ゑ19! 「錆びた剣、欠けた魔力、三の闇、戦士」
Σ
「か、りとま…零徒……仮苫っ…仮苫零徒っ!!!」
激情を抑えきれずに、家の家具を壊している。
分かっている。
こんな無駄な事より、大切なあの人を回復させるのが先だと。
月に居る今なら、確実にラムネスの助けになるのだと。
だが、回復させるには相手をはっきりと思い浮かべなければいけない。
楽しい思い出も一杯あるのに、どんなに頑張っても浮かんでくるのは、傷だらけの、【神殺し】系の武器でやられたであろう、あの姿だけだった。
卑怯。
何て、卑怯な。
私もあの時、ちゃんと罰を解呪はしていた。だが、半月で力が出なかった。
そんな日の、昼の二時。
とんでもない重さが体にかかっていただろう。……そんな時を狙うなんて。
復讐。
知らない。
知るか、そんなの。
【裁き】に飛び込んだ、そちらが…
いや、これは言っては駄目だ。
誰も悪くない。
あんな卑怯な方法で、見当違いな復讐をした、仮苫零徒以外は。
…だからこそ、私は復讐する訳にはいかない。
あんな奴と、一緒になってしまうから。
深呼吸すると、少し落ち着いてきた。
よし、大丈夫。
今なら、大切なあの人を、救える。
息を整え、あの人からプロポーズされた日を思…
「…レリノア」
記憶の声が、背後ではっきりと響いた。
「ラムネスっ!?どうしてここに?」
ラムネスはぼろぼろのままで、にっ、と笑ってみせた。
どうやら、シガイヤをどうにか出来たらしい。
「シガイヤは、復讐をやめたって…心配かけてごめんな、そこまで酷い怪我じゃないから」
そう言うラムネス。本当に平気そうだ。
だが、
「強がらないでよっ、ばかっ!!」
ラムネスの頬を張ってやった。
この程度では傷にも響かないから大丈夫だ。…代わりに、心に響く。
ラムネスは申し訳なさそうに俯いた。
「顔見りゃ分かるのよっ!あんたが、心配かけないように言ってんのも、ほんとは今にも倒れそうだって事も!!」
ばつが悪そうな顔で、ラムネスは言う。
「……やっぱレリノアはすごいな。すぐにばれちまった…迷惑かける、ごめん」
そして、ラムネスは力が抜けた様に膝を折り、そのまま倒れた。
「あんたが演技が下手すぎんのよ、ばか」
誰も聞いてない照れ隠しが無性に恥ずかしい。……一人なんだから、素直に言っても、良いかな?
「……何年あんたの事好きだと思ってんのよ……………っ~~~!!!」
…後悔し、首筋まで真っ赤にしながら、ラムネスを回復しにかかった。
Σ
少し前。
シガイヤは、むしろすっきりした様な気持ちで、居住区を後にした。
あれほどに後悔しているのならば、シルビアも自分と同じように許してくれるはずだ。彼女は、とても優しかった。
だが、少しの引っ掛かりを感じる。
仮苫の話では、闇の蛇はもっと残忍だった筈だ。それも、シルビアを故意に殺したのだと。
あの蛇は、確実に違う。
あれも又、大切な人を奪われたのだ。
それも恐らくは、シルビアと違い、残忍な何者かに。
あの様子では、黒柱殿が怪しい。
あの方は、子供と老人以外は何とも思っていないからな。
…っ…!
殺気が迫ってくる。
早い。
だが、捉えられる。
相手の来る方をしっかりと見据えた。
「葵を、どうした」
!?
気付いたら、後ろに回り込まれている。
振り返ると、傷だらけで今にも倒れそうな、そう、
「ラムネス殿……?」
ラムネスがそこにいた。シガイヤも何度か剣技を教えて貰った事があり、顔馴染みの神の一人だ。
だが、剣神は厳しい表情を変えずに、剣を向けてきた。
「葵を、殺したのか」
成る程。
どうやら私が復讐をしに来たと知っていて、そして復讐を済ませた帰りだと思っているらしい。
首を振り、否定する。
「彼女は、罪を背負うそうです。そうして生きてくれれば、命を取るまでもないでしょう」
ラムネスは、ほっとした様に剣を下げ、そして頭を下げた。
「すまない。お前も葵も知り合いだから、少し気を張っていた。…それでは、失礼」
そう言って、姿が掻き消える。
シガイヤは苦笑して、歩き始めた。
全く、現れるのも突然ならば、消えるのも唐突な人だ。
「待て」
そう呼び止められる。
振り返ると、
「シルビアの仇は、取ったのか?」
紛れもない、仮苫の姿がそこにあった。
……おかしい。
何故こいつがここにいる。
それに、何故。
こんなにも強大な力を感じる?
前に会った仮苫は、もっと弱そうだった。
だからこそ、その言葉を信じたのだ。
弱くて、何より誠実そうな。
今では、強大で残忍な気配を漂わせている。
唐突に理解した。
自分は、仮苫に踊らされたのだと。
嘘の情報を掴ませ、闇の蛇を殺す様に。
だが、何故だ。
これほど強大な力を持っているならば、自らが手を下した方が良いだろう。
こいつは、自分よりも強いのだから。
「…命は取らなかっただろう?上出来だ」
何を言っている?
…!?
まさか、殺すのが目的ではない?
ラムネス殿は自分が復讐する事を知っていた。
それは、誰から聞いた。
「君も、贄の一人だからね」
「貴様、何を企んで……っく!?」
体が何かに拘束される。
魔法だ。
戦場を駆けていた時、何度か受けた拘束魔法。
だが、記憶にあるそれよりも、遥かに強力だ。
「貴方は本当に危険な賭けをしますねぇ……この方が葵様を殺していては、生け贄が減ったでしょうに」
誰かの声が聞こえる。
拘束魔法をかけた魔術師だろう。
「さて……贄が全て揃うまで、眠って貰いましょうかねぇ…」
意識が急速に薄くなる。
途切れゆく意識で最後に見たのは、横腹が大きく裂けた鎧だった。
ゑ
「…か、分かった」
テーベが先程から光の塊と喋っている。
月に着いて、アイヴンに入ったは良いが(ちなみに受付は光と闇で顔パスだった)、捜し始めてしばらくすると、突然テーベの近くに光の塊が現れ、どうやらそれでラムネスが無事だと分かったらしい。
テーベはこちらを向いた。それと同時に光も掻き消え、全員がテーベに注目する。
「さっき聞いたと思うが、ラムネスは無事だ。…そして、葵も又、無事だそうだ…………」
それは、つまり…。
「……良かった、ほんとに良かったぁ…」
テーベの言葉で体の力が抜け、その場に座り込んでしまう。
葵は、無事だ。
だけど、まだ安心して良い訳じゃない。
「瑠璃、今から、君のお姉さんを迎えに行くよ。ほら、立ってくれ」
テーベは、そう言って手を出してくる。
そうだ。
今から、姉ちゃんを迎えに行くんだ。
むしろ、今からが本番かもしれない。
「…ん、テーベ、ありがと」
手を取って立ち上がる。
……見た目小学生、小揺るぎもしねーな。
ひ弱そうな外見のくせして、俺が取った小さな手に体重を込めても、ちゃんと立たせてくれた。
まぁ、それは良い。
俺達は、アイヴンの居住区へと向かった。
母が言ったように、秋川達は来なくて良かっただろう。
スムーズな話の進行(大人の事情ってやつ)の為に省いているが、傍目にも恐ろし気な怪物達を、出る端からぶっ倒していく母やテーベや光神が居てさえ、俺は怪我をした。ちなみに、清水は相変わらずポケットにいる。元の大きさは怖いので、お願いしてこのままにして貰っているのだ。
……黛はどういう訳か、怪物の前を通っても何もされない。
チートかよ!おかしいだろ!
……なんでも、ここの怪物達は青柱によって生み出されたもので、死んでも自動生産され、しばらくしたら又いるらしい。
…こっちは死ぬのに!
ほんとにアトラクションだった。
だが、その内に怪物の姿すら見えなくなり、遂に居なくなったか、居住区かな?と思ったら単に怪物が速すぎて見えないだけだったりと、何だかアトラクションの枠を越えたりしていた。
秋川達がいれば、危険だっただろう。
……まぁ、俺が安全だと言う訳ではないのだが。
実は、歩いては間に合わないので、レリノアから連絡が有ってからすぐ、ラムネスを捜す必要が消えたという訳で、光神がだした光の矢みたいなのに乗って、猛スピードで進んだのだ。
それまでに進んでいたのは約3.5kmだという。
アイヴンが1000km四方で、つまり、居住区までは約500km程の道のりになる。……最短距離でな。
てことは、滅茶苦茶初めの方で敵が既に見えなかった訳で……。
うん、やっぱアトラクションじゃねーなこれ。
光の矢に乗りながら、背筋がひやりとした俺だった。
そして、庭を越え、城が見えてきても、光の矢に乗ったままだった。
うん、黛の謎現象もチートだけど、これはもっとチートだな。
マリオカートでずっとキラーになってる気分だ。
折れ曲がりまくってまるで迷宮の様な城を、光の矢は器用に曲がって進んでいく。
そんな時。
「っお兄ちゃん!?」
背筋が、凍った。
焦った黛の声を聞き、自分が矢の上に倒れていたのだと気付く。
通路一杯に広がる光は、暖かくもあり、どこか眩しすぎた。
「瑠璃、どうしたの?」
母が心配そうに覗き込んでくるが、安心させるように首を振ってみせた。
「何でも、ないから……目眩がしただけだよ」
言えるわけない。
死んだ筈の堕騎士を見て、恐怖で倒れてしまったのだ、なんて。
あの時と同じ、残忍な笑みだった。
体を起こし、立ち上がるが、体はまだ震えていた。
ゑ19!終わり
ゑ20!に続く
今回の投稿はここまでです!
つーか第一期そろそろ完結です!
ここまで読んでくれてる人、喜んでください!
恐らく、次の週が最終投稿です!




