序章 二 「双月」
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『アークガルド魚勝店』での一幕を追加。
「ちぃーす」
「・・・ちぃーす」
俺はいつもの挨拶と共に雑貨店『アイソー』の扉を開け店内に入る。
この店のオーナーである夜野博子はいつにもましてだらしなくカウンターに突っ伏していた。
博子は華奢な体つきだが胸はかなり大きい。
俺はその胸がカウンターに押し付けられて左右に押し広げられているのを極力見ないように努力する。
君子危うきに近寄らず。
こいつの色仕掛けに何度ひどい目に合わされたことやら。
俺は鞄の中からインベントリカードを取り出し指で軽く抑えながら命令を唱える。
「ALL OUT」
途端にテーブルの上に色とりどり、種々様々な原石が出現する。
「青銅原石、赤銅原石、鉄鉱原石などだ。
他にも隕鉄や鉛、亜鉛なんかも獲ってきた。
博子にはいつも世話になってるから言い値でいいぜ」
俺はこの店のライバル店である『Ruby』と契約したことに多少後ろめたさを感じていた。
だから、もし博子がスマイル0焉とかふざけたことを抜かしても軽く抵抗した後で折れるつもりでいた。
「・・・・・・・・・ふーん、いっぱいだねぇ。すごいねぇ。うれしいよぉ」
だが、予想に反して博子はこちらの目すら見ずにカウンターに突っ伏していた。
少し心配になって声をかける。
「どした?具合でも悪いのか? もしそうなら診療所で薬持ってきてやろうか?」
「んーん、別に具合は悪くない~」
「じゃあ、どうして」
「CARD OUT」
カウンターの上に光の粒子が集まり形を成す。
「これは・・・・・・作成したのか?」
「うん、鉄器作成スキル22でようやく作成できるようになったよ」
「そうか、すげぇじゃん。やったな」
カウンターの上には鉄ピッケルが置かれている。
以前の俺だったらめちゃくちゃ喜んだだろうな、と思う。
残念ながらというべきか、今の俺には『Ruby』で貰った金ピッケルがある。
しかも、印付きのレア物だ。
だが、せっかく俺の為にスキル上げをして生産してくれたんだ、ここは内心を隠して喜ばないと。
そんな俺の機先を制して博子が口を開く。
「拓也ぁ、ねんがんの鉄ピッケルをてにいれた・・・・割にはあんま嬉しそうじゃないよね?」
この店に入ってきて初めて博子がこちらに顔を向ける。
「やっぱり、金ピッケルを手に入れちゃったらもう鉄ピッケルなんてバカらしくて使ってられないんだ・・・・・・・・・」
ひぃっ、バレてる。
「いや、これは別に・・・・・いや、隠すつもりも、意図・・・とかもなかったんだ、いやなかったんですよ? 折を見て説明して・・・それなりに・・・・・うん、長い付き合いだから勿論、仁義、も通す・・よ?」
そう、俺は別に博子に大して後ろめたいことは一切してない。
その証拠にこの店で扱うことができる原石を大量に持ってきたじゃないか?
むしろ前よりも大量に卸す事ができるようになった。
そして、この店には格安で卸してもいいと俺は思っている。
俺は頭の中で素早く理論武装する。
これは俺にとっても博子にとってもメリットしかない。
ウィンウィンなんだと。
「はぁ、まあいいわよ・・・・要するにウィンウィンの関係、三方一両得って言いたいいでしょ?」
ナイス、博子。さすが博子。
俺の言いたいことをバッチリわかってるじゃないか。
伊達に長い付き合いじゃないな。
「そ、そうそう、その通り。勿論『アイソー』には迷惑はかけないからさ。っていうか貢献するする」
「あーあ、後1日ピッケル作成が早かったら拓也の本当に喜ぶ顔が見れたのになー・・・・・・・・・うそ臭い顔じゃなく・・・・」
う、ジト目攻撃とはやりおる。可愛いじゃねーか。
「いやいや、これだって大事にするって、額に入れて床の間に飾っとくわ」
「いいってば、別に、そんなつもりじゃないんだからっ」
俺が鉄ピッケルに手を伸ばすと博子がピッケルを抱えて取らせまいとする。
「いいから、よこせって、俺のために作ってくれたんだろ?嬉しいって」
「やーだっ、やだってば、ちょっと、本当に、やーっ、きゃー」
数分後、俺は結局根負けした。
「はー・・・はー・・・わかった・・・・わかった・・・・諦める・・・よ」
「はー・・・はー・・・はー・・・そう、・・・・ほんと・・・・しつこいん・・・だから・・・」
「分かった、じゃあ、銘だけ見せてくれ。それだけは確認したい」
博子が眉をひそめる。
「私が作成したって事、信用してないってワケ?」
「いやいや、そうじゃないって、ただ、製作者の銘ってさ見たこと無いからじっくり見たいんだ」
「そんな事言って取るつもりでしょ?」
「しない、しない、誓うって」
しぶしぶながら博子がピッケルを差し出す。
ただ、両手でガッチリと掴んだままだ。
うわ、こいつ超信用してねぇ。
まぁ、いい。
俺はピッケルの柄の所に付けられているストラップを確認する。
おお、ちゃんと夜野博子と刻印されてる。
「どお、信用した?」
「ああ、信用した、信用したCARD IN ッ」
「ああっ、ちょっ」
博子があわててピッケルを抱きかかえるがもう遅い。
ピッケルは光の粒子となって俺の手のひらに隠したインベントリカードに吸い込まれていった。
「嘘つきっ、泥棒っ、取らないって誓ったのにぃぃいいいいいっ」
博子がカウンターの中の物をバシバシ投げつけてくる。
「わりっ、どうしても欲しかったんだよ。ありがとなっ。大事にするよっ」
俺はそのまま『アイソー』の店内から飛び出した。
――雑貨店 『アイソー』店内
夜野博子 「拓の馬鹿・・・・嘘つき・・・・・・・・泥棒、裏切り者、卑怯者、浮気者。
もうあんな奴絶対信用しない、今度来たらひどい目に合わせてやるんだからっ。
あんなただの鉄ピッケルを強奪していくなんて・・・・・・どうせ使わないくせに、ふんっ」
夜野博子は物が散乱した店内を悪態をつきながら片付けている。
険しい口調と目付きと微かに緩む口元を見せながら。
――雑貨店 『Ruby』店内
「おかえりなさいませご主人様~」
「おかえりにゃさいませご主人様~」
「おかえりなのですご主人様~」
「べ、別にあんたの為におかえりって言ってるワケじゃないんだからねっ」
「ちっ、又帰ってきたのかよ、おい塩撒いとけ、塩」
「相変わらずここはすごいな・・・・」
「現代社会の多種多様な趣味趣向を分析し、ありとあらゆるニーズに答えるのが我が『黒猫雑貨FC』のモットーですよー?」
えっへんと『七海霜月』は誇らしげに胸を反らす。
なるほど、こういう垂直落下のニーズもあるってことか。
俺は大事なのは大きさではなく形では無いかと思っているのだがその話はまぁいい。
『黒猫雑貨FC』アークガルド店の店長にしてこの地『アークヒルズ』のエリアマネージャーである彼女、『七海霜月』は相変わらず俺の膝の上が定位置と言わんばかりにくつろいでいた。
全く重くは無いんだがポジ調整が出来ないんだよな・・・
VIP席の広々としたテーブルの上には俺が獲ってきた様々な獲物が並べられている。
勿論上位レア物だ。
幻銅原石、木銅原石、竜鉄原石、 水鉄原石などだ。
「後、黒水晶や紫炎晶なんかもあるぜ」
霜月が目をまんまるくして感嘆する。
「拓也さん、すごいです。すごすぎです。たった一日でこんなに・・・・・・どんな裏技を使ったんですか?」
「いや、別に裏ワザじゃねーぜ。それぞれの鉱床を普通に回って採掘しただけだ。
主な鉱床があるところは全部マッピングしてあるからな。
上位鉱床でもちょっとした法則がわかれば普通にいける」
俺はいままでとても悔しい思いをしてきた。
銅ピッケルで全く歯が立たなかった鉱床は全て俺の『復讐リスト』に入っているんだ。
まぁ、今は征服リストに変わったんだがな。
「聖水の材料も一応獲ってきたぜ」
俺は続けてテーブルに聖苔石、白鉄原晶の欠片が入った革袋を置く。
「ま、専門外だからおまけ程度だな」
「わぁー、すごいを飛び越えて流石です拓也さん。確かに今回の攻略には聖水が必需品です」
霜月が目をキラキラしながら俺の顔を見上げる。
「確か、吸血鬼の城だったっけ?」
「はい、正式名称は館ですが・・・それはもう、城みたいにでっかいんですよー。それに恐ろしいモンスターが・・・・がおー」
「おわっ、ちょっ、待て待て、ぎゃはははははっ」
膝の上の少女が眉間にシワを寄せ両手をワシワシしながら俺の脇をくすぐる。
俺はそれを何とか捌きながら話を続ける。
「聖水で武装強化しないと敵にダメージが通らないんだっけ?」
「そうですよー・・・えいえいえいっ。・・・ですが武装強化は効果時間があるので
長時間の攻略には向かないのです。
あそこは通常の武装が役に立たないエリアですから。
あとは・・・・・・・」
霜月がコテッと申し訳無さそうに俺の胸に頭を傾ける。
「わりっ、俺も全力で銀鉱床を探しているんだが何しろ神出鬼没でな・・・・」
ツインテールの頭を撫でながら俺も若干沈んだ声で答える。
何しろ俺自身が悔しい。
「拓也さんのマッピングには場所は書かれてないんですか?」
気持ちよさそうに目を瞑りながら霜月が質問する。
「残念ながら幻銅原石、や竜鉄原石といったいわゆるレア物の鉱床は一定時間経過すると消滅してしまうんだ」
「それは、いつどこにぽっぷするのかはわからないんですか?」
「ああ、俺もなにか法則が無いか探しているんだが・・・銀鉱床だけが分からない。
竜鉄原石とかの普通のレア物の法則は割り出したんだけどな」
「そうですか・・・ま。拓也さんの実力なら近いうちに見つけちゃうでしょー。
期待してますよ♪」
「おうっ、期待しておけよっ」
「あ、あとですね、・・・拓也さん、身の回りで何か変わった事は起こってませんか?」
ん、変わったこと?
強いて言うならこの街に『Ruby』ができたことぐらいだが当事者にそれ言っても意味ないからな。
「いんや、別に変わったことはないぜ」
俺の答えにほっとする霜月。
「変なこと聞いてしまってごめんなさいです。実は、我が金猫騎士団はあんまり評判がよろしくないみたいなんです。それで、逆恨みして色々嫌がらせを受けることもあるのです」
逆恨み、ねぇ。
「それは傘下の黒猫雑貨FCも例外じゃないのです。それで、拓也さんに何かご迷惑がかかってないかどうかお聞きしたって寸法なのです」
多少、申し訳なさそうに霜月がこちらを見上げる。
ジト目もいいがこれはこれで・・・・・・。
「いいよ、いいよ。俺は採掘さえ出来ればそれで満足だから。
ってか俺鈍いから嫌がらせされても気づかないかもな?ははっ」
「そう言っていただけるとこちらとしても助かります。私達も最大限配慮いたしますのでどうかこれからも末永いお付き合いをよろしくお願いします」
霜月がペコリと頭を下げる。
「いやいや、堅っ苦しいのはナシにしようぜ。そういうの苦手でな」
「そうですか、それではこれからもよろろ~なのですぅ♪」
「おうっ、よろろよろろ」
「それでは、私は名残惜しいのですが大事なお仕事がありますのでここでバイバイですー。
そしてみんなー、しっかりおもてなしするのですよー?
ではではー」
霜月が立ち去ると同時に一斉に獣人娘達に飛びかかられもみくちゃにされた。
「おとなりげっと~♪」
「じゃあ、私はこっちー」
「あー、ずるいー、そこ座ろうとしたのにー」
「ふんっ、こういうのは昔から早いもの勝ちと相場は決まっているのです」
「あらあら、うふふ」
「ちょっ、ま、・・・・・・あひゃー」
どうやらいつの間にやら貸切状態になっていたらしい。
霜月、謀ったな。
しばらくして何とか俺は『Ruby』から逃げ出す事に成功した。
「はぁ、はぁ、ひどい目にあった・・・・・・」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「よぅっ、たらしの拓坊っ、最近調子いいみたいじゃねぇか?」
「ぶほっ」
往来を歩いていたら大いに事実誤認がある呼ばれ方をされた。
いつの間にか一平さんの店の前を通りかかっていたようだ。
主人は元攻略組の酒居一平さんだ。
がっちりとした体躯に『アークガルド魚勝店』と書かれた前掛けをしている。
「えっと、一平さん?その呼び方には多分に誤解があるようですが?」
「おいおい、博子ちゃんを攻略してたと思ったら今度はロリ系ツインテールだって?
くぅー、俺もあやかりてぇぜっ」
一平さんが俺の首を巻き込むように腕を回して顔を近づけてくる。
うっ、魚の匂いが・・・
「いやいや、『Ruby』とはビジネスライクな関係ですよ?」
「嘘つけっ、あんなけしからん店に・・・今度オレも連れてけ・・・おわぁああああっ」
ドゴォォオオオン、ドゴッ、ドゴゴゴゴッ
激しい閃光と振動、それに轟音が響く。
これは・・・・・・・・・
「お、お、おめぇっ、擲弾迫撃からの三連射撃とか完全に殺しに掛かってるだろっ」
「大丈夫だよ、ちゃんと決闘モードにしてあるから死ぬことは無いよ♪」
黒狼小銃を肩に担ぎながら胸元が大きく開いた着物風の服をなびかせながら酒居雫がこちらに歩いてくる。
酒居雫、一平のゲーム内の妻であり魚料理専門店『雫』の女将でもある女性だ。
一平と同じく元攻略組。
ちなみに『雫』は魚勝の隣に店を構えている。
「決闘モードでも痛ぇもんは痛ぇだろっ。いったい何考えてやがる・・・・・」
対する一平は黒光りする大盾を一瞬で着装し、完全防御の構えで先ほどの銃弾を防いでいた。
大盾から位置固定用の爪を幾本か射出しているのは熟練のタンク職がなせる技か。
ただ、『アークガルド魚勝店』の前掛けと黒鉄の大盾の組み合わせはシュールとしか表現できないが。
「えー、一平ちゃんが『Ruby』に行きたいとかふざけたこと抜かしているからちょっと『めっ』しただけなんだけど・・・まだ足りない?」
「うげっ、・・・い、いやそれはだな・・・・・・・・」
「ん?」
引きつる一平、満面の笑みの雫。
「・・・・・・・・・ごめんなさい」
「うむ、わかればよろしい♪」
一平がとうとう折れ、雫が矛を収める。
ようやく恒例の夫婦コントが終わったらしい。
「雫さん、こんにちは」
「拓ちゃん、やほー」
雫さんが抱きついて身体を密着させてくる。
「あ、あの、雫さん、あんまりくっつかないでいただけると助かるのデスガ」
俺はしっとりとした身体の感触を意識しないようしながら身体を引く。
ビキッ
一平さんの額に青筋が走る。
「えー、拓ちゃんいけずー」
雫さんを何とか引き剥がすことに成功した俺は一息つく。
それから他愛のない世間話を幾つかした後に一平さんが口を開く。
「これは俺が口を出す筋じゃねぇと思うんだがよ・・・・・・・・・金猫とはあんま関わらない方がいい。
いや、別に金猫とか黒猫がどうって話じゃねぇんだ」
「えっと、それはどういう」
俺はいまいち一平さんの意図を汲み取れなかった。
「ケインハルツの惨劇・・・・・・・・・知ってるよな?」
「・・・はい、一応」
ケインハルツの惨劇。
今から1ヶ月ほど前に起きた惨劇。
この第1階層の最終エリアにある吸血鬼の館、『ヴァン・ケインハルツ』で主だった主要攻略ギルドが全滅した事件がそう称されている。
「一平さんと雫さんも参加していたんでしたっけ」
「うん、私と一平ちゃんは大手ギルド所属じゃなかったからいわゆる助っ人部隊に配属されていたよ。
ま、そのお陰で助かったんだけどね」
「たしか、聖水や銀の武装を用意しないで行ったんですよね。
吸血鬼の館っていう情報は掴んでいたのになぜ?」
一平が軽くため息をつく。
「当然、その意見は突入前の統合会議の議題にも上がった。
ただ、当時は銀を採掘できる採掘士も銀装備を生産できる鍛冶職も存在していなかった。
結局、こんな序盤の第1階層のボスに銀装備は不要って事でまとまった。
それに、採掘スキル、生産スキルを上げているうちに他のギルド連合に先を越されてしまう恐れがあった。
当時はいろんな有力ギルドがそれぞれ連合を組んで競い合っていたからな」
「希少取得物・・・」
「ああ、みんなどうかしてた・・・俺も心のどこかに欲があったんだろうな」
一平が微かに口元を歪める。
雫がそんな一平にそっと寄り添う。
「先陣が館に突入してからしばらくは何も起こらなかったらしい。
だが、俺たち後続の部隊が館に足を踏み入れた瞬間、大扉が閉められロックされた。
同時に、ありとあらゆる場所から吸血鬼が出現し、襲いかかってきた。
聖水も銀装備も持っていなかった俺達は一方的に虐殺された。
当然だ、敵にダメージが通らないんだからな。
幸いにして、というかなんというか俺はタンク職だからな、頑丈なだけが取り柄だ。
隅っこで何とか耐えていたんだが大量の敵に囲まれて身動きが取れねぇ」
「そこであたしの出番~
あたしの職業は銃士。
防御は低いけど一撃必殺の火力職よ。
ダメージは通らないけど衝撃で敵をふっ飛ばすことはできたの」
「俺は初対面ながら雫と組んでなんとか出口を探して逃げまわった」
「他のギルドの生き残りはいなかったんですか?」
「大抵は全滅したらしいが、最後に館に突入した金猫騎士団の面々が運良く無傷でな。
俺達の退却のサポートをしてくれたよ」
「え、でも金猫って評判が悪いって聞きましたが・・・・・・・」
「あ、ああ、評判が悪くなったのは今の2代目の団長になってからだ。
当時は初代の団長の元、規律正しく、卑怯なことはしない、正々堂々とした良ギルドだったぜ。
俺もそれまでにちょくちょく世話になった。
んで、俺たち助っ人組の生き残りを館の外まで護衛してくれた後に・・・他の生き残りがいないか数名の団員を連れて館の中に再突入していったんだ。
団員も俺たちも必死に止めたんだが、頑として聞かずに・・・・・・・・・
それっきりさ」
一平と雫の顔が曇る。
「その後、第2、第3の攻略作戦が決行されいずれもが失敗に終わった。
で、俺は攻略を諦めたって訳だ・・・ははは」
一平が力なく笑う。
しかし、その直後に表情が一変する。
「いいか、金猫とつるむのはお前の自由だ。
だが、ヴァン・ケインハルツには決して足を踏み入れるな。
あそこは・・・・・・・・・」
――――――地獄だ
いつものゆるい雰囲気ではなく真剣そのものの眼差しで俺を見つめる二人。
俺は初めて見る二人の様子に冷たい汗が背筋に流れるのを感じた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
―――俺は双月に照らされるアークガルド近郊のフィールドを歩いていた。
既に日はとっぷりと暮れている。
ここら辺は夜でも昼と同じくノンアクティブの無害な動物しかいないから安全だ。
「さてと・・・・」
俺は小さな紙片を月明かりに掲げて内容を再確認する。
先ほど、『Ruby』で獣人にもみくちゃにされた時に手のひらに握らされたものだ。
誰から握らされたかは確認出来なかったが、まぁいい。すぐに分かるだろう。
紙片には「お話があります」の文字と座標軸と時間が記されていた。
愛の告白、じゃ無いだろうな。
では、いたずら?
まぁ、霜月の言ってた嫌がらせ・・・の線もあるだろう。
俺は軽い好奇心で紙片の指示に従った。
ザザッ
指定座標に到着すると木々の影から人型の影が分かたれる。
万一ということもあり得る、俺は多少身構えて待つ。
その人物はゆっくりと俺の近くまで来て顔を見せた。
知らない顔だ、だがその猫耳とメイドコスチュームは『Ruby』の物だ。
「君が俺の手に紙片を?」
ショートカットの髪を微かに揺らしながらその少女は頷く。
多少緊張しているみたいだ。
「ズバッと聞くけど、話ってなにかな?俺にできることであればいいんだけど」
俺は軽く笑って目の前の少女の緊張を和らげようと試みる。
「・・・・・・・・・・・・」
少女は口をパクパクと動かしているのだが肝心の声が全く聞こえない。
言葉が詰まっているのか?、とも思ったが焦った様子もなく、淡々と口を動かしている。
声が出せないのか?いやそれでは『Ruby』での仕事は勤まらないだろう。
目の前の少女は見ようによっては諦観とも取れる態度で口だけを動かし続ける。
「えっと、もしかして、声が出せない?」
「・・・・・・・・・」
フルフルと悲しげに首を振る。
「それとも何か術をかけられている?」
「・・・・・・・・・」
同じく悲しげに首を振る。
「何か、俺にできることがあるかな?」
パッと顔を上げて少女が俺の胸に抱きついてくる。
「え・・・と、う、・・・・ど、どうし・・・・ようか?」
俺は予想以上に華奢な肩に手をかけ・・ようとして、引っ込めながら困る。
うーん、うーん、どうしたものか。
まぁ、とりあえず・・・落ち着かす為に抱きしめようそうしよう他意は無いよ?
ぎゅっ
おおう、なんというか控えめな感じと華奢さが相まって守ってあげたいという保護欲が沸き上がってくるな・・・と感じていたのも一瞬。
「え・・・・・・え」
彼女の背中に回した手に違和感を感じる。
なんだ、これ?
瞬間、彼女の全身から力が抜け崩れ落ちる。
「うわっ、ちょっ」
俺は慌てて彼女が倒れないように抱きとめる。
彼女の背中にはダガーナイフが突き刺さっていた。
「おいっ、大丈夫か、おいっ」
返事はない。
まじかよ、とりあえず地面に寝かせて・・・・・・
「ああっ!?」
彼女の身体がゆっくりと光の粒子に変換されはじめる。
そして、それは一瞬で加速し光の奔流となり、周囲に広がって消えた。
一瞬前まで彼女の身体に刺さっていたダガーナイフが地面に落ちる。
「なんだよ・・・・これ。なんだよ」
俺の腕の中で名前も知らない少女が死んだ。
まだ、彼女の温もりも手の中に残っているのに・・・・
ビィー、ビィー、ビィー
不意に耳障りなシステム警告音が響き渡る。
俺自身の視覚ウィンドウ内にも赤字の警告が幾つも表示され点滅する。
「ちょっと待て、・・・・・ちょっと待て・・・・・間違いだろ・・・・・おかしいだろっ」
瞬時に転移してきたアークガルド警備隊に俺は囲まれ押さえ込まれる。
「違うっ、俺じゃないっ、・・・・俺じゃないっ」
俺の頭上に表示されるプレイヤーネームの色は赤字になっていた。
「石金拓也、貴様を|Player Killerとして拘束する」
なんとなくプロットぽいモノができつつあるかもです。