はその特別な体質のせいで、常に存在自体がぐらぐらと揺れているんだ。私たちのような神や天使のような存在や、悪魔、人間たちの言う霊的なもののような存在と人間のような存在との間を、ぐらぐらと揺れ続けている。だからこそ、私たちが見えると言っても過言ではない。そして君は、人間という存在でありながら、私たちと同じような、チカラを持っている。君が死んでしまった理由も、それに関係がある。覚えていないだろうが、君は夢を見てしまったんだ。その内容は言いづらいが……。簡単に説明すると、君は私が初代創造主に創られた日の夢を見てしまった。その夢から目覚めた君は、私の記憶を無意識に自分の中へ取りこんでしまい、精神状態が不安定になって、存在までも今までにないほど揺らしてしまった。そこで、君は一時的に神と同等――いや、それ以上の存在になってしまったんだ。その間の記憶は多分、君の中には残っていないだろう。人間のキャパシティーを大幅に超えてしまっているから、無理もない。その上、君の中に他の人格が芽生えてしまった。もはや人間ではなくなった君は、新しく芽生えた人格と、以前からあった本来の人格が入れ替わり、思わぬ行動に出た。君は、外に出て揺らいでいる存在を感じ取った。そのままその存在の前に現れ、その存在を事実上助けた。助けた後、存在が揺らぐ原因となった人物の元へと行き、その人物が揺らいでいる存在だと知ると、その人物をも助けた。しかし、助けたことにより、以前からあった本来の存在の、そこに在り続けるチカラを失ってしまった。そこに在り続けるチカラを失ったということはつまり――」
「死んだ、ということだね?」
ミサイドの言葉を遮ると、ミサイドは頷いてくれた。
確かに、ミサイドが言ったとおりだった。
かなり意味が理解出来ない。いや、意味は理解出来ても、よくわからない。
存在自体が不安定だとか、ミサイドが創られた日の夢を見たとか。
揺らいでいる存在、というのもよくわからないし、百歩譲ってそれを見逃したとして、誰かを助けた覚えもない。
ミサイドが創られた日の夢を見たことを覚えていないのがすごく惜しい。覚えていなかった自分が情けない。ちくしょう見たかった。
まあ、私が特別な体質だってことは前から聞いてたし、存在自体が不安定だ、というのはなんとなくありえるんだろうなーとは思う。
予想外なことに、私はあまり混乱しなかった。
これも想定内だった、とでも思えるような。それほど冷静なままだった。
「そうか、私は一応、誰かの役に立てたんだね。ならいいよ、死んでいたって。覚えてなくたって。それでいいさ。役に立てたなら」
軽く笑いながらそう言うと、二人は余計に悲しそうな顔をした。シャルルにおいてはもう半泣き状態だ。ずっと無表情だけど。
本当は、私だって泣きたかったり。
私の人生は、とても退屈で、とても楽しかった。
面倒だ、とか。疲れた、とか。
そんな文句が言えた人生を送っていられたことが、幸せだった。
今思うと、私なんかにはもったいないくらい、楽しすぎた人生だ。
できることなら、死にたくはなかった。
後悔、とまではいかないけれど、まあ、死にたくなかった。
なんで死をわざわざ選んだんだろう。
誰かを助けるためでも、なんで自分を守らなかったんだろう。
「……そろそろ、行かないと」
シャルルが私に手を差し出した。
この手を掴んでしまえば、きっともう戻れない。
私が選んだ道の終わりに辿り着くまで、戻れない。




