2
「ミサイド様、貴方は私の失われた記憶を取り戻す方法を知っていますか」
ふと思い付いて私は彼に尋ねる。
この世の全てを知っているという彼なら、記憶を取り戻す方法を知っているかもしれない。
淡い期待だが、それに縋る他、私に選択肢はない。
「残念だが、ソフィー、私は君を助けることはできない。神だ悪魔だは関係ない。ただ、そういう決まりなんだよ」
少しだけ落ち込む。なんだ、ミサイド様でも教えられないのか。
その落胆を感じ取ったのか、彼は私に優しく微笑んで「大丈夫だ、いずれ元に戻る。焦らなくてもいい」と言ってくれた。
「ソフィー、私のことは呼び捨てでいい。君にそう呼ばれるのは違和感がある。あと、敬語もいらない」
「え、ですがミサイド様。私は穢れた悪魔です。貴方のような方にそのようなことは……」
「私がいいと言っているんだ、構わない。姿勢の低い君は君らしくない。君は神をも恐れぬ態度を取っていただろう」
貶されたようでむっとしたけれど、それは事実だから言い返せない。
私は周りから怖いもの知らずだと言われてきた。どうしてそう言われるようになったのかは知らないけれど、気づいたときにはそう言われていた。
だからきっと私は怖いもの知らずなんだろうし、神をも恐れぬ態度を取っていたのだろうと思う。
「……じゃあ、ミサイド。どうして私を引き止めたんだ? 話があるんだろう?」
「ソフィーはそっちの方がいいな。――改めて、久しいな、ソフィー」
ふっと笑って彼は言う。
そしてその瞬間、私たちがいた場所は真っ白な何もない空間へと化し、眩しいくらいのその白は悪魔である私には目に毒だった。別にダメージを受けるほどではないけれど、それでも、その白は私の目を潰すかと思えるくらいに眩しかった。
多分普通の悪魔ならば、見てすぐに目を潰されていただろう。
私以外の、悪魔であれば。
私は悪魔の中でもイレギュラーな存在なのだと誰かに聞かされた。
誰に聞かされたのかは覚えていない。けれど、その誰かは相当な力を持っているため私はその信じ難い言葉を素直に信じたのだということだけ覚えている。
イレギュラーな神とイレギュラーな悪魔。
彼と私は、少し似ている。
神と悪魔を同等に扱ってしまってはいけないのだけれど。
ふと、そう思ったのだ。
「さっきからずっとそうやって、久しいとばかり言っているな。私はミサイド、お前と会ったことがあるのか?」
「ああ、そのことも忘れてしまっているのか……。まあいい。私と君は昔からの知り合いだよ」
知り合い、だったらしい。
まったくなんてことだ。私は悪魔の分際で神であるミサイドと知り合いだったなんて。
しかも昔から、ときた。昔の私は一体どんなやつだったんだ、恐れ知らずにもほどがあるし、それを受け入れたミサイドもイレギュラーとはいえどうして拒絶してくれなかったんだ。
神と悪魔は、一緒にいてはならないのに。




