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「見つけ、た?」
「そう。彼女を見つけた。もっと正確に言うなら――」
あ、だめだ、この先は聞いてはいけない。
私の中で警報が鳴り響いたのも束の間、彼は続けて言ってしまった。
「――彼女の正体を、暴いたんだ」
どくん。
心臓が嫌な跳ね方をする。
余談だが悪魔にも神にも天使にも心臓があるんだ。必ずしも急所ということではないけれど。
「彼女は個ではなく」
「やめろ……」
「彼女は全でしかなかった」
「やめろ!」
やめろ、それ以上言うな。私に向かってそんなことを言うな。
彼女は個ではなかった? 冗談も大概にしてくれ、彼女が全でしかなったなんて信じるか、信じられるか。
彼女が、だろう? 彼女が個ではないんだろう? 彼女が全なんだろう?
そんなのあり得ない。彼女がそんなわけないじゃないか。
「君も本当はわかっているんだろう? 彼女がそうでしかなかったことくらい。私より君の方が、彼女のことをよくわかっているはずだ」
「し、知らない……」
私は、彼女のことなんて何も知らないんだ。
私を創った彼女のことも。
私を存在させた彼女のことも。
何も知らないんだ。
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ! 彼女が全だなんて、彼女が個じゃないなんて! 認めない、私は絶対に認めない」
「嘘じゃない。認めろとは言わない、受け入れろとは言わない。だからせめて、受け入れてくれ」
この件はもう、何回も見たんだ。
もうそろそろ、受け止めてくれ。
「帰って来てくれよ……」
彼はそう言った。
悲しそうにしながら。
辛そうにしながら。
苦しそうにしながら。
混乱してぐるぐると頭が回るような感覚に陥った私をぎゅっと抱きしめ、この世界に繋ぎ止めようとするかのように、必死に言い聞かせた。
違うよ、違うよと繰り返す私に、違うのは君だ、と繰り返す彼。
と、そうしていると何やら身体がおかしくなった感覚が。
彼から少し離れて咳込む。おかしい。何かがおかしい。
私は身体だけは丈夫なんだ。人間の真似事をして人間の身体のつくりと同じようにしていると悪魔でも死にはしないが病気にはなるのだが、私はそれでも風邪一つひいたことがないんだ。
なのに、身体がとてもだるい。
違うな、だるいんじゃない。感覚がなくなっていくんだ。意識が朦朧としていく。
「大丈夫か、ソフィー」
ミサイドが心配して私に近寄ってくる。
駄目だ、今は私に触れてはいけない。
でもどうしよう。身体が言うことを聞いてくれない。動いてくれない。
どうしようどうしよう。もう少しで彼が私の肩に触れてしまう。どうしたら、一体どうしたら彼が私に触れずに済むんだ――
――そうだ。
消滅してしまえばいいんだ。そうすれば、彼が、救える。
「ソフィー!?」
私の身体が彼が触れようとした肩から砂になって消滅していく中、ふと見上げた彼は涙を目に浮かべながら私を救おうとしているのが見えた。
あれ?
神って、泣けるんだっけな?
神様の涙 完
(また間違ったのか?)
(いや違う、間違ってはいない)
(物語を、進めてしまったんだ――!!)




