ゑ1!「いつもよりも神2つ分だけ騒がしい夕食」
家に着いたのは7時10分前だった。
二階の部屋に入り、服を手早く着替えてから、下に向かう。
既に食事は運ばれていて、姉が睨み付けてくる。
「さっさと座んなさいよ。あんたがいないとこっちが食べらんないのよ」
有難い挨拶の言葉を掛けてくる。
「何だよ。別に時間には間に合ってるだろ。そんなに早く食いたいなら先に食べりゃいいのに」
「待ってやってんだから感謝くらいしてよね。こっちは15分も前から待ってんだからむしろ謝って欲しいくらいだわ」
「はいはいごくろーさん」
そんなやり取りをしながら席に着く。
食卓に座っているのは3人だけだった。
こっちを睨み付けている方から。、少し長めの髪を後ろで1つにまとめた、いわゆるポニーテールの、偉そうな大学一年の姉は、名を橘 葵と言った。
もう一人の小学5年の妹の方は、何か日本人形みたいにほとんど表情を変えることはなく、真っ黒で艶やかなストレートの髪が、人形っぽさを更に増している。名前は橘 黛という。
気付いた方もいるかもしれない。
俺達の両親のネーミングセンスの無さに!
まあ、父は橘 藍、母は橘 群青って言うし、家系的な物かもしれない。
だが、致命的な問題があった!
この姉妹はそこそこの美人で、姉の方は初めから葵だから関係ないが、妹は黛なんて名前でも結構モテているのだ!
…それだけではただの家族自慢だな…。
だが、俺がこいつらにそっくりだと言えば、状況は一変する!
もう分かっただろう…そう、美人にそっくり=女顔!しかも名前が瑠璃だし!
幼稚園の頃からたびたび間違えられ、制服になった中学からはさすがに間違えられはしないが、同級生からは「瑠璃ちゃん」なんて呼ばれる。
そんな地獄も中3で終わりだと喜んでいたら、清水も古島も佐野も同じ高校で、2年の今では教師にまでちゃん付けで呼ばれている。
それもこれも、あのバカな親のせいだ!
ちなみに、なぜここに親がいないかと言うと、二年前にアメリカに行ったからだ。
いや、もちろん子供達を残して逃げた訳ではなく、俺が中3の頃に突然アメリカでレストランを開くとか言い出し、本当に行ってしまった。
実際には前から計画していて、俺の志望校が決まると実行に移す、とちゃんと予定を立てていたそうだが、んなこと言われても知らないものは知らないし、突然と言ってもあまりにも突然だった。
まあ、男の俺に瑠璃と名付け、妹には黛と名付けるくらいだから、それぐらいは許せる範囲かなと、最近思うのだが。
…いや、思っちゃだめだろ。月に一度の仕送りはしてくれるが、年末年始と盆以外には戻ってもこないからな…。正直育児放棄かとすら思う。
まあ、残った家族の面倒は妹が見てくれてるしな。
そう、妹がだ。
「では、兄さん、姉さん。お手を合わせて下さい」
その妹がいつもの号令をかけた。そして、祈りを捧げるように手を合わせる。
俺達も無言でそれにならう。
「それでは。すべての宗教の神様、仏様、悪魔、邪神、それから大いなる何かへ祈って下さい。そして、私達の血肉となる今日の食事へ感謝を捧げましょう」
そう言って黛は目を閉じ、静かに祈り始めた。
すべての宗教って言ってる時点で気付いてるかもしれないが、別にこいつは宗教を持っている訳ではない。
何か妹が言うには、「その人が信じれば神様はいる……」とか何とか、まあ、そんな感じで、全ての 神様仏様を信じることにしたんだと。
宗教には違う教えがあるからそれを全て守る事は出来ないと思うし、矛盾もあると思うが、それを妹に言うと、「信仰ではなく、信じているんです。」と言っていた。
…神様信じるのに教えには背くんだ……何か滅茶苦茶失礼な気がする…。うちの妹何者だよ。
目を閉じた暗闇に、昼間の二人が浮かぶ。
と、それにしても今日はやけに長いな。
もう5分以上たっている気がする。…まあ、はっきり時間が決まっている訳じゃないけど、こうなった時の黛は長いんだよな~…。
考える事がなくなった俺は、神とやらに祈ってみる事にした。
(どこの宗教のどの神でも構いません。どうか、昼間の二人組にまた会わせて下さい。)
(別にいいけど?)
…何か返事が聞こえた気がするけど…まあ、あんな軽い感じで返事する神なんている訳ないし、気のせいだろ。
「では、頂きましょう」
黛の声で目を開けた。そして、五人全員で箸を持つ。…え、五人?左から確認していくと、黛、葵、それに昼間の少年達だ。うんうん。何もおかしい所はない。
にしても、今日の夕飯はすげぇ豪華だな…。俺は並んだメニューから高そうなヒレカツをとった。うん、けっこう美味いな。そして箸を置き、ちょっと息を吸った。
「「っておかしいだろ!」」
葵とツッコミが被ってしまった。いや、そんな事より!なんでいるんだよ!
神様パワー?スゴッ!祈った直後なんですけど!うわっ、俺神様なめてた!
「なっ、何なのよあんた達!人の家に勝手に上がり込んで、何してるのよ!」
葵が大声をあげる。すごい勢いで立ち上がり、魔術師の方を睨み付けた。
「答えなさいよ!…あんた、小学生?何してるの!?」
すると、魔術師が葵の方に顔を向けた。じっと葵を見つめている。
「な、なによ…」
怯んだように、葵は声を出さなくなる。
魔術師はゆっくりと視線を戻し、(いつ置かれたのか全然分からないけど)自分の席に置かれているお茶を手に取った。
湯呑みの中で全く揺れない水面(平衡感覚ハンパねぇ!)を見つめている。
水面に映る瞳はどこか思い詰めているようで、話しかけづらい雰囲気が漂っている。
と、突然湯呑みを口に運ぶ。
小さな唇に湯呑みが触れ、少しずつ傾いていった。段々と傾きが大きくなっていく湯呑みを、俺と葵は息を呑んで見つめた。湯呑みはどんどん傾いていき、ついにその動きが止まる。
湯呑みが、口から離れた。…一体、何を言うつもりなんだろうか…。
「何コレおいしい」
「っ殺す!」
「姉よ待てっ…!」
魔術師と姉の間に慌てて割り込む。…ってかこの魔術師は結果的に無視したってことだよな…。
「答えなさいっての!あんた達なんなのよ!」
…葵ってキレたら結構見境がないな。
うん、答えなさいとか言っときながら、俺を殴ったり蹴ったりしてる…。っいたっ!いたい、そこは痛いって!
と、突然に姉が動きを止めた。止まったのは突然だったが、俺から見りゃそりゃもう理由がまる見えだったから、驚く事はない。
それに、いつもの事だしな。…最近は無かったけど…。
「ま、黛。落ち着いて、」
焦った様子で姉が言う。
「姉さんこそ。大切な食事の場ですので、静かにして下さらないと、困るんです」
姉の首の後ろ…延髄だっけか?に包丁を当て、妹は静かにそう言った。
…てか、この状況でも動じない剣士には…何と言うか、すごい神経だな…。…ゆっくりと、だが確実に食事をしていたようで、もう半分も残ってない。
「分かったから、取り合えず、包丁を離して、…ね?」
葵がそう言うと、黛はあっさりと包丁を引いた。まぁ、いつもこうだし、別にあの包丁を実際に刺した事がある訳じゃないからな。
ではなぜ、俺と葵がこうも怯えるかと言うと、まあ、俺が身を持って体験した事があるからだ。
両親がアメリカへ行った直後、その頃から黛は食事にうるさくし始めた。別に、両親がいなくなったからこっそり…とかではなく、むしろその逆のようだ。
どうやら両親は、姉や兄をすっとばして妹に先にアメリカに行く事を打ち明けたらしい。
そしてあろうことか、「留守中を頼んだ。三人で仲良くな」と言ったんだそうだ。
これで言った相手が俺か葵だったら良かったんだが。…まあ、黛は大学一年の姉や高2の俺より頭が良いからな。
いや、マジで。大学の問題とかも解いちまうし、一体何者って感じなんだよ…。まだ小5のクセに…。
まあ、それはともかくとしてだ。
留守を頼むと言われた黛は、こう聞き返した。「三人で仲良く…とは、具体的にはどうすれば良いのでしょう?」と。
するとお袋が「そうね…。せめてご飯は一緒に食べて欲しいわ…まあ、そんな感じよ。」という風に答えたんだそうだ。
…どうやら妹の耳には「せめて」や「欲しい」の言葉は聞こえなかったらしい。
そして両親はアメリカへ行った。それから一ヶ月くらいたったある日、姉が「部活で遅くなるから先に食べてて」と電話を入れてきた。
夕飯は既に出来ていて(ちなみに食事は黛が作る。結構美味しいんだよ)、そして俺は腹が減っていた。
黛が、姉が帰ってくるまで待つと言ったので、俺もひとまずは同意したのだが、うん、我慢はするもんじゃない。
黛が部屋に入ったのを見て、その間にこっそり先に食べていた。
多分物音で気付いたのだろう、黛の部屋のドアが開く音が背後でした。
「先食べてるぞー」と俺が軽く声を掛けたら、「兄さん…」と、失望したような声だけが聞こえてきた。
そして直後に、黛が俺に殴りかかってきたのだ。
金属バットで。
…死ぬかと思ったよ!そのまま気絶したし!
そして帰ってきた姉が救急車を呼んで、病院に運ばれたらしい。
ぼこぼこの俺は足が折れてて、全治二ヶ月だった。命があることに感謝したぜ…。(ちなみに、病院には階段から落ちたと言っておいた)
それから、俺と葵は黛には逆らわないと決めたのだった。
……………………。
長い回想だったな…。
あれ…?何か忘れてるような…。
取り合えず、全員で夕飯を食べ始めた。
ゑ
「それでは。本日もいい夕食でした。ごちそうさまです。」
黛に続いて、残りの四人も「ごちそうさま」と言った。
つーか、何か忘れてる気がするんだが…。
俺が食器を片付けようとすると、剣士がその皿を取って言った。
「俺が片付けるからよ、もうちょっと座っとけって」
「ああ、ありが…たくねぇ!すっかり忘れてたけど何なんだよお前ら!」
思い出した!ってか何で忘れてた!?目の前にずっといたのに!
俺の問い詰めに、剣士は不思議そうに答えた。
「何って、神だろ?」
………………………………。
…うわ、何つーか、その…。
「イタすぎるわ…」
葵がそう呻く。そう、その発言は、イタすぎるのだった。(俺以上に!)
しかも、この剣士が本気で言ってるのが分かる…分かってしまう…。
「あー、何かどうでもよくなってきちゃった。私先にお風呂入るね…。」
疲れた様子の葵が、部屋を出ようとする。
「ちょっと待ってよ」
その葵を、魔術師が呼び止める。
「何よ?電話くらいなら貸してあげても良いわよ」
「そうじゃない」
偉そうなその見た目小学生は、葵に言い聞かせるように言う。
「いいかい、僕とこいつが何なのかは、明日に必ず説明するから、今日はここに泊めてくれ」
へぇ、なるほどなるほど…じゃねえ!全然納得出来ねえよ!
「出来るかんな事!さっさと帰りやがれ!」
思わず声を荒げてしまう。
だが、魔術師は動じることなく、偉そうな態度を一瞬で引っ込め、とても真剣な表情になった。
…小学生がこんな表情出来るのかと言いたくなるくらいの、俺でも出来なさそうな顔だった。
「頼む。今は理由を聞かずに、ここに泊めてくれ」
…訂正しよう。偉そうな態度は引っ込んだんじゃなくて、控え目になった。
「瑠璃、あんたの部屋、貸してやって」
「はぁ!?」
小説的には有り得ないタイミングの言葉だろ!
葵の顔を見ると、疲れたような、怒りたいような、諦めているような、良く分からない顔をしている。
「この家じゃ空いてる部屋は父さんと母さんの部屋ぐらいだけど、あの部屋には誰も入れたくないから」
葵がそう言った。
…部屋に誰も入れたくないのは、前に葵が両親の部屋を掃除しようとしたとき、その時に何かあったんだそうだ。それ以来、誰も両親の部屋には入っていない。
「だから、瑠璃、お願いね」
そう言って、葵は部屋を出ていった。
……あー、ま、何か知らんが、今日は騒がしくなりそうだな…。
ゑ1!終わり
ゑ2!へ続く
人物紹介は後程行うので、それまでは「あーこんな感じの名前の奴がいるのかー」
ぐらいの認識で良いです。
宜しければ、感想ください。




