1
いつまでたっても彼女は見つからない。一番彼女を探そうと躍起になっていた彼も、もうそこまで焦っているような素振りを見せなくなった。
現創造主は信じろ言ったが、神々はもう我慢の限界だった。信じる事がいい結果を生むとはよくわかっている。しかし彼を信じる事は、もう困難だった。
あの日は、しとしとと静かに雨が降っていたのを覚えている。
長い眠りから目覚めたような感覚を感じながら、私はこの世界に降り立った。
そう。
私は雨の日に彼女に創られた。
森のようなところに、彼女と私は居た。
木々の隙間から、雨粒がぽつぽつと降っている中、彼女は木陰に隠れようともせず、雨に濡れていた。
悲しげな表情をして。
下を向いていた。
私は、彼女を一目見て気付いた。
彼女が私という存在を創りだしたのだ、と。
そっと彼女に声をかけると、彼女は驚いていた。
そして、彼女はとても嬉しそうに微笑んで、私に「ミサイド」という名を与えた。
それから、彼女と私は多くの存在を創りだした。
私が創られる前に創られていた、天界と地上に、沢山の存在を創りだした。
冥界は地上に『命』を持つ存在を創った後に、創りだした。
神。
天使。
悪魔。
植物。
動物。
そして、ヒト。
彼女は沢山の存在を創りだした。
次第に彼女は大きな存在になっていき、彼女が存在しなければ、世界は壊れるようになった。
世界が穢れたら、彼女自身に影響を及ぼすほどになった。
彼女がそれほどまでに多くの存在を創りだした理由を、私は知っていた。
知っていて、止めなかった。
私は彼女を認め、正当化しなければならない存在だったから。
彼女はヒトを羨んだ。
ヒトを羨み、彼女はヒトになりたいと願った。
しかし、それは許されない。
彼女は全知全能の神である。
この世界に存在するもの全ての創造主である。
ヒトのように愚かなものになるわけにはいかない。
彼女は、神なのだから。
それを知っていてもなお、彼女はヒトになりたがった。
なれないのなら、せめてヒトを幸せにしようとした。
彼女はヒトの罪を肩代わりした。
そして彼女は、堕落した。
記憶を失くし、
チカラを失くし、
神としての存在を失くした。
私はそれでも、彼女を認め、正当化した。
それが正しい行為だと。
彼女に言い、過ちをも正当化した。
私は堕落した彼女の穢れを浄化し、天界に戻した。
何度も、それを繰り返した。
そうする度に、彼女は私に訊くのだ。
「私は正しいことをしているのだろうか」と。
それに私はいつも、こう答える。
「君は間違っていない」
「君は正しい」
何度もそう言い聞かせる。
何度も何度も。
彼女が安心するまで。




