序章 六 「強制転送」
―――アークガルド魚勝店
アークガルドで魚屋を営んでいる酒居一平は店先の椅子に座って一服していた。
隣には妻の酒居雫も座っている。
二人共、昼時の忙しい時間帯を終えのんびり休憩している。
「しっかし、サーバーメンテとはなぁ・・・珍しいこともあるもんだよなぁ」
「うんうん、珍しいよねぇ。今回ので3回目位だよね?」
雫がニコニコと相槌を打つ。
「おう、ゲーム開始初日とあと、半月ほど前だっけか?」
「そうそう、確かアレスガルドの街がいきなりおかしくなったんだよね。地面とか建物がなんか気持ち悪くなったとか飛ばされてきた人が言ってたよね」
「その後、強制的にすべてのプレイヤーがこの街に全員飛ばされて来たっけな。ありゃ、さすがの俺もびっくりしたわ」
一平が腕組みをして空を見上げる。
「うふふ、でもそれって明らかにプレイヤーの保護のための強制転送だよね?」
「まぁ、そういうことになるんだろうな・・・ったく、変な所の機能だけはしっかり生きてやがる・・・」
「んー」
雫も腕組をして空を見上げる。
「ん?」
「んー、でも少し遅れて転送されて来た人はなんなんだろうね?」
「あー、あいつらは闘技場でモンスターと戦っていたらしいぜ。んで、戦闘が終わると同時に転送されたってさ」
「ほー、それは初耳。じゃあ、戦闘中は強制転送されないってことかな?」
「そうなるだろうな、今回はCの7だから・・・ウツロのフィールドか。
誰かがモンスターと戦ってたとしても大抵は10分も逃げればリンクが切れるからな。
逃げまわって戦闘状態が解除されれば即転送だ」
「だよねー、うん、良かった良かった」
「ふー、でも何かの間違いで転送されなかったらどうなるんだろうな・・・」
「さぁー?」
――――???
「―――ッ!??」
落ちるッ!!
訳が分からずに、落下の恐怖に怯え全身が自然に縮こまる。
だが、すぐに足元に柔らかい感触が伝わりどこかに着地したのだとわかる。
「ふぅ、・・・」
俺は軽く尻もちをつきながらゆっくりと目を開け周りの状況を確認する。
「・・・・・・・・・・・・」
声が出なかった。
俺は空中の何もない空間に尻もちをついていたのだ。
・・・・・・・・・
それから10分ほど慎重に慎重を重ねて検証した結果、やはりこれは透明な地面だという推測に至った。
あと、おそらくこれはゲーム内のオブジェクトの隙間をすり抜けて裏世界にハマっている状態だろうと。
通常のゲームでもこういうバグは存在する。
それは人間が作っている限り仕方のない事だ。
先ほどの鯖落ち、メンテナンスが原因の一端を担っているのは間違いない。
まぁ、俺には確認する手段は無いのだが。
っていうかよく消滅しなかったな俺。
このゲーム、イレギュラーな事柄からのプレイヤーの保護に関してはかなり強固なんじゃないか?
「ただ、・・・あとはどうするかだよなぁ・・・・・・」
俺は前後左右と真下を改めて見る。
いずれも空色に塗りつぶされている。
何も距離感を測る目標物が存在しないのでどの程度の距離なのかわからない。
まぁ、見えてるのは世界の端っこなんだろうけど。
続けて―――頭上を確認する。
およそ、10メートル程の距離に先ほどの坑道が見える。
打ち捨てられたカンテラやヘルメット、トロッコや古ぼけた採掘道具が坑道の床に散乱しているのが見える。
少し視線をずらせば先ほどのウツロの山岳地帯を下から眺めることが出来る。
ただ、そこに登ることは出来ない。
何しろ間には何もない空間しか無いからだ。
俺は地面の透明な床を手で触って確認する。
今自分が座っている地面も地上の地面と同じくある方向からの視覚透過処理が施されているのだろう。
「だがなぁ・・・地面が見えないからどこからどこまでが安全なのかわからないんだよなー」
言うなればここは限りなく透明なガラス板の上だ。
足を踏み外す、もしくは地面が崩落する、オブジェクトの隙間、境目・・・ここは通常のフィールドとは違いプレイヤーの安全対策など一切講じられていない裏世界。
今度落ちたらそれこそ永久に落下し続ける事も有り得る。
「だが、こうして永久に座っているわけにもいかない」
俺は慎重に慎重を心がけて一歩一歩手で触って確認しながら進む。
この裏世界から脱出するために。
むー




