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そして唐突に彼女と彼の物語は終わりを迎える。
何がどうなっているのかわからぬまま、ただひとり天界に残された現創造主のみが、その物語の全貌を知っていた。
世界は終わる。
崩壊を見つめる現創造主は、一体何を思ったのだろうか。
気が付けば、私は死んでいた。
白い空間にいて、そこには何もなくて。
唐突にこんなことを言われても混乱するだろうけど、紛れもなくそれは事実であるため、混乱しても私のせいではないので苦情はどっかの黒い神サマにでも言ってもらいたい。
まあ、黒い神サマっていったらミサイドだけど。
どうしても苦情を言いたいと思う人はミサイドに言ってほしい。多分それは尋常じゃないほどの勇気が必要だろうけど。
ミサイドって鬼畜だし。
苦情を言ったところで、絶対聞いてくれないだろうし。
そのミサイド本人は、私の前にいる。
これまた唐突なので混乱を招くだろうけど、紛れもなく事実なので勘弁してほしい。
というか、私も混乱してるのでそれで勘弁してほしい。
「……本当に何も覚えていないのか?」
怪訝そうな顔をして、ミサイドが私に確認する。
何回か言葉を変えて同じようなことを確認されたため、私はもう面倒に感じてきて適当に返しておく。
そもそも、私は死んでる感覚がない。
だけどミサイドが私は死んだのだと説明してくれているから、きっと私は死んだのだと思う。
不思議と、すんなりと受け入れられた。
元々生きるということにあまり執着はなく、目的――というか、やるべきことのためだったら死んでも構わないと思っていたからだろうか。いや、多分それだけじゃないだろう。
私は、生きることにも死ぬことにも関心がなかったからだろう。
なるようになればいい。死ぬべきときは死ぬし、生きるべきときは生きている。ただそれだけだと思っていたから。
だから多分、私はすんなりと受け入れられたのだと思う。
そこに喜びも悲しみもない。
ただ、受け入れるだけ。
「私は一体、何をやらかして死んだのさ」
死んだことを受け入れることはできた。
けれど、理解はできない。
理由なしで死ぬはずはない。死んだ理由が解れば、きっと私のやるべきことが解るだろう。
こうして存在を保っているのだから、何か理由があるはずだ。
「何をやらかしたか、と訊かれてもな。君はとんでもないことをやらかしてしまったよ」
「それ、どういう意味?」
「説明しても無駄だろう。どうせもうすぐ迎えが来る」
「……迎え?」
「ああ……気にするな。いずれ解る」
そうはぐらかすミサイドは、どこか悲しげだった。
「どういうことなんだよ、ミサイド。私は何をしてしまったんだ?」
「説明したってどうにもならない。もう君は、選んでしまったんだよ」
結末の予測が不可能な『物語』になることをね。
何のことだかよく解らなかった。
ただ、ミサイドですら予測出来ない結末、ということは、私はきっと大変な〝結末〟を選んでしまったみたいだ。
何のことだかよく解らないけど。
多分、良くないことだろうと思う。
ミサイドがこんなにも落ち込んでいるのだから。
「私は落ち込んでなどいないよ。彼女は神に感情を与えたりはしなかった」
「でも、ミサイドは落ち込んでるよ。少なくとも私には落ち込んでいるようにしか見えない」
「……はっ。笑わせるな」
――今日は、ミサイドの機嫌がすこぶる悪い。
機嫌が悪そうだとは初めから思っていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。
今までに見たことがないくらいに、機嫌が悪かった。
それは私がミサイドのチカラをもってしても見えない未来を選んでしまったからだろう。
ミサイドは私の監視をしているのだ。彼の目の届かないところへ行ってしまうようなものだから、仕事を邪魔されるようで嫌なのだろう。
ああ、私は一体何をしてしまったんだ。




