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序章 三 「誓約」

「んー、拓也さん。困ったことをしてくれましたね・・・・・・・・・・・・」


牢屋の鉄格子越しに霜月が口を開く。

ここはアークガルド治安警備隊の詰所にある犯罪者収監用の牢屋だ。

勿論、牢屋に入っているのはPKをしたらしい俺、石金拓也(いしがねたくや)だ。

したらしい、と表現したのはなにより俺自身にその自覚がないからだ。

しかし、俺は現実に赤ネームの|Player Killerプレイヤーキラーとなってしまっている。

俺は今日幾度となく繰り返したセリフを口にする。


「俺はやっていないっ、本当だ。信じてくれっ」


「犯罪者ってみんなそういうんですよね・・・・・・・・・」


霜月の俺を見る目は冷たい、そんな・・・

不意に霜月がいたずらっぽく笑う。


「と、いうのは嘘で。まぁ、これは十中八九嵌められたと考えるのが自然です」


「!?」


霜月がなにやら半透明のウィンドウを幾つか呼び出して操作する。


ピコンッ


間の抜けたシステム音と共に牢屋の扉が開き、俺の頭上のプレイヤーネームは緑に戻った。


「おおおっ、おおっ、戻った、戻ったぁあああああっ」


途端に安心して全身の力が抜けヘタりそうになる。


「まぁ、ここではなんですので詳しいことはお店でお話しましょう」


勿論、異論はない。





―――-『Ruby』店内。


営業時間外の『Ruby』はいつもと違ってガランとしている。


「拓也さんは飲み物、何飲みますか?勿論、無料でいいですよ~」


「いや、ただの水でいいよ」


「んー、じゃあ、『アークヒルズのおいしい水』にしますね」


霜月が飲み物を二人分持ってきて対面に座った。

俺はそれを一口飲んでから質問する。


「いったい、どういうことなんだ?」


霜月は一拍おいてから口を開く。


「拓也さんが殺害(濡れ衣ですが)したのは『Ruby』で働いているNPC獣人です」


「NPC?プレイヤーじゃないんだ」


「ええ、勿論、獣人の中には本当のプレイヤーの方もいますが今回死亡したのはNPC、非プレイヤーのNPCです」


俺は多少安堵した。

が、その直後に安堵したことに軽い罪悪感を覚える。

NPCといえど実際の人間の思考パターンをキャプチャーしており、幾億もの思考の引き出しを持っている。

喜びもすれば悲しみもする、嫉妬もするし恋もするらしい。

実際、このゲームのNPCは人間と見分けがつかない。


「このゲーム内では厳密にはNPCは物、つまり所有アイテムとして定義されています。

しかし、一応人を模している亜人種ですから警備隊の管轄内で殺害すれば|Player Killプレイヤーキルとして判定されます」


「じゃ、じゃあ、俺の容疑が晴れたのはなぜだ?」


対面に座っている少女は少し悲しげにうつむく。


「厳密には晴れていません。拓哉さんの犯罪履歴には殺害の記述があるはずです」


えっ

急いでメニューを呼び出して犯罪履歴を確認する・・・・・・・・・あった。


「私がしたのは殺害されたNPC獣人の所有者権限による損害請求の取り下げです。

実際の所有者は『Ruby』ですが『Ruby』の権限は私が持っていますので。

それによって拓也さんが『Ruby』に与えた損害が消滅し、刑期も即時終了して釈放されたって寸法です。

ま、実際のプレイヤーを殺害しちゃった場合はこういう風にはいきませんが」


「そっかー、まぁ、とりあえず助かったよ。ありがとう」


俺は胸をなでおろす。


「いえ、それよりも拓也さんが無事でよかったです」


履歴は無事じゃねーけど、とは口が裂けてもいえないな。

俺はもう一つの疑問を口にした。


「先程、嵌められたって言ってたけど、それはどういう?」


霜月が軽くため息をついてから口を開く。


「一言で言いますと我が組織内での足の引っ張り合いです。

今回は銀原石(シルバー)の納品をめぐってのことだと思います。

うちが拓也さんという腕のいい採掘士と契約したことを知って焦って今回のような暴挙に出たのでしょう。

正直、ここまでやるとは私も予想できなかったです。

完全に私のミスです」


霜月が深々と頭を下げる。


「いやいや、俺もうかつだった。これからはもう少し気をつける事にするよ」


「それで、ですね・・・・・・・・・誠に心苦しいのですが、これを」


霜月がテーブルの上に一枚の紙を置く。


「誓約・・・書?」


「今回の件は私の権限で収めました。

ただ、なんの見返りも無しに拓也さんへの損害請求を取り下げた・・・と上層部に受け止められると私と拓也さんの関係を疑われます。

端的に申しますと、癒着しているのではないかとの疑惑を招きかねないのです」


なるほど。


「それで、拓也さんを信じていないようで申し訳ないのですが譲渡誓約書にサインを頂きたいのです。

拓也さんが『Ruby』に銀原石(シルバー)を納入するという確実な証が必要なのです」


「俺を助けたせいで霜月に迷惑がかかるのはまずいな。

いいぜ、誓約書でも契約書でもなんでも書くぜ」


「ありがとうございますー♪」


ここにきて初めて霜月がいつもの笑顔を見せた。


「まぁ、誓約書といってもごく形式的なものですから気軽にちゃちゃっとお願いしますです。

あ、ただ、文面はしっかり目を通した上で・・・ですよ。

このゲームでの誓約書は絶対ですから、もしかしたら奴隷契約なんて書いてあるかもしれませんよー?」


明るい色のツインテールを左右に揺らしながら霜月がいたずらっぽく笑う。


「ははっ、わかったわかった」


俺は目の前の誓約書の文面をじっくり読む。



・・・・・・・・・



「ふむ、要するに俺が次にランク7のアイテムを取得したら一定時間後にそのアイテムの所有権が金猫騎士団、具体的にはギルドマスターの荒木茂(あらきしげる)って奴に移るってことか」


「ですです♪銀原石(シルバー)のレアリティランクは7ですので」


「そうなのか?俺は実際に獲ったことが無いからわからんけど」


「はい、間違いありません。ですのでランク8やランク9のアイテムを取得した場合は今回の誓約書と無関係なのでどうぞご安心ください。

あと、ランク7のアイテムは銀原石(シルバー)以外にも幾つかありますが、採掘師の拓也さんにはおそらく関係ないとおもいます」


「そっか、まぁ、8とか9とかまず手に入らんだろ」


「わかりませんよー、拓也さんならすごい鉱床を見つけてカキィーンとっ」


「ははっ」


「あははっ」



・・・・・・・・・



そんな感じで誓約書に俺はサインした。

霜月は形式的って言ってたがさすがに俺がサインをするときにはいつになく真剣な表情をしていた。

若干ながら震えていた気もするが・・・誓約書ってそんなに緊張するもんかね。


「ふぅ、これでいいのかな?」


「はい、ありがとうございます。

あ、あと、誓約書による所有権の移転は拓哉さんが該当アイテムを手に入れてから一定時間後に自動で行われます。

ですので拓也さん側からのアクションは特にしていただかなくても結構です」


「ほうほう?」


「今回のケースですと拓也さんがランク7の銀原石(シルバー)を手に入れたら一定時間後に拓哉さんのインベントリから銀原石(シルバー)が1つ消えるって寸法です」


「え、1つでいいの?」


「ま、誓約書の上ではそうなりますが、これはまぁ、拓也さんが銀原石(シルバー)を入手できるかどうかの判定も含んでいると考えてください。

いわば手付みたいなものです」


「そっか、なるほどね。俺が銀原石(シルバー)をバカスカ獲って来てから初めて具体的な交渉に入るってわけか」


「はいな♪」


これは、是が非でも銀鉱石(シルバー)を手に入れなければならなくなったな。

霜月のため、そして俺自身の為に。

次でヒロインが出せたらいいな

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