ゑ23! 「絶体絶命は取り敢えずフラグなんだし」
【分かんなかったよ!?あの解説下手だろっ!!】
なんだアレ!最後ぐだぐだじゃねーか!
「君の前世の魂が、悪魔に取られたんだってば」
【だから何でだよ!】
尋ねると、テーベは少し顔を伏せた。
「………多分、なんだけど…」
【多分?何?】
深刻な理由だろうか……。
少し不安になる。
テーベは意を決した様に俺を真っ直ぐに見た。
「バカだから、騙されてる」
【バカじゃないの俺!?】
てゆーか騙して良いのか悪魔!
ん、てか。
【悪魔に取られたんだったら、何で俺がこうして生きてるんだよ】
訊くと、テーベは言った。
「君の魂が悪魔になったからね」
………………?
?、要するに悪魔にされたって事か?
だが、テーベは続けた。
「地獄、魔界……呼び方はどうだって良いけど、人間の魂がそこに何年もいれば、自己防衛の為に魂が悪魔になるんだ。そこの空気は人間の魂を削るからね」
……要するに、誰でもそこにいれば悪魔になるらしい。
「その場合に、中身まで人格が変わればそのままそこに住み着くが、中身が人のままであれば、悪魔達も苛めがいが無くなった、って事で魂を返却するんだよ」
…心はちゃんと人間なんだな。
どこかほっとした。
【…魂が悪魔だから……これが俺のほんとの姿か?】
すると、意外な事にテーベは首を振った。
「君の魂は、君がなんと言おうと女だからね。そんなゴツい悪魔は、君の怒りを体現してるだけだよ」
……魂が、女の子だってー。
元の体も女の子だし。
もう、良くね?
…てか、このキモい声と体は怒っているからなんだよね?
仮苫に。
仮苫零徒。
復讐だと言っていた。
だが、復讐ならば、本人を狙えば良い。
何故に、周りの者達まで傷付ける。
葵は、後悔していた。
だが、仮苫は?
怒りが、改めて沸き上がる。
【仮苫………】
自分の口から出た声が、恐ろしかった。
「呼んだ?」
【っ!?】
余りにも、突然。
仮苫が背後にいた。
「安心してよ、ラムネスはまだ無事だ………それにしてもさ、何で回復してんの?」
仮苫が冷たい目をレリノアに向ける。
「仮苫、貴様、何が目的だ」
テーベが問いかける。
「……もう言っても良いかな…」
そして、仮苫はポケットに手を入れた。
取り出された物は、……
【あ……ぐぁぁぁぁぁ!」
何だ。直視出来ない。痛い。
全身が焼け付く様だ。
気付いたら、体は人間に戻っていて、痛みも収まっていた。
葵が俺を抱き締めている様で、少し安心した。
何だ、あれは。
「やっぱり悪魔は苦手かなぁ、これ」
「有り得……ない………なぜ貴様がそれを持っている………」
テーベは目を見開き、仮苫の持っている物を凝視している。
「【桐枝画の箱】……さて、誰から貰ったでしょう?あはははは!」
次の瞬間、テーベが消えた。
直後、仮苫に何本もの光や闇や、炎、氷、岩など、あらゆる物が突き刺さる。
間違いなくテーベの魔法で、そして。
仮苫は、効いていない様だった。
「へぇ!ほんとにこの体って強いんだな!これなら、わざわざ追い払う必要、無かったかな?」
そう言って高らかに笑い、仮苫は突然姿を消す。
突き刺さっていた物はその場に残り、それらが地面に落ちたと同時に。
仮苫が、テーベを片手で掴んで立っていた。
テーベの幼い顔は、目を開けていない。
死んではない様だ。
だが。
悲惨だ。
まるで虐待を受けているかの様に、顔にはあざが有り、更に額から血が流れている。
改めて、怒りが生まれる。
その時だ。
「ミー…ナに……何を…………した……」
テーベが掠れる声で、そう言った。
理解した。
ミーナさんが、箱を管理していたのだ。
「大丈夫、殺したりなんかしないよ………ほんのちょっと右目と右耳が不自由するだけさ」
その言葉を聞いたテーベの気配が、明らかに変わった。
「あ、……」
葵が座り込む。
俺も気付けば、膝が折れ、その場に座り込んでいた。
黛も、心なし顔が青い。
あんなに傷だらけなのに、見た目は小学生なのに。
その迫力は、恐ろしすぎた。
「そうカリカリするなよ、大丈夫、運が良ければ彼女もまた笑えるよ」
それなのに。
仮苫はそう言って、テーベを挑発する。
いや、最早挑発ですらないかもしれない。
当然の事実を言っているだけで。
「じゃ、ちょっと失礼」
仮苫の姿が、初めからいなかったかの様に消えた。
その時だった。
「騒がしい。何の騒ぎだ…」
懐かしい、黒い声がした。
ゑ
「あ、あんた……!」
葵が嫌悪感を顔中に広げ、黒柱を見た。だが、飛び掛かるような真似はしない。
「緊急召集、じゃなかったんですか…?」
俺が訊くと、漆黒の貴公子は鼻で笑った。
「無視したに決まっているだろう………ところで」
顔付きが険しくなる。
「あの魔法好きの子は、どこへ消えた」
………?
魔法好きの子?
「テーベの話、でしょうか」
黛が尋ねると、黒柱は相好を崩して頷く。
「そうだよ、お嬢ちゃん」
………まさか、年下が好みか……?
「彼なら、虐待されて誘拐されました」
黛の言葉に、黒柱の気配が一変した。
黛を見て優しい顔付きになっていたのが、一瞬で怖くなる。
……いや、さっきのテーベ程じゃないが。
「誰に?」
黛は黒柱を真っ直ぐに見て、はっきりと言う。
「仮苫、零徒。人間です………じきここに来ると思います」
「そうか」
そう一言言って、黒柱は突然動かなくなった。
え~と、さっきから怖い気配が多いせいで、腰が抜けて立てない。
………前は濡れてないからな!
葵は黒柱の様子に驚いた様だが、嫌悪感は相変わらずはっきりしていた。
レリノアは、ずっと回復に努めているが、あれでは多分終わった直後に、また仮苫を殺そうとするだろう。
しばらく時が流れ。
いつかは分からない。
気付けば、目の前の黒柱が仮苫の首を片手で掴み、立っていた。
「これか?」
「え?」
突然の問いかけに間抜けな声を上げると、黒柱はもう一度聞いてきた。
「これが、仮苫か?」
「………そうだ」
黒柱はそれを聞き、迷いなく仮苫の首を折った。
………へ?
いや、ちょっと待って。
余りにも呆気ない。
心がついていかない。
死んだのか?
だが、
「やっぱし抜け殻じゃダメかー」
折れた首が喋った。
うん、ごめん、前濡れた。
だって怖いんだもん!
と、次の瞬間には仮苫の姿が消えていた。
黒柱も。
そして数瞬、仮苫のみが姿を現す。
いや、何かが、姿を現した。
禍々しいその姿は、何だろう、どこか巨神兵の大軍が一つにまとまった様な錯覚を抱かせる。
子供心に恐ろしかった巨神兵。
分かるだろうか、ジブリで世界を火の海にした方々である。
その大軍が、一身に凝縮された様な禍々しさ。
姿は、余り仮苫と大差無い。
身体中に刺青が入ったのと、後は服が鎧にとって替わった位だ。
それだけで、恐ろしすぎた。
仮苫が、こちらを見て顔をしかめる。
「何だ、漏らしたのか?汚いなあ」
そして、俺達を見て、黛に目を止める。
黛は、仮苫のこの姿を見ても、テーベの時とは違い、一切顔色を変えなかった。
「君は、無理矢理連れていくしかなさそうだね」
そう言った直後、黛と仮苫が消えた。
俺はと言うと、腰が抜けて、体がすくんで、動けなかった。
すぐに仮苫が戻ってきた。
さっきとは段違いの早さだ。
「ねぇ、君は、どうかな?」
葵は、顔面蒼白ではあったが、仮苫を睨みつけた。
「おぉ、怖い怖い」
仮苫は笑うと、また葵と共に消える。
そして、戻ってくる。
「君は、自分で歩け」
仮苫は嫌悪感の滲む声で、そう言う。
「………え?」
「漏らした奴を担ぎたくなんかないんでね。さっさと立てよ…」
仮苫は冷たい顔で言う。
仮苫の台詞に、怒りと羞恥が込み上げてくる。
もう自棄で立ち上がろうとしたが、………やはり、立てなかった。
………っあ!
「立てってば。早く」
蹴られた?殴られた?
分からない。
側頭部がとても痛い。
気付けば、どうやら何かをされて、元いた場所から壁まで吹き飛ばされた様だ。
痛い。
涙が出てくる。
「立たないなら、殺すよ?」
軽い口調で、とんでもない事を言ってくる。
駄目だ。何か言わないと。
「こ、腰が…ぬ、げでぇ……だ、でない゛でず……」
涙声で必死に言った為か、まるで地方の方言みたいだ。
すると、仮苫は笑いだした。
「あはははははははははは!」
しばらく大笑いした後、嗜虐的な笑みを浮かべ、冷たく言った。
「なら、這えよ」
逆らう元気も力も、残ってなかった。
扉は仮苫が開けてくれたが、惨めだった。
這ってる内にまた涙が溢れてくる。
声を押し殺して泣いていると。
「あぐぁ……」
「泣くなよ。耳障りだ」
仮苫が、容赦なく踏みつけてきた。
間違いない。
あばらか、背骨か。
体が動くところをみると多分あばらだが、間違いなく折られた。
進むたびに激痛が襲い、遂には動けなくなった。
そんな時だった。
「おやおや、可哀想に」
見覚えの有る、堕騎士。
「私が、運んであげましょう」
やめろ。何故、お前が生きている。
サディスティックな笑みは変わらない。
それなのに。
何故、優しくする。
ゑ23!終わり
ゑ24!に続く




