ゑ3! 「そいつは要するに生徒会長なのだった」
四時限目が終わり、一旦昼休みに入る。
あの二人はもうすっかり馴染んでいやがって、楽しそうにお喋りなんかしていた。
だが、俺の気分は滅茶苦茶悪かった。
『うわぁぁーん!』
教室のあちこちから、泣き声が響いてくる。
………いや、別に誰かが泣いてる訳じゃないけどさ。
「瑠璃ちゃんすげぇ!同じ男とは思えねーよ!!」
佐野が、自分の携帯の画面を見せてくる。
そのちっちゃなディスプレイには、男子の制服姿をした、可愛らしい女の子が写っていた。
声を上げて泣くその姿は、見るものの保護欲を掻き立て、守ってあげたくなってしまう。
……つまり、朝の俺だった。
「瑠璃ちゃん、あなたも貰っておきますか?良く撮れていると思うんですけど…?」
「黙れこのダメ教師!何慰めるフリして隠し撮りしてんだよ!」
そう、この変態教師は、普段から隠しカメラを服に仕込んでいるそうで、先程の様子も、顔のアップバージョンなど、別のアングルから更に三つはあるのだった。
「せんせー!瑠璃ちゃんの動画ほかのもくださいっ!」
「あら、秋川さんは確か……はい、これで最後よ」
他のも………?
アングルの違い、という意味だろうか?
だが、それにしては言い方が少し変だったし、何より秋川は今日こうして何度も紫野先生の所へ来ているのだ。
「あの、先生。他のもってどういう意味ですか?」
「へ?あ、あら。そんなこと言ったかしら?やだ、秋川さんたら……ほら、言い間違いだって!あ、ちょっと瑠璃ちゃん、人のケータイは取っちゃ駄目です!!」
問答無用で携帯を取り上げ、データフォルダを開く。
始めの四つの動画ファイルは、今日撮った物を入れたのだろう、一時限の休み時間に入れられていた。
「何だ、これは………?」
何故だか知らんが、俺の動画が20以上あった。
確かに、去年の文化祭の劇の動画は百歩譲って許せるにしても(ちなみにシンデレラをやった。………そーだよ、シンデレラ役は俺だよ!)、何で俺が寝不足の時の顔とかの動画があるんだ(眠そうに目を擦る無防備な顔に不覚にもドキッと………しねえよ!自分だし!!)!?
更に、写真の枚数はその十倍以上は軽く有るように見えた。
「瑠璃ちゃん、それは私の大切なデータですから、絶対に消さない事!良いわね!」
「1つ残らず要らねえよ!」
携帯の物色を続ける。
「宝物…?何だこのフォルダ?」
「あぁ、瑠璃ちゃん待って!」
叫ぶ声を無視し、俺はフォルダを開いた。
「やぁっ………何だこれ!?」
そのフォルダには、ありとあらゆるコスプレをした俺の写真がかなりの枚数有った。
全く見に覚えのない写真に、疑問を抱き、一瞬で答えが分かった。
「信じらんねー………ふつー寝込みを襲うかな?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
「瑠璃ちゃんごめんねー!可愛くてさ~」
「…悪かったわよ。瑠璃、ごめんね」
写真の俺は全て眠っていて、そして場所はどうやら修学旅行のホテルのようだった。
…先月に修学旅行があったので、その時だろう。
だがなぜ謝るのが先生だけじゃないんだ?
「秋川…それに、有沢?」
「いやー私はせんせーと一緒に瑠璃ちゃんをお着替えさせたんだー」
「私はあんたのご飯に睡眠薬を仕込んだだけよ」
………なるほど、どうやら共犯らしい。
「はぁ…何かもうどーでも良いや」
先生に携帯を返す。
「ごめんなさっ…え?……データ、消さないの?」
俺は何だか疲れてしまった。
一時限からの疲労が溜まりにたまって爆発したのかな?
何だか喋るのも面倒だ……。
「へぇ……君ってこんな写真も撮られてるんだ……苦労するね」
「そーだな」
小学生の言葉にテキトーに返事を返す。
「睡眠薬を飲ませるなんて、抵抗できないじゃないか……」
「そーだな」
あぁ、何でも良いから俺を寝かしてくれ………。
「この際だから、いっそちゃんと自分から女の子の服を着たら?」
「そーだな」
その声を最後に、小学生は静かになった。
何か引っかかったが、眠りの世界へと旅立つ事にした。
ゑ
放課後。
俺はホームルームが終わるとすぐに、鞄を持ち席を立った。
「ちょっと待って瑠璃ちゃんっ!!」
秋川に呼び止められる。
「…何だよ。何か用か?」
「あ、明日はこれを着て欲しいなっ!!」
渡されたのは女子の制服だった。
「は?」
「ほら、さっき瑠璃ちゃん、女の子の服着るって言ってたから…」
いつだ?身に覚えがない…。
「何言ってんだ?」
「瑠璃お兄ちゃん、これこれ」
小学生が誰かの携帯を持っている。
画面には、ボイスメモ再生と表示されていた。
『この際だから、いっそちゃんと自分から女の子の服を着たら?』
『そーだな』
響いてきたのは、先程の会話……ということはつまり……。
「てめえ録音してやがったな!」
「だ、だから瑠璃ちゃん、私なんかの制服で心苦しいけど、もし良かったら、着て欲しいなー、なんて…」
秋川が伏し目がちに尋ねてきた。
…ヤバい、このバカ女、こんなに可愛かったっけ?
「あぁ、秋川の頼みなら、構わないよ」
気が付いたら動いていた俺の口は、今後の俺の運命を決定してしまったようだ。
手もなんか素直に制服受け取ってるし!
「あ、瑠璃ちゃん、入ってる下着はちゃんとした新品で、私のじゃないから安心してね!」
一瞬で雰囲気が元のハイテンションに戻った秋川が、一気にそう言って教室から出ていった。
下着………?
気のせいだ気のせい。うん、そうに違いない。
「……え、俺明日これ着るのか!?」
先程の秋川の顔が浮かんでくる。
………後で考えよう。今はまずいな。
俺が今度こそ教室から出ると、後ろから声を掛けられた。
「お、瑠璃じゃねーか。今日、お前も来いよ、話がある」
隣のクラスから出てきて、いきなり呼び出す。
強引すぎるその男は、姓を清水、名を清水と言った。
姓を【しみず】、名を【せいみ】だ。
容姿端麗、眉目秀麗、勤勉誠実、運動抜群とくれば、男の誰からも妬まれるこの男以外に有り得ない。
そう、コイツが俺の言う主人公補正かかってる奴だ。
「あった途端に何だお前は。どこに連れてく気だ?」
「生徒会室に決まってるだろ…何でそんなに警戒してんだよ……」
そうだった。
コイツは生徒会室で最も権威のある男、いわゆる生徒会長って奴だった。
「悪ぃけどパスな。ほら、俺の近くにちっこいのが二匹ほど見えねーか?」
俺は、二人を指差した。
それを見れば、さすがに引いてくれる。その筈だった。
「いや」
首を振る清水。
その目は二人に真っ直ぐに注がれていて、探るような、鋭く抉るような目付きをしていた。
「その二人に用がある」
そう言った清水は、一瞬身震いしてしまうほど、恐ろしかった。
ゑ
久し振りの生徒会室だ。
実は俺も生徒会のメンバーなのだが、幽霊メンバーとして扱われている。
この学校は面倒で、何かしらの部活に所属しなければならないのだが、面倒だった俺は、清水と同じ生徒会に入り、そして行かないと言う暴挙に出たのだった。
他の部活にも、顧問が甘い所は行かないでもお咎め無しみたいだが、生徒会は完全に生徒のみの運営で、行かなくてもバレないのだ。
こんな説明をしてる間に、清水の指示で他のメンバーが全員退室した。
残ったのは、俺とちび共と清水だけだ。
よく見る折り畳み式の安っぽく細長いあの机ではなく、高級感漂う大きめの円形のテーブル、そしてふかふかのソファーと、相も変わらず他の部との格の違いを感じさせる内装だった。
「それで、ちび共に話ってのは、どういう事だ?知り合いなのか?」
俺達の真向かいの場所に、正直やり過ぎなくらいに姿勢を正した清水が座っている。
俺の質問には答えず、清水は探るような目で小学生をじっと見た。
「…瑠璃、お前はコイツらが何だと思っているんだ?」
その質問は、まるでコイツらがろくでもない何かだと言っているようだった。
何か、と言われたら正直言葉に詰まってしまう。
だが、俺は答えを知っている筈なんだ。
昨日、中学生の方が真っ直ぐな嘘のない瞳で言った一言。
「……何って、神だろ?」
……まんまじゃねーか。多分最初の三点リーダー以外は何も変わってない!
清水を窺うと、呆気にとられたような顔をしている。
……あれ、俺、イタい人になってる?
「本気で言ってるのか…?」
清水の顔がひくついている。
怒りだしそうにも見えるが、笑いの前兆なのは間違いない。
「何故それを知ってて一緒にいられる!」
「怒ってました!!」
凄い剣幕だ。
「怖くはないのか?不思議じゃないのか?疑問に思わないのか!?」
「は、はい…?」
なんだコイツ。何言ってんだ?
「とぼけるな!お前、コイツらに力を貰ったんだろ!?そして、その代償を捧げたはずだ!」
「力?代償?」
何を言ってるのか本気で分からない。
「…違うのか?」
「力とか、代償とか、何の話か分かんねーよ………一体何なんだ?」
俺が本当に分からないと通じたらしい。
まあ、空気をよく読める奴だしな。意味の分からん事で暴走はしないと思うが。
「じゃ、じゃあ、そいつらは…………何なんだ?」
清水が信じられないと言うように目を見張る。
「やれやれ…とんだ勘違い坊やだな……ガルマラ、神徒……この言葉に聞き覚えは?」
小学生がそう言った途端、はっきり清水の顔色が変わった。
「な、何故それを……?」
驚きと恐怖の色を浮かべる清水に、魔術師は意地悪い笑みを浮かべ、瞳に憐れむような光を宿した。
「何でってそりゃあ…」
魔術師の身体が薄く光っている…?
マントの裾が持ち上がり、魔術師の身体が空気に晒された。
そこには、魔術師も布一枚の変態もいなかった。
明らかに首から下が、無いのだった。
「僕はガルマラの神だからね」
どうやら、俺の現実はいつの間にか面白くなっていたらしい。
だが、その変革の代償は恐ろしく大きかった。
日常から離れ、異常に身を置きたいと強く願っていた俺だったが、今は夢であることを強く願っているのだから。
いや、願うまでも無かった。
首から下の無い小学生なんて。
剣士と魔術師の二人組なんて。
これから待ち受ける運命なんて。
悪夢以外の、
幻想以外の、
神話以外の、
何者でも無かったのだから。
ゑ3!終わり
ゑ4!に続く
やっと、やっとです!
ここから物語は大きく動いていきます。
えっと、人物紹介ですが、来週に持ち越しです…。
感想、評価、よろしくお願いします!




