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最終章

悦子は、中国での手術を無事終えて帰国後、療養中の身だが、既に来年の市議会議員選に向けて周到な準備を始めている。



時々『モナミ』にも顔を見せて、人的交流の開拓に余念がない。



悦子を見ていると、同じ女性として複雑な思いだが、いっそ、愛とか恋とか湿っぽいものにとらわれない、ふっきれた自由さが羨ましい。


悦子の辞書には、おそらく“献身”なんて言葉はないだろう。


自身の野望のために、闘志をむき出しにして挑み続けている。



悦子は頭もきれるし、そこそこ美しくもある。


力強い言葉で畳み掛けるように話し、これと決めた獲物は必ず攻め落とす。

類まれなる集中力で、何時間でも途切れずに仕事に没頭できる。



悦子は、政治の世界でも、きっと成功するだろう。



・・・・・・・



中井は、可愛そうだった。


隆介の遺産相続から弾き飛ばされた上、斡旋収賄罪だなんて寝耳に水の容疑をかけられて、混乱し憔悴した。


本人は、事件には全く無関係だと主張し続けたが、証拠物件が次から次へと出て来たらしい。



悦子に渡した中井とのやり取りのテープも、その過程で何かに利用されたのだろうか?

少し、心が痛む。



中井は、逮捕される直前に行方をくらまし、それ以降、消息がつかめなくなっていたが、先日、ミナミの公園前にBMWをとめ、車内に排気ガスを引き込んだ自殺体で見つかった。



うっすらと顔に赤味がさした綺麗な死に顔で、ロレックスの時計をしていたそうな。


店に来た議員秘書が言っていた。


選挙区内で不幸があれば、弔電を打ったりするのも彼らの大事な仕事のうちだ。その手の情報収集は、恐ろしく早い。



生前、中井と話した折、福井の出身だと言っていたことを想い出す。


「どんよりと鬱陶しい空が嫌で、病気の母さんが泣いてとめるのを振り切って、大阪に出て来てしまった」と言っていた。



「せっかく明るい空の下に来れたのに、また暗いところに戻らなあかんのやね、中井さん」・・・・


この世界で生き延びるには脆弱すぎた中井の短い人生に、順子は、そっと手を合わせた。


・・・・・・



物心ついた時から、順子はずっと、用心深く人生を歩いてきた。


在日ゆえの不条理なペナルティを背負いながら、女ひとり、よくここまで昇ってこれたな・・・と思う。



騙されて、裏切られて、辛いことの方が多い半生だった。

それでも、這いつくばって生きてきた。



だけど、これからは、今までと違う人生を思いっきり生きてみたい。


もう2度と、隆介と恋に落ちた時のような目くるめく時間は訪れないだろう。


それでも、恋を引き寄せ夢を追って、想定外の人生を探して歩いていく。



「隆介、これからも私のこと、ずっと見ててね!終わりまで・・・」



順子は、形見にもらった隆介のロレックスに軽く口づけた。



前編 おわり

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