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ゑ4! 「一人と二神と一匹の不幸かつ悲しい話」

 前回の終わり方では、まるで俺が目の前の有り得ない事を全て冷静に受け入れたかのように見えたかもしれない。

 先に白状してしまおう。

 俺、橘 瑠璃は、ひょっとしてひょっとすると、とんでもなく臆病なのかもしれない。

 何故なら。

 何故ならば!

 ビコーズ!

 ………いや、今のは忘れてくれ。

 簡単に言えば、勿体ぶっといてなんだが、



「きゃあああああぁぁぁぁぁッッッ!!!」



 ………と言うことである。

 いや、すげぇ久し振りだな、こんなに大声出すの。

 ハッハッハ、恐怖に刈られて叫ぶ事で言うなら、ちっさい頃の節分以来だ。

「いやああああぁぁぁぁぁぁっ、……ふぐっ!」

 清水に口を塞がれ、ようやく悲鳴が止まった。

 知ってるか?

 例えいくら本やアニメや漫画で見慣れていようと、どんなにバカにしていたとしても。

 人の生首ってのは、恐ろしく滑稽で、恐ろしく恐ろしいんだぜ。

 あ、やべぇ、吐く。

「瑠璃、大丈夫だ!落ち着け!」

「ぅっ、あっ……」

 やっちまった。

 清水の制服に吐いたゲロの染みが広がる。

「あ、ご、ごめん、な、…さ…」

「良いから!喋らなくて大丈夫だ!」

 やっぱ清水は人格者だな。

 自分の制服よりも俺の心配をしている。

 それとも、今の俺、そんなに酷い顔かな…?

 自分の表情が分からない。

 恐い。

 恐い。恐い。怖い。

 恐い恐い恐い怖い怖い恐い……

「瑠璃っ!」

「…あ……」

 清水が、肩を掴んで目を覗き込んでくる。

「大丈夫だ。何があっても、お前は俺が守るから…!」

 おいおい、それじゃまるで、告白じゃねーかよ。

 …だけど、今はその言葉に、とても救われた。

 体に温度が戻って来るように感じた。

 しばらく、泣いても良いよな…



 ……恥ずかしい。

 今日は人生最大の厄日に違いない。

 つまり、裏を返せばこれからはバラ色人生だって事だな。

 ビバ!人生!

 ……結局、泣き始めてから俺が落ち着くのに30分掛かった。………早い方だそうに違いない!

「…もう大丈夫だから、その気遣うような視線をやめろ…」

「…全く…さっきまで大泣きだった癖によく言うな」

 清水は安心したように視線を戻し、魔術師を睨み付けた。

「あんま脅かすなよ………瑠璃はデリケートなんだ」

 口を挟みたいが、さっきの醜態では何を言っても強がりにしか聞こえないので、止めた。

「いや、ごめんね。あれはホントに僕の配慮が足りなかったからさ」

 …小学生に慰められた……。

 これは真剣に凹む………。

「さて、本題に入らせて貰うよ?」

 魔術師は(昨日と同じくいつ置かれたのか分からないけど)お茶を一口飲むと、清水を真っ直ぐに見つめた。

「いつ……かは分からないけど、君は、ガルマラの神徒に会ったんだろう?」

「……今から3ヶ月前の事だ。そいつは、名を…確か………」

 そこで一旦清水が止まる。

 すると魔術師が手で制し、口を開いた。

「当ててみせようか?エルスフロム・エンスライスト・ジーニャ。そうだろ?」

 すると、清水の顔色がはっきり変わった。

「名を……途切れずに言った!?」

「そっちかよ!!?」

 思わず突っ込んでしまう。

 いや、俺は悪くない!こんな時にふざける清水が悪い!

「いや、そうじゃない………奴の名は、正しい場所で切らないと、まともに発音も出来ない………そういう呪いがかかってたんだ」

「ふざけてなかった!?」

 分かんねーよ!?何その呪い!?

「確か、呪いを破れる者はかけた本人しかいない筈………奴自身が言ってた事だ」

「この呪いは僕がかけたからね……アイツが簡単に呼び出されたりしないようにしたんだけど……自分から行動するとは、まったく……」

 よく分かんねーけど呪いにも意味はあったみたいだな……。

 ……くそっ、突然だけど俺の地の文が消えるってよ!

 誰が喋ってるかは、察してくれ!

魔「……それで、ジーニャに何て言われたんだい?」


清「…力が欲しいか、と…………それだけだ」


魔「君は、頷いてしまったんだね?」


清「………………」


魔「責めてる訳じゃない。ただの確認だよ」


清「……ああ。……力は、手に入ったよ」


魔「どんな?」


清「……魔力って奴だよ」


俺「魔力だあ!?」


魔「…なるほど、ね……」


俺「魔力って、あの魔力か?」


清「……感覚的には、少し違う。……魔力を見れて、触れて、操れるようになっただけだ」


俺「???」


魔「まあ、理解は後でしてくれ。それで、その代償は何だ?」


清「…………」


魔「……まさか、魂じゃないよね?」


清「!……とんでもない。……【人】さ」


俺「人?」


魔「…人間を捨てた、か……」


清「………………」


俺「人間を、捨てた……?」


魔「……今の君は、何なんだ?」


清「………………」


俺「……清水?」


魔「安心しろよ。神にとっちゃ、人間もそれ以外も大して変わらない」


清「俺は………【狼】だ……」


俺「狼男か!?」


魔「……いや、人間の部分なんて、欠片も残っちゃいない。……そうだろう?」


清「……ああ。ただの【狼】だ」


俺「?……だって、体は人じゃねーか?」


魔「…脱け殻、ね……」


清「……」


俺「え……?脱皮したのか!?」


魔「ちょっと黙っててくれないかな!真剣な会話がしたいんだよ!」


俺「……わ、分かりました」


清「………あいつは、そしてあんたは……何者なんだ?」


魔「言っただろう?僕は神で……」



 突然に地の文が復活した理由は聞かないでくれ……。

 まあ、『タイミング的にこれくらいかな』と、言うことだ。

「……あいつは、ただのオトモダチだよ」

 魔術師(神自称)が、言い切った。

「友……だと?」

「正確には、だった、かな?」

 清水の険しい表情を余所に、魔術師は涼しい顔だ。

「昔はよく遊んでたんだけどね」

 そう言って、お茶を口に運ぶ。

 湯呑みを静かに置いた魔術師は、苦々しげな表情に変わっていた。

「いつからか、あのバカは、研究だとか言って、人間の魂や身体を集め始めた」

 吐き捨てるようにそう言うと、清水に目を向けた。

「一つ、聞いておこうか」

「……何だ」

 魔術師は、見透かすような目付きをして、清水をじっと見ている。

「君は、力を手に入れた事を、後悔してないだろう?」

「…………!」

 清水の目が見開かれ、魔術師を信じられないと言うように見つめた。

「おい、それはいくらなんでも!……」

「良いさ、瑠璃」

 思わず口を挟んだ俺を制し、清水は魔術師を真っ直ぐに見つめ返した。

「そうだ。俺は、この力を手に入れた事を、微塵も後悔していない」

 そして、更に強く、

「微塵も、だ」

 繰り返して言った。

 その言葉に魔術師は目を細めると、優しく微笑んだ。

 ……何だか、若い英雄の成長を喜ぶ村長みたいだな………。

 年を感じる!

「……紹介が遅れたね。僕はテーベ。本名は長くなるから言わないけど、ガルマラの魔法神をやってたよ」

「俺はラムネスだぜ!!正直セリフねーからまるで空気だな!……ん?…あぁ、ガルマラでは剣神やってたぜ!」

 …………………………。

 事件じゃないか?

 この二人、間違いなくメインキャラだ!

 その二人がさ。

 ………………今になって名前を明かしました!

 ……振り返れば、小学生、中学生、魔術師、剣士、ちび共、その他少々……色々呼んでたな………。

 あぁ、寂寥感が……感が……あれ?

 込み上げてこねーな。

「ちなみに年齢は君達より遥かに上だよ」

「俺も年上だぜ!よく若作りって言われる!」

 ……ああ、だからやけに老けてたのか。

「テーベに、ラムネス、か……」

 清水が噛み締めるように言った。

 そして、唐突に顔を上げる。

「……俺を、ガルマラに連れていってくれないか…?」

 ………………え?

 それは、…え?

「…君はガルマラがどこに有るか知らないのか?」

 魔術師が言う。

 いや、そんな事はどうでも良い。

「し、清水…?」

 あぁ、声が掠れちまった。

「…瑠璃、すまない……今まで、ありがとな」

 それはまるで。

 そのまんまで。

 別れの言葉じゃないか。

「だって、ガルマラが、どこに有るか……知らない…よね?」

「………もしかしたら凄く遠いかもしれない。……だけど、生きてれば必ず、会いに行くから…」

 死を覚悟して。

 目が二度と会えないと語って。

 別れの前みたいじゃないか。

「し、みず…?」

 涙が、溢れてきた。

 あれ?俺、やっぱ女だったのかな?

 だって、男との別れなのに、胸が苦しい。

「コホン」

 魔術師の…テーベの咳払いが聞こえた。

「あー、お二人さん。良い雰囲気は構わないけど、話を聞いてからにしてくれないかな?」

 ……………………はい?

「あー、えと、瑠璃?で構わないよね?僕の方が年上だし。……今日はもう帰るよ」

「……!…ま、待て!俺を連れていってくれ!」

 慌てて食い下がる清水に、冷静な視線を突き付け、魔…テーベは言い聞かせるように言う。

「君は、勘違いしてる。良いかい?今日の夜、瑠璃の家に泊まれよ。…一晩全部使って、説明してやるからさ」

 そう言うと、テーベは俺を一瞥して、生徒会室を出た。

「…瑠璃?行こーぜー早くよー」

 ラムネスが声を掛けてくる。

 何だか馬鹿馬鹿しくなって、清水と顔を見合わせる。

「…うっ」

「…ぷっ」

「あはははは!」

「わはははは!」

「ははは、…っけほ」

「ごほっ、ははっ、けほっ、はははは!」

 咳き込みながら大爆笑した。

 ラムネスが呆気にとられたような顔をして、それがまた面白くて、笑いが止まらない。

 ひとしきり笑った後、ようやく俺は立ち上がった。

 清水はすっきりしたような顔をして、まだ口許がヒクついている。

「なぁ、ラムネス」

 部屋を出る時、ふと声を掛ける。

 続きを促すような顔をするので、言ってやった。

「…お前、やっぱ空気だよ」

「余計なお世話だ!!」

 大爆笑しながら、生徒会室を後にした。



ゑ4!終わり

ゑ5!に続く


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