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ゑ2! 「学校での評価って一瞬で変わりますね」

「…ふっ…ふわぁ~~」

 眠い目を擦りながら、ベッドから体を起こす。

 いつもと同じ時間に目が覚めたようだ。

 カーテンの隙間から差し込む細い光は、紛れもなく昇ったばかりのそれだった。

 いつもと変わらない朝。

「肌綺麗だね~」

「ひゃあ!」

 思わず悲鳴をあげてしまう。

 体を捻って後ろを見ると、眠気など一切見せない元気な小学生がいた。

 ……そうだった、いつもとはぜんぜん違うんだった。

「驚いた声、女の子みたいだったよ?」

「…んだとコラァ!」

 思わず掴みかかりそうになる。

 落ち着け俺!ここに古島はいない!

 相手は小学生、小学生だぜ?

 小学生相手に熱くなってんじゃ…

「おー、俺も聞いたぜ!見た目も女の子そっくりだし、女装も似合うと思うよ!」

「中学生はセーフですよねぇ!」

 小学生の横にいた剣士に掴みかかる。

 っと、ベッドの上だからバランスが取りづれえな…。

「もっぺん言って見ろオラ!佐野みてーに血祭りにあげるぞ!」

 剣士はポカンとした様子で、俺を見ていた。

「っるっさいのよあんたは!朝からなに大声出してんのよ!」

 廊下から俺の百倍くらいデカイ怒鳴り声が響いてきた。

 はっ…そうだ、何を年下相手に熱くなってんだ俺は。

 第一、コイツらはからかいたくて言った訳じゃないだろう。

 …本心から言われたんだったらそれはそれで苛つくけどな…。

 と、こんな事してる場合じゃない!

 俺はベッドの横に置いていた服を手に取った。

「…おい、お前ら一旦出ろ」

 二人にそう言うと、二人は呆れたような顔をして、それでも素直に部屋のドアに向かった。

「全く…何で寝るたびに服を全部脱ぐんだか…しかもそのベッドに人も寝かすんだよ?神経が理解出来ないね…」

「おい小学生!後で話があるからな!」

 俺の脅しを無視して、二人はドアをくぐって出ていった。

 全く、礼儀のなってないヤロー共だ。

 まあ、さすがに全裸の男と一緒に寝させたのは失礼だったかな…?

 俺は小さい頃から裸で寝る習慣が身に付いているため、あまり気にしていない。

 …そのせいで中学の修学旅行では恥を晒してしまったが。

 服を着終わった俺は、部屋を出た。

 廊下にアイツらの姿はなく、どうやらとっくに下へ降りたらしい。

 ふと、疑問に思った。

(あいつら、俺達が学校にいってる間、何してるつもりだ……?)

 何故だか知らんが、その事を考えると嫌な予感が頭の中でパレードを始めた。



「瑠璃ちゃん、その子達どうしたの!?」

 教室に入った瞬間、(いや、通学路からだけど)みんなの視線が一気に集まってきた。

 どうやら、俺には予知能力があったようだ。

 嫌な予感が見事に的中し、頭の中では嫌な予感達の打ち上げが始まっていた。

「気にしないでくれ…頼むから!!」

 クラスメート達に思いっきり頭を下げながら、自分の席に向かった。

 席に座ると、既に教室にいた古島が、大きな声を上げた。

「分かった!その中学生が、瑠璃ちゃんの彼氏で、ちっちゃい方は子供だろ!?」

「あぁ!!椅子が勝手に!!…オラァッ!」

 右隣の席の椅子を手に取り、古島に投げつけた。

「うわっ!!っあっぶねぇー……る、瑠璃、落ち着きたまえ!ここで暴れても怪我人が出るだけだぞ!」

 間一髪で椅子を避けた古島が、訴えかけてくるように叫んだ。

「確かにな!そしてその怪我人とは……お前だぁ!!」

 そう返しながら、古島の席にライダーキックをお見舞いした。

「ギャース!!」

 どっかの怪獣のような悲鳴を上げ、机に押し潰された古島を尻目に席へと戻る。

 ちなみに、いつもの事なので、誰も騒がない。

 飛んでいった椅子の持ち主の有沢は別だったが。

「ちょっと、瑠璃!!あんた私の椅子に何してくれてんのよ!古島に当たったら汚いでしょ!」

「そ、それは酷くないかな美穂ちゃん!?……ウソウソ有沢さん!」

 立ち直りの早い怪獣は、有沢の名前を呼ぶというバカをやらかしてとどめを刺された。

 ……悲しいかな、これが俺達のクラスの日常の光景なのだ。

 …冒頭文の「つまらない」に当てはまらないって?

 ええい、細かい事は気にするな!物語は最初の引き込みが肝心なんだよ!

 俺が変わらないクラスの光景に、悲しいため息をついていると、机の上に背中が二つ見えた。

「てめーら、机から降りろ!どけ、邪魔だ!」

 怒鳴りながら、コイツらがついてくる運びとなった朝の時間を思い出す。

「なに言ってんだよお前らは!ダメに決まってんだろ!」

「えー?良いんじゃない?瑠璃なら大丈夫だと思うわよ、私は困るけど」

「何で俺なら大丈夫なんだよ!第一、コイツらのコスプレが有る限り、この家から出したらダメだろ!」

「その点については心配しなくてもいいよ。上手い言い訳を用意してるから。」

「ほら、瑠璃、大丈夫だって!良かったわね~」

「全然一切全く良くねぇー!!!!」

 と言うわけで、こうなった。

 ……詳しい話は聞かないで欲しい…。

 クラスのみんなには今から説明しなければならないのだが……。

 有沢が体を向けてくる。

「それで、瑠璃?その二人は何な訳?まさか、古島のバカが言った通りじゃないでしょ?」

「それは生物学的に有り得ないから安心しろ。…こいつらは、俺達の親戚の子だよ。その親戚がとある事情で困ってるから、今日は預かってるんだよ」

「ああ、アンタんとこ昼間は誰もいないんだっけ?」

「そーだ。…それだけだぞ、ほんとに」

 俺が力を込めた目で訴えかけると、有沢は興味を無くしたように「そ」とだけ言うと、体を背けた。

「ふーん分かったよ瑠璃ちゃん!!」

 右斜め前の席からハイテンションな声が聞こえた。

 声の主は、秋川 愛沙だ。

 滅茶苦茶テンションの高い奴で、俺を本気で女と勘違いしている節がある。

「でもさでもさっ!…その子達のかっこは、何なのかなっ?」

 …そうだった!有沢がスルーしたから、俺まで忘れてたよ!

 くそっ!……この説明何とかするとか言ってたな…。

 俺は小学生の方に目配せした。

 無視されないか心配だったが、小学生は意を汲んだように頷いた。

「僕から説明しますよ…」

「へぇ、君がしてくれるの!?そのかっこはまほーつかいかな!?」

 秋川の方が小学生よりバカに見える…。っく、現実は何て厳しいんだ!

「僕達のこの格好はですね…」

 そこで一旦溜めやがった。

「瑠璃お姉ちゃんの為なんです」

 …………イマナンテイイヤガッタコノばかハ

「瑠璃お姉ちゃんが、凄くコスプレ好きで、面倒見るかわりにこの格好をしろって言ったんです。何か萌えるらしいです」

 ヤバイ、イカリノアマリウゴケマセンヨ?

「……えーと、瑠璃ちゃん、個人的な趣味は…押さえた方がいいかなー、と思うんだけど……」

 ヤバい、秋川が引いてる。

「……おい、クソ詐欺小学生、ちょっとお話がある」

 マントの襟を掴んで、教室から出ようとする。

「う、瑠璃お姉ちゃん、また、あれやるの……?」

 ヤバイコイツアクマダアクマニチガイナイフツウコンナコトイイマスカイエマスカ?

 教室の空気がヤバい。

 みんなの目が、視線が、言葉に出来ない。

 うわぁ、人って視線だけで殺せるよ……。

 俺、今死にそうだもん。

 気が付いたら、体が勝手に動いていた。

 やってはいけない事だ。

 絶対にしてはいけない事だと分かってても、止められなかった。

 目の前の小さな体の、更に小さな目が、大きく見開かれた。

 みんなの驚く顔が見えるが、俺の体は止まらなかった。

「瑠璃、あんた……」

 有沢の声が、信じられない、と言っている。

「ごめんなさい許して下さい俺が悪かったです!!」

 そう、俺は。

 小学生相手に。

 ……土下座したのだった。

「あ、えっと、その」

 小学生が慌てている。

 だが、こいつに喋らせてはいけないのだ!

 俺が死んじまうからな(社会的に)!

「ごめんなさい!!何が気に障ったのか分かんないけど、マジですいませんでした!頼むから、許して、俺のデマを流さないでくれ!」

「…ぷっ」

「ははっ」

「わはははは」

「あひーひっひっひ!」

 …最後のは間違いなく古島だなそうだな!

 ヤバい、みんなすげぇ笑ってる。

 穴掘って隠れてえ…いや、異次元に吸い込まれたい…。

 見れば、小学生も苦笑していた。

 …………苦笑?

「悪い悪い、ちょっとからかい過ぎたかな……ごめんね、顔上げてよ」

 あれ、俺、慰められてる……?

 地面を見ると、水滴が光っていた。

 …え、嘘、俺、泣いてたのか……?

「みなさん、どうもお騒がせしました。瑠璃お兄ちゃんは、とても健全な男の子なので、先程の騒ぎは、僕の悪ふざけでした。どうもすいませんでした」

 そう言って、小学生がペコリと一礼した。

「まー、瑠璃がそんなことする筈がないからね、始めから信じちゃいなかったよ」

 有沢が笑いながら言った。

「へ……?」

 俺、まだ、生きてる……?(社会的に!)

 そうと分かった途端、安心感と共に涙が込み上げてきた。

 教室のドアの前で大泣きしてしまった。

「みんな、うるさいわよっ!……って、瑠璃ちゃん、ちょっとどうしたの!?」

 担任の先生が教室に入ってきた。

「ふぐっ……うっく、ひっく……せ、先生………うわぁぁーん」

「ちょっと、瑠璃ちゃん!?だ、大丈夫だから、ね!?………やだもう可愛い!」

 先生が優しく抱き締めてくれる。

「あのー紫野先生……今、ほんの一瞬本音が漏れてましたよー」

「い、いくら先生でも、瑠璃ちゃんの独り占めは許さないよ!!」

 有沢の呟きに乗っかるように、秋川が叫んだ。

「やだっ、もう……瑠璃ちゃんったら……可愛いんだから!!」

「ひゃあああ!」

 ヤバい、何かおかしいぞこの人!

 うわっ、頬擦りするな!!やっ、駄目だ、そこは触っちゃ駄目だって!

「はーなーれーてーせーんーせー!!」

「っ、ちょっと、秋川さん!?」

「た、助かったぁ……」

 慌てて自分の席に避難する。

「……はっ!……コホン、えーでは皆さん、授業を始めますよー!」

 ………誤魔化しやがった!

 今この人覚醒してたよな!?

 だが、通常状態に戻った事に、心底感謝する。

「おーい、瑠璃ちゃん………あのさ、今日の放課後、空いてるー?」

 離れた席から古島が声を掛けてくる。

 何か熱っぽい目に危機感を感じ、有沢に目で助けを求めた。

「……何でこっち見んのよ………あんなバカ無視しちゃえば良いじゃない……そんな顔しないの、分かったわよ……安心して、私がアイツを半殺しにしてあげるから、ね?」

「ちょっと、そこ!?俺が半殺しになるってどういう事ですか!?」

「古島君、授業中ですよ!黙りなさい!」

 紫野先生の一喝により、その場はどうにか収まったようだ。

 ……ん?何か忘れてるような………?

 この感覚、前にもあったな………?

 確か………いつだったか?

 思い出せそうに無いので、昨日からずっといる二人に聞こうとした。

 思い出した!

「だあ、お前達の紹介先生にしてねーよ!つーか先生はいいんですか!?」

 思わず声を上げると、先生は全て分かっていると言うように微笑んで見せた。

「ふふっ、言わなくても分かってるわよ………瑠璃ちゃんの彼氏と子供でしょ?」

「やべぇこの人バカだ!!!」

 すんげぇバカだ!

 滅茶苦茶本気じゃねえか!

 ………もうどうでも良いや……。

 そんなこんなで、一時間目が終わったのだった。

 あ~、何か疲れたな……。



ゑ2!終わり

ゑ3!へ続く


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