ゑ11! 「死にたくなるような後悔で生きている」
冒頭は、瑠璃が目覚めたシーンの、葵視点からスタートしてます。
Σ
「瑠璃………生きててありがとね………さよなら」
そう言って、瑠璃から離れた。
役に立たない魔法神は呆けていて、それは好都合だった。
部屋を出て、二階に向かう。
心が、闇に染まっている。
分からない。その闇が、心地良いのだ。
まるで、母に抱かれているよう。
闇とは言っても、禍々しい闇ではない。
そうだった。
そうだったのに。
今は、心に黒い柱が立っている様だ。
蛇が、心を揺さぶり、思考を歪ませる。
(瑠璃が、生きてた)
それが、嬉しい。
そして、会わせる顔が、無かった。
私のせいで、あんな顔になって、その上、一度は死んだのだ。
痛かっただろう。
怖かっただろう。
私のせいで。
償いを、しなければ。
どうする?命を絶とうか。
駄目だ。
命を絶つのを止めたのは、私だ。
その私が死んでは、瑠璃はきっと…。
どう償う。
答えは、出ていた。
復讐だ。
復讐を、するのだ。
神と言っていた。
だからなんなのだろう。
あの役立たずも、神であるのではないか。
復讐を、してやる。
両親の部屋を開けた。
目の前に広がる、今にも夜が明けそうな森。
怖くない。
暗く残る影が、闇が、心に染み込んできた。
向かう。
ガルマラへ。
償いを、しなければ。
夜明け前の森へ、足を踏み入れた。
闇が、足元に絡み付いてくる。
もっと濃くなれ。
思うたび、闇は色を増した。
夜明けが近い。
太陽が嫌だ。
光が嫌いだ。
森ごと、闇に包まれたら良いのに。
ふと思い付いて、足元の闇に手を伸ばし、掬い上げる仕草をしてみる。
手の中で、闇が揺れている。
掬えるんだ。
手の中の闇を、空気に振り撒いてみた。
森が、闇に、包まれていく。
まるで、夜のように。
昇る太陽は見えなくなり、心地好い闇に包まれた。
夜の獣の気配が広がるが、気にならなかった。
神と戦うというのに、獣を怖がってどうするのだろう。
森を歩く。
深い闇だが、木々よりも黒い闇のお陰で、むしろはっきりと見えていた。
と、何かの気配が現れた。
【ウワア、ニンゲンジャナイカ!メズラシイナァ~!タベチャイタイナー】
喋っている。気持ち悪い。
だけど、喋れるのなら。
「ねぇ、ここに、神様が現れない?」
【ウワッ、ハナシカケテキタヨ!ユウキアルネ~。カミサマダッテ?フフフ、シッテルヨ、アイツダロ~…………オシエナイケドサ!】
襲い掛かってきた。
何だ。教えてくれないのか。
全く、時間の無駄だった。
さて、どうしよう。
相手は、どうやら羽の生えた熊のようだ。
いや、実際の熊よりは大きいだろう。
グロテスクな蝙蝠の羽でこちらに向かってくる。
この森は木々の間が広いので、あの大きさでも困らないようだ。
でも、不思議だ。
何故、あんなに遅いのだろうか。
分からない。
あんな遅さで、地面に落ちてしまわないのか。
魔法で浮かんでいる?
そんな筈ない。
あれならば、あの短足で直立して走っても、よっぽど早いだろう。
遅い、待っていられない。
堪らず、相手に歩み寄る。
それでも、相手は速度を変えず、表情すら変えない。
バカじゃないのか。視線が変わってない。
どこを見てるんだ。もう隣にいるのに。
触ってみる。
柔らかい。驚く程に。
まるで水の様だ。
あ。
勢い余って皮を破ってしまった。
痛そうだ。
灰色の骨が見える。腹の辺りだったからか、内臓の様な物も見えた。
だが、熊は表情を変えない。
何だ。本当に、どうかしている。
その時、不思議な物を見た。
空中に、蝶が止まっている。
羽の動きが無い。
そこで、理解した。
何だ。
自分が速いのだ。
自分が強いのだ。
どうしてだろう。
分からない。
分からないが、好都合だ。
神にはまだ足りないだろうが、少しは強くなれた。
森を進む。
ふと、振り返った。
相変わらず間抜けな遅さ。
何だか、早いのはつまらない。
相手が動かないのだから。
どうしよう。
ふと気付く。
さっきよりも、ずっと闇が濃い。
まさかと思うが、関係してるのだろうか。
少し迷い、闇にお願いしてみた。
もう少し、薄くなって。
すると、闇が薄くなる。
【ヘ?………ウワァァァ!!!】
熊は、凄いスピードで去っていった。
別に命を取る気は無かったので、問題ない。
「待っててね、瑠璃。復讐するから…償うから…それまで、捜さないでね……」
昼の中、夜よりも暗いその森に、葵は消えた。
ゑ
「姉ちゃんがいない!」
「落ち着け、瑠璃!慌てたら駄目だ!」
テーベが諭してくる。
だが、焦る心は落ち着かなかった。
「いないんだぞ!朝様子が変だった!さよならって……」
「落ち着け!!!!」
大きな声で、体が縮こまる。
テーベの顔が、恐ろしく怖い。
「慌てるな、行き先の見当なら、付いてるから」
見当が、付いている?
「どこだ!姉ちゃんは、どこにいるんだ!」
くそっ、何で気付かなかった!
恐らく朝の内には消えていただろう。
今頃、どこで何を…。
「良いか、今朝、君が死んだと思って、君を咬んだ奴について、葵さんに伝えようとしたんだ………そうしたら、明らかに復讐を考えた顔になった」
何だ、何を言っている。
「だから、名を伝えるのはやめた。そうしたら、今度はしつこく名前を聞いてきた。……ガルマラの神だと、それだけ言ったから、多分、【シュバイツの森】に、入った」
復讐…だと?
「何で復讐なんだ!俺の復讐なんて、そんな事する必要ないのに!大体相手は神だぞ!勝てるはずが無いだろ!」
「………僕の、せいなんだ」
どういう、事だ、…?
「僕が、葵さんを慰めようとして、逆に追い詰めてしまった。……その上、復讐に駆り立てるような事まで言ったから…」
テーベの顔が、とても悲痛になっている。
「それは、違うだろ…」
「瑠璃……」
テーベの顔は、今にも泣き出しそうだった。
「泣くなよ……お前らしくないぞ。もっと偉そうにしてろ………で、姉ちゃんは、また森に入ったって?」
テーベは、気持ちを切り替える様に息を吸って、目を閉じてから、頷いた。
「ありがとね、瑠璃……ああ、間違いなく森だろう」
後ろを振り返ると、ラムネス、黛、そして清水も、頷いてくれる。
「なら、捜しに行こう、今すぐ!」
テーベは、こくん、と頷いた。
ゑ
両親の部屋の前に立つ。
「開けるぞ……」
まだ少し緊張するが、静かに扉を開けた。
暗い。
「これは……?」
テーベの驚いたような声が聴こえる。
見覚えのある光景。
濃い闇で輪郭がはっきりする。
まさか、母がいるのか?
一歩踏み出そうとする。
「駄目だっ!よせっ!」
ラムネスが、腕を掴んで止めてきた。
「でも、葵がいるんだろ!?」
テーベが苦い顔で頷いた。
そして、絶望的な事を言う。
「この闇は、…葵さんが生み出してるよ……そして、」
そう言って、闇に触れた。
すうっ…と手は入っていき、そして、引き抜くと。
闇に呑まれた分だけ、手が消えていた。
「この闇は、僕らの捜索を拒絶してる」
「拒絶……?」
テーベは、欠けた手に息を吹き掛けた。
欠けていたのが嘘の様に、手が戻る。
「君のお姉さんの事で、話が有る」
その顔は、希望を掻き消す様であり、不安が芽生えた。
Σ
【キミハ、ソノカミヲミツケテ、ドウスルンダイ?】
「復讐するの」
そう言うと、相手のユニコーンは、少し驚きを見せた。
【ナニヲサレタンダ?フクシュウダナンテ】
「弟を」
瑠璃を、
「殺されたの」
すると、ユニコーンは少し目を伏せた。
【ワカッタ、オシエルヨ。ソイツハ、クロイヘビナンダ。トッテモオオキクモ、チイサクモナレル、フシギナヘビダヨ】
それだけ言うと、ユニコーンは後ろを向いた。
【ゴメンネ、ボクカライエルノハ、コレダケダヨ】
「とんでもない、いい情報だったわ、有り難う」
そう言って、ユニコーンと別れた。
相手は、蛇の神様。
ガルマラにいて、真っ黒の蛇。
大きさは、自由らしい。
段々分かってきた。
……何だか、疲れてしまった。
眠りたいが、どうしよう、この森では安心して寝れそうにない。
せめて、相手が私に触れなければ。
そうだ。
思い付く。
闇に、溶けてみよう。
次の瞬間、葵の姿が消え、代わりに森の闇が濃くなっていた。
ゑ
食卓に、皆が集まる。
清水も、俺の横に伏せている。
「姉ちゃんは、どうなってんだ……」
テーベは、お茶を飲み、そして言った。
「【覚醒】、したんだよ」
「覚醒……?」
それはまるで、アニメや漫画の単語で。
現実味が無さ過ぎて、イメージが湧かなかった。
イメージする必要なんて無かったのだ。
だってそれは、そのまんまだったのだから。
ゑ11!終わり
ゑ12!に続く




