赤ノ断罪 六
「さて、舞台に上がったはいいがこの極大の超技を前にどうしたものか……」
俺は日が傾きはじめた中天から視覚情報ウィンドウの中に目を走らせる。
緊急告知には以下の様に表示されている。
<時契シ罪> 『後*世**放**終*咆哮也。三筋*光*翼**終***断罪*行*者也』
よくわかんねーけど不吉な事なのは確かだな。
んで、大事な相方の具合はどうかな?
そう思った瞬間に尻に激烈な痛みが走る。
「痛ぇぇええええええッッッッ!?? だからなんで俺を捻るんだよッッッ!??」
「ぐ、具合とかッ、誤解を招きそうな表現は謹んで下さいませんかッッッ!!」
視覚情報ウィンドウの中でまいんちゃんが顔を真赤にして睨んでいる。
「だから、エラーの調子はどうだって聞いてるんだがッ。
本格的な戦闘の最中に視界塞がれても困るからな」
「大丈夫ですッ。私は出来る女ですから必ずお役に勃ちます。勃たせて頂きます」
「勃つに突っ込んでい……あぎゃぁぁぁあああああああッッッッッ!??
だからっ、俺たちこんなコントやってる場合じゃねーだろッ」
「突っ込むとかあからさまなアプローチは控えていただけませんかッ!!。
それに貴方のせいで私はこんなエラーまみれの女になってしまったんですからねッ。
少々の事は見ないふりをする優しさは無いんですか?ってかしなさいしやがれですッ」
ぐぬぬ………………こんなことをしてる時間は無いというのに随分と面倒なこ…………ほっ。
俺は俺の手が自分の脇腹を思いっきり捻り上げるのをもう片方の手で阻止することに成功する。なんだこの絵面。
「チッ、この男、生意気にも成長しやがったです」
「分かった。提案だ。俺もそちらの言葉とか表現はできる限りスルーするように努めよう。
だが、口に出さない心の中で思ってしまった事まではそちらもスルーしてくれ。
そうしないと俺は永遠に自分で自分の身体を捻り上げ続ける唯の変態になってしまう」
「……………………わかりました。私もできるだけ冷静にサポート出来るように努めましょう」
よしっ、これで戦いに集中できる。
と、なると。
俺は未だ地脈を啜り不気味に蠢く紅の超越者に向かって突撃する。
「超技の溜め時間に攻撃しない手はないよなッ!!」
「いやーん、その卑怯さに痺れ………………極めて妥当な判断だと判断します」
・・・・・・目の前の敵に集中しろ。余計なことは考えるな。突っ込んだら負けだ。
俺は自らの手に握りしめられている金ピッケルを今一度確認する。
ひび割れ、くすみ、黒く汚れきったその姿からは元が金色に輝いていた痕跡は全く伺えない。
だが、その芯は折れてはいない、その心は曲がってはいない、その力は衰えていない。俺はそう信じる。
さあ、相棒。もうひと踏ん張りだ。こいつをぶっ飛ばしたら綺麗に直してやるからな?
天に立ち昇る三筋の翼の内、左右の光の奔流が微かに揺らめく。
次の瞬間、俺は交差する光の奔流の剣に切りつけられていた。
間一髪、夢幻採掘が間に合い俺は両断されることを免れる。
「まいんちゃんッ、わかっている事だけでいい。分析をッ!!」
「はいッ。この二本の光の奔流は三聖光翼の左右の翼です。
こちらが攻撃を仕掛けたのを見て左右の翼の溜めを解除して攻勢に転じたのでしょう。
狙いは左右の翼でこちらの足止めを計り、その隙に中央の本体の翼の溜めを完成させる。
その後の一撃にてこちらを討ち滅ぼす意図であると推測します」
さすがに状況が状況だけに素早く的確な分析が返ってくる。できる女ってのは伊達じゃねーな。
「尚、思考加速のバーストゲージとスタミナゲージは理由は不明ですが100%を超えて計測が不可能となっています。
おそらく、システムがイレギュラーに再生される過程で限界を超えて流れ込んだ生命エネルギーが両ゲージに流れ込んだ、との仮説を推奨します。
詳細は不明で過去のあらゆるデータにもアクセスしましたが該当条件は見つかりませんでした。
そもそも全死状態のシステムが復活したケースは存在しないのでこれは仕方がないことだと判断します」
「なる程なる程、よくわからんけどなんか知らんが良い感じって訳だな。
で、こいつはやっぱり無数の粒子の集合体って寸法だ」
夢幻採掘がまともに捉えたにもかかわらず眼前で交差している光の翼は消滅しない。
たた、怪しく蠢くのみ。
「そうですね、消滅させられた竜体の場所に即、後続の竜体の粒子が入り込んでいる模様です。
わかりやすくイメージするとなるとホースの水を延々と掛けられているといったところでしょうか」
マジか、俺は暴徒か不審船扱いかよ。
「と、なるとホースの元を断つのがてっとり早いか……って、うぐぉぉぉおおおおおッッッッ!??」
急激に光の奔流の圧力が強まる。
眼前の暴食者が自身の竜脈を触手のように地に這わせて、ありとあらゆる地脈流を手当たり次第に捕らえ取り込み始めたのだ。
交差する二本の光の奔流が怪しく煌めきその圧力が強く激しくなる。
その圧力は次第に物理的な重さとなって俺の身体にのしかかる。
やばいと思った時には遅かった。
足が地面にめり込み俺は逃げることも躱すこともできなくなる。
どうするッ?一か八かで動くか、それともこのまま耐えるか。
手の中のピッケルがギリギリと悲鳴を上げる。
夢幻採掘の処理能力を上回る負荷を掛けられて無理が生じているのだ。
一瞬、超過起動が頭に浮かぶがすぐに打ち消す。
あれは危険過ぎる。
第一、今の状況で発動する為の溜め時間が作れるわけが無い。
まずいな、このまま耐えられたとしても奴の溜めが完成してしまう。
かといって無理に動くには危険過ぎる。
どうすればいい、どうしたらいい。
実際には数秒に過ぎない時間が永劫の時の如く俺をじりじりと炙っていく。
唐突に、圧力が掻き消える。
同時に刹那の叫び声が響き聞こえる。
「竜脈じゃ、彼奴の竜脈を断ち切るのじゃッッッッッ!!」
メイルが最後の死力を振り絞り大地に掌を当てながら叫んだ。
その月の輝きのような銀の髪の合間から二本の黒緑の角が屹立してぼんやりと光っている。
黒キ一文字に流れこむ地脈の流れが一瞬だけ止まる。
目の前の光の奔流が苦しみ悶える。
そして、俺にはその一瞬の隙で十分だ。
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおッッッッッ!!!!」
考えるより、答えるより早く俺の身体は応えた。
恐怖を謳う光の奔流を、慈悲を騙る光の奔流を、俺はまとめてぶっ飛ばす。
還す刹那で地脈をまとめている竜脈をぶった斬る。
地脈エネルギーの供給元を絶たれ急速に霞みぼやけていく二筋の光。
今此処に、恐怖と慈悲は事切れた。
最後に残るは終の剣。
赤ノ断罪の本体は相変わらず天を仰ぎながら着実に溜めをしている。
本体の翼の溜めはキャンセルが出来ないのか、もしくはそんな必要はないという自信なのか、その泰然とした様子からはなにも窺えない。
俺は背後のメイルの様子を確認する。
地面に膝をつき肩で息をしている。
命に別状は無いような感じだがさすがにこれ以上の無理はさせられない。
なんとか早く片を付けたいのだが……
それに―――
「まいんちゃん、溜め時間に関してなにか情報はないか?」
俺の問いかけにまいんちゃんは難しい顔で答える。
「そうですね、正確な溜め時間を割り出すことは不可能ですが、中央の翼の色が一つの目安になると判断します。
測定の結果、『赤ノ断罪』は各種地脈の粒子を手当たり次第に取り込んでおり溜めの総量は99%を満たしている模様です」
「ちょっ、……」
さすがに慌てる俺を制してまいんちゃんは言葉を続ける。
「ですが、ここで大事なのは量ではなく質にあります。
強力な力であればあるほどその制御は困難になります。
そして、それは異なる粒子が混ざり合っていれば天文学的な高さにまで跳ね上がります」
「そうかっ、焦って様々な地脈を取り込んでしまった奴はもう、三聖光翼を発動させることは出来ないのかっ」
「残念ながらそうはなりません。
現在、赤ノ断罪は混成の各種地脈粒子を純粋な流体たる竜子に練り上げています。
その作業が完成すれば力の発動は為されるでしょう。
そして、竜子は通常、純白として具現します。
即ち、翼の色が完全なる白に置き換わった時こそが溜めの完成となります」
眼前から眼天に立ち昇る光の翼には色とりどりの幾何学模様がまるでステンドグラスの様に浮かび上がっている。
そして、見ている間にもその色が次々に白色に置き換えられている。
今すぐ、どうこうってわけではないがあんまりのんびりしていられるような雰囲気でも無い。
とはいえ相手は心身共に規格外の化物だ。
先ほどのように無闇に突っ込んだらどのような反撃が返ってくるか分からない。
勿論、反撃を恐れていては間合いには入れない。
が、せめて一撃にて仕留められる急所か弱点らしき部位が特定できれば勝算の芽が出てくるんだがな……
まいんちゃんが静かに口を開く。
「先ほどの話にも関連することなのですが……」
俺は黙って頷いて続きを促す。
「力というものは発動する時には必ず同等の反作用の力が発生します。
それは発動する力が大きければ大きいほど反作用の力も大きくなるというものです。
三聖光翼の発動エネルギー量は特SSS級の巨大な力です。
しかし、反作用の力を打ち消したり軽減したりする付帯機能はついていません。
付帯機能に充てるべき相応のリソースまでもを力本体に注ぎ込んで創られたのでしょう。
三聖光翼の発動によって発生する反作用の力は術者がまともに受け止めるには巨大すぎます。巨大すぎるのです。
通常であればその反作用の力によって術者は自壊してしまいます。たとえそれが規格外の化物であってもです。
これが三聖光翼が幻の力と称されている理由の内の一つです。
本来であれば決して発動は不可能なのです」
「だが、『赤ノ断罪』は三聖光翼を無事に発動し得た」
「そこです。
この様な言い方は私としては忸怩たる思いなのですが・・・。
何か『ずる』をしているのではないかと推測します」
「『ずる』、いわゆるチートか……」
「そこまでは言いませんが……此処に『赤ノ断罪』が使用した主な攻撃を羅列してみます。
<天駆ケル漆黒ノ雷球>
獄落焦土
<千ノ落涙>
三聖光翼
<時契シ罪>
何か気づきませんか?」
ゆっくりと、ゆるりと破片が集まる。
破片は更に細かく砕けて粉となり粒子になる。
その不可逆なほど細かくなった粒子は竜喉を形作る。
即ち―――
「竜の咆哮か」
「はい、その全ての力の発動に竜の咆哮が竜喉が鍵として関わっています。
そして、<千ノ落涙>の時にその竜喉に顕現した次元を超越する黒キ傷跡。
その黒キ傷跡こそが未来にて終末を唱えたモノ、先の世にて終の咆哮を成し得たモノ。
三聖光翼の巨大な反作用の力を別の世に逃しているモノ、と推測します」
「つまり、奴の喉を、竜喉に巣食っている黒キ一文字を夢幻採掘にて穿ち、無に還せば」
「『赤ノ断罪』はその巨大過ぎる反作用の力で自壊すると……」
不意にまいんちゃんが目を逸らし言葉を途切る。
俺は何も云わずに視覚情報ウィンドウの中の信頼出来る相方を見つめ続ける。
微かの揺らめきの後にまいんちゃんが言葉を続ける。
どこか自らを嘲るように。
「自壊すると、自滅すると思います。
判断材料は………………仮説にも届き得ない仮定に仮定を塗り重ねた不確定要素の塊。
適切な表現を探すとなると、唯の『勘』になります」
ウィンドウの向こう側に姿なき一雫の涙が零れ落ちる。
「あはは、おかしいですよね?
私みたいな唯の解説をする為に作られた一対話型インターフェースが『勘』だなんて、まるで人間みたいですよね………………忘れてください。
もっと理性的に『最適解』を探しましょう」
軽く唇を噛み締めながらにこりと笑う。
「そんな事は無いさ。それでいこう」
何かを言い募るまいんちゃんを制して俺は言葉を続ける。
「知らないのか? 女の『勘』って奴は大抵、正しいらしいぜ?」
一瞬、目をまんまるに見開き、やがてどんな表情をしていいのか迷った挙句にまいんちゃんはとても優しい、花のような笑顔で言葉を紡ぐ。
「少なくとも男の正直さよりかはマシだとは思いますけどね」
「ふっ」
「ふふっ」
想像を絶する重圧と恐怖を感じる中での命を懸けたやり取り。
それを理解してるが故の軽口。
それを実感しているが故のじゃれあい。
共に生と死の狭間をくぐり抜けた者同士のどこか達観したかの様な態度はやはり心のどこかが麻痺しているのだろう。
だが、それで正しい。
正気で命のやり取りを平然とこなす者は最早、正気とは言えない。
唯の心が壊れた狂気の殺人鬼だ。
たとえ仮想現実の中であろうとも命は命。
他者の命を奪うという行為、他者に命を奪われるという恐怖。
その重み、その怖さを知り尚も前に進もうとする者が仮初の欺瞞に心を許したとしても誰が責められようか?
真実はその場に立った者しか知り得ないのだから。
「さって、いよいよクライマックスだぜ?」
俺は相棒である金ピッケルと相方であるまいんちゃんと共に紅の暴虐者が支配する死地に足を踏み入れる。
傲然たる敵意が。
純然たる悪意が。
猛然たる殺意が。
激烈な形を成してまともに吹きつけてくる。
少し前の自分であれば一歩たりとも進めなかっただろう。一秒たりとも耐えられなかっただろう
崩折れ、膝をつき、恐怖に縛られ、何も出来ずに、倒れていただろう。
何も救うことができずに、ただ、巣食われるだけであった自分。
何も助ける事ができずに、ただ、助けを求めるだけであった自分。
何も守ることができずに、ただ、死の淵で見守るだけであった自分。
何も遂げる事ができずに、ただ、不甲斐なく倒れるだけであった自分。
絶望に囚われ頭上を仰ぎ見ることしか出来なかった自分も。
力を得て天狗になり人々の声援に気を良くした自分も。
恐るべき獄落焦土により全てを諦めかけた自分も。
恐怖に捕らわれて身動きが出来なかった自分も。
冷たい骸になりゆく自分でさえ。
己の無能に叫んだ自分でさえ。
己に巣食われた自分でさえ。
全て紛れもない自分自身だ――――――――――――――――――――
一度死んだから何も怖いものがなくなるなんて嘘だ。
死ぬのは怖い。
苦しいのは嫌だ。
襲われるのも恐ろしい。
何もかも投げ出して逃げ出したくなる。
傲然たる敵意が渦巻く中を。
一度死んで生まれ変わったなんて口が裂けても言えやしない。
恐怖を乗り越えたなんて口が裂けても言えやしない。
成長したなんて口が裂けても言えやしない。
純然たる悪意が渦巻く中を。
「だが、それでも俺は、俺達は前に進まなければいけないッッッ!!
自分の足で前に歩いて行かなければいけないんだッッッ!!」
猛然たる殺意が渦巻く中を、俺は己の足で踏みしめて前に進む。
「随分と熱い事を照れずに言えるものですね」
まいんちゃんが軽くツッコミを入れてくる。
「まあな、煉獄の熱さに灼かれ落ちた後では少々の事じゃ照れなくなっちまったらしい」
轟々と横殴りに叩きつける嵐の如き漆黒の雷が。
地獄の業火の如き激しさを以って竜脈陣が視界の全てを埋め尽くす。
俺は穿ち、叩き、薙ぎ、突き刺し、振り回し、引き摺り、振り上げ、捻り、振り下ろしながら全ての攻撃を無に還しながら前に進む。
夢幻採掘によっておびただしい光の粒子がまるで光の道の様に前方と後方に敷き詰められる。
そして、俺は遂に天を仰ぎ全てを睥睨する『赤ノ断罪』にたどり着いた。
天を貫く翼の色を見る限り未だ溜めは為されていない。
俺は間髪入れずに一気に距離を詰める。
世界の摂理を嘲笑う呪われし竜喉に。
全ての理を食い契る黒キ一文字に。
夢幻採掘を振り下ろす。
「終わりだッッッッッ!!!!」
天を仰ぎし真紅の断罪者の無防備なその竜喉に。
渾身の力を込め全ての元凶たる黒キ一文字に。
全てを込めた最高にして最後の一撃を叩きこむ。
切っ先は見事、赤ノ断罪者の首元に刻まれた黒キ一文字に命中する。
時を置かずして天地を分かつ凄まじい絶叫が轟く。
黒キ一文字、竜喉に刻まれた亀裂が。
天を仰ぎし断罪の顎が。
『赤ノ断罪』そのものの竜躯が。
そして、全てを終わらせるかの様な咆哮が霧散した後に『真の断罪』が下される。
天地を穿つ三聖光翼の終の翼がゆっくりと沈んでいく。
その源であった『赤ノ断罪』の天に向けて大きく開かれた顎に向かって。
全ての羽が逆濡れた禍々しい反逆の牙に姿を変えて。
反作用の力が発現する―――
三聖光翼が発する巨大な反作用の力を逃していた竜喉は潰された。
結果、その巨大過ぎる反作用の力は術者である『赤ノ断罪』そのものに襲いかかる。
巨大な体躯がのたうち、蠢き、身体を滅茶苦茶に動かそうと試み反作用の力から、禍々しい反逆の牙から逃れようとする。
だが、その体は大地に縫い付けられたかの如くその場から動けない。見えない鎖にがんじがらめにされたかのように動かない。
やがて、凄惨な地獄絵図が完成する。
無数の逆牙や逆巻いた突起物、逆刃に彩られた反作用の翼が『赤ノ断罪』の顎をこじ開け、無理矢理にその中にねじ込まれる。
瞬間、世界を壊しかねない程の憤激に満ちた呪いの咆哮が放たれる。
怨嗟に彩られ血塗られた凄まじい吼怒の絶叫が響き渡る。
それでも反作用の逆翼は止まらない。
紅の断罪者を内部から物理的に破壊していく。
その血濡れたような鱗が、内側から突き通された無数の逆牙や突起物に破壊され真血で洗われる。
背中にある禍々しい突起物が、身体の内部から刺し出された逆刃に周りの鱗ごと切り落とされる。
更に外側に突き出た逆牙や突起物が無慈悲に蠢き、今度は外から血濡れた巨躯の全身を削ぎ落していく。
その絶叫が悪夢の如き絶唱に変わっても。
その絶唱が声なき断末魔に変わっても。
真の断罪者と化した反作用の翼は決して許しはしない。
身体の内側と外側から滅茶苦茶に刺し貫かれ、切り刻まれ、削ぎ落とされる『赤ノ断罪』
その体躯は辛うじて竜の形状を保っている程度にまで破壊され尽くした。
あまりにも凄惨な人知を超越したその光景に俺は指一本動かせずにいた。
そんな俺を現実に引き戻したのはある違和感だ。
あるべきものが無い。
返ってくるであろうものが無いのだ。
俺は夢幻採掘を奴に叩き込んだ。
それは見事命中した。
だが、いくら待っても返ってこない。
採掘の後で手の中に返ってくるであろうあの心地良い振動が。
その瞬間―――
手の中に感触が伝えられた。
時間差で。
ひび割れ砕け散るピッケルの、相棒が崩折れる悪夢の振動が。