序章 四 「帰路」
「うーん・・・やっぱり行かざるをえないよなぁ」
俺はアークガルドから北西にあるウツロの山岳地帯で思案していた。
アークガルドからおよそ30キロは離れているだろう。
勿論、徒歩では無く各地に点在する転移石にて一瞬で転移してきた。
此処から先はアクティブモンスター、即ちいきなり襲ってくるモンスターが配置されている危険なエリアだ。
ちなみに俺の戦闘基本職のレベルは『剣士LV1』である。
当然ここらへんのアクティブモンスターとまともにやりあえるだけの力は無い。
だが、銀原石を手に入れるにはもはやこういう危険なエリアを探索しなければならないと俺は決意していた。
「まぁ、アレがあるから多分大丈夫だろう」
俺はとりあえず恐る恐るといった感じで薄暗く生気の乏しい山岳地帯に足を踏み入れた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「グゥルルルルルゥゥゥゥゥ・・・・・・・ハフッ、・・・・・ハッ」
内臓の腐ったような生臭い息を吐きながら『腐病牙犬』の一群がこちらに向かってくる。
体毛が禿げかけた小汚い身体に口元から2本の大きな牙を生やした犬型のモンスターだ。
その牙からはだらだらと得体のしれない液体が分泌されており、間違っても自分の身体でその効果を確かめたいとは思わない。
俺はとりあえずいつでも逃げれるように色々な逃走用の道具を用意しながら待つ。
(うっげぇぇえ、近くで見るとキモい上に臭い・・・・・うううううう)
歩く度に腐れ膿んだ傷口から白い物が顔をのぞかせうねうねと動く。
発作的に鼻を押さえてこの我慢出来ない匂いを遮断しようとするのをこらえる。
補助スキル―隠密外套の効果は完全ではない。
あくまでもモンスターから見つけられにくくなるだけであって100%見つからない訳ではない。
そして、モンスターに近づけば近づくほどその効果は減衰する。
身動きしないに越したことはない。
・・・・・・・・・
「ふぅ・・・」
『腐病牙犬』の一群が完全に見えなくなってから俺は大きなため息をつく。
だが、これでこのエリアの探索ができることがわかった。
後は銀鉱床を見つけるだけだ。
俺は探索を再開する。
・・・・・・・・・
・・・・・・
探索はあっけなく終わった。
いきなり目の前に銀色に輝く銀鉱床がポップしたのだ。
何たる偶然。なんたる幸運。
俺は素早く金ピッケルを取り出し採掘を挑む。
あれだけ探しまわった、恋焦がれたと言っても良い銀鉱床は俺が操る金ピッケルの前にあっさり陥落した。
足元にごろりと銀色の鉱石、銀原石が転がり落ちる。
「やった・・・・・・・・よっしゃぁああああああああっ」
俺は喜びのあまりガッツポーズを決める。
そして、素早くインベントリカードに銀原石を収納する。
「ふぅ、・・・・・・やった。俺はついにやってやった・・・・・銀鉱床をやってやったぜ。俺超スゴイっ」
誰も褒めてくれないので自分で自分を褒めて上げる。
それから先は本当に今までの苦労が嘘のように順調だった。
順調すぎるほど順調だった。
みるみるうちに銀原石のストックが増える。
そして、日も傾きはじめた頃には俺のインベントリカードには大量の銀原石が収められていた。
勿論全て『Ruby』に卸すつもりだ。
最初の1つは誓約書による自動譲渡となるだろうがこの大量の銀原石の前にはもはや小さき事。
「さすがにこれだけあれば十分だろ。時間も時間だしな。
それにこういうのはあんまり欲張りすぎて深追いしすぎると碌な事が無い。
そろそろ帰るとするか・・・・・・・・・」
俺は帰路についた。
・・・・・・・・・ついたはずだった。
次こそっ