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どれだけ人間としての私の人格が育とうとも、神としての私の人格は消えなかった。
神としての私は、人間としての私の中に溶けていき、やがてひとつになって、どっちつかずの私が生まれた。
半分、神。
半分、人間。
この世界にふたつとない存在となってしまった私は、世界から切り離されていたことに気付かなかった。
私は人間として、神が創った幻想の中で生きていたんだ。
なんて滑稽なんだ。
もうワタシなんて存在は、どこにもなかったのに。
そこにワタシが居ると信じて。
そこでワタシが生きていると信じて。
ミサイドという存在は、本当にあったのだろうか。
もしかしてそれも、この幻想の中で神が創った存在なのだろうか。
それだけは、やめてほしい。
ミサイドには沢山助けられた。
助けられたんだ。
だから、ミサイドは昔の神が創った真実に存在していてほしい。
創造主としての権利をなくした今となっては、確かめられないのだけど。
私はそっと目を閉じる。
もう忘れてしまった、世界の創り方を思い出すんだ。
すべての存在を創った、あのチカラの使い方を。
思い出せ。
思い出すんだ。
今度は、私という存在はいらない。
ミサイドという存在さえそこにあれば。
それだけでいいんだ。
あのチカラを使えたら、きっと真実のシステムに介入することができるだろう。
確かめるんだ。
ミサイドが存在するか。
それで、真実にミサイドが存在していなければ、ミサイドという存在を創りだしたはずの時間に戻って、ミサイドを創る。
それだけ。
それだけでいいんだ。
けれど私は、そのチカラの使い方を思い出せない。
どうして。
ずっと、使っていなかったからだろうか。
いや、違う。
現創造主が邪魔をしているんだ。
あの、金髪の神。アレクサンドル。
あいつが邪魔をしているんだ。
今思えば、あいつの気配はこの幻想のものではなかった。
私が創りだした、真実のものだった。
あいつの邪魔さえ振り払えば、きっと。
邪魔されている。
私が真実に介入しないように。
あいつが。
創造主を交代する制度を作ったのが悪かったのか。
私のチカラの9割を、代々創造主に渡すという制度。
あれを作ったからか。
返せ。
それは私のチカラだ。
……嗚呼。
こんなことはやめよう。
きっと、あいつも分かってくれているだろう。
ミサイドくらいは、存在させていてやりたいという、私の気持ちを。
思えば、私は神であったときから自分が嫌いだったのかもしれない。
神が自分自身を嫌っているなんて、おかしな話だとは思うけれど、私は私が嫌いだった。
多くの存在を創りだしていった中で、私という存在が薄れていった。
私という存在を認識しない者たちが増えていった。
創造主が認識しない存在は、消えてしまう。
そこに何もなかったかのように。
逆に、創造主の存在を認識しない者が増えると、創造主が消えてしまう。
自分が創ったものに、忘れられてしまうから。
私は必死に認識してもらおうと行動した。
けれど、それは無意味だった。
ミサイドが歴史に介入できないのと同じで、私は世界の裏から世界をまわすことしかできないのだ。
私はあまり私自身が変わっていくことが好きではないから、私はいつも元々の私で居ようとしたのに、ミサイドや、他の存在たちが変わっていくから、私だけが変わっていくように見えて、それがとても嫌だった。
私だけが、取り残されているようで。
嫌だった。
今になれば、そんなのどうでもいいのだけど。
当時は、反吐が出るほど嫌だったのだ。
反吐なんて出ないけど。
すべてを創りだすチカラなんて、いらないと思っていた。
今だっていらない。
そんなチカラがあったって、私は私が守りたい者を守れなかったのだから。
創りだすのは簡単だった。
管理するのが大変だった。
でも、守りたかった。
私が創りだしたすべては、とても大切なものだから。
守れない自分が嫌いだった。
それでも、やっぱり私は分かっていて。
創りだす私も。
守れない私も。
両方とも、私という存在なのだと。
分かっているから、余計に辛かった。
どうして守れないのか、と。
分かっているなら守れよ、と、自分に向かって叫んだ。
今の自分には無理だと分かっていたけれど。




