風のように
掲載日:2026/11/05
絶筆の前で何もできずにいて、ただ一度だけ横断歩道ですれ違った、あの日のことを今も鮮明に憶えています。あなたは私に気付くことなく頬を膨らませたり、空を見上げたりしながら道を渡ろうとしていた。何か声を掛ければ良かったのかもしれないが、お互いの空気感は遠いし波長が滲んでいるような気もしたので、そのまま通り過ぎる事しかできなかった。一期一会すらなれなかった一瞬の出会いはスナップショットのような切り取られたリズムのように淡々とした描写に似ていた。あの景色に何を思えばいいのか、今となっては分からない。ただ僕らは風のように通り過ぎただけだった。




