第四章 終焉の暮らし
次の日、私は学校へと向かった。
教室に入り、いつもの変わらない日常、そのはずだった。
教室内が沈黙で静まり返っている。
その静まり返り方が不気味で、私は声をかけることが出来なかった。
話しかけるなという雰囲気で、誰も私を見ようとしなかった。
『ガラガラ』
担任が教室に入る。
山浦先生「今日は大事なお知らせがある」
山浦先生はいつもの体育会系特有の雰囲気ではなかった。
それはまるで、緊張した表情や、困惑している表情。
みやびも学校に来ていない。
私は昨日の『桜の木』が、脳裏に浮かび、冷や汗をかいた。
山浦先生「今朝のニュース、見たものはいるか⋯?」
そう言うと、私以外のほぼ全員が手を上げている。
そして山浦先生は続けて言う。
山浦先生「見ていない人もいるから、説明する」
私がその言葉を聞くと、体育の持久走でも早くはならないほど、心臓の鼓動が早くなった。
山浦先生が深く息を吸い、決心したような感じで話を始めた。
山浦先生「笹塚みやびが、何者かによって殺害された」
詩織「っ⋯!?」
それを聞いたクラス内では、沈黙と悲鳴、そして泣いている生徒もいた。
私は泣かなかった、むしろ衝撃すぎて涙が出てこなかった。
『なにか心当たりのある人はいるか?』と、続けてそう言ってきた。
私は昨日遊びに行ったことを、黙って隠した。
今言ってしまったら、私が犯人扱いされるかもしれないと思ったからだ。
突然の事実に、私は頭の中が空っぽになった。
いつもなら、すぐ目の前にいるみやびがいない。
もう二度と会えない、声も聞けない、ゲームセンターも一緒に行けない。
そんな事を考えていると、あの思い出たちが静かにそっと、私の心の中から消えていく。
最初から存在しなかったように、そして最初から何も無かったかのように。
私はバグり始めていった。
詩織「⋯」
その日の私は沈黙したままで、言葉が出る元気はもうどこにもなかった。
午前の授業も、お昼ご飯も、放課後になるまでの時間も。
全てポッカリとしていた。
山浦先生「早乙女、話があるから生徒指導室に来い」
そう言われて視線を前に向けると、周囲は私のことを見ていた。
『まさか⋯』とか、『やっぱり何かあるんじゃ?』など、色々聞こえてくる。
その空間が嫌すぎて、私は急いで呼ばれた場所へと向かった。
詩織「なんでしょうか⋯」
これで二回目の呼び出し。
一回目は恒例のお説教タイムだったけれど、今回はとてもその雰囲気ではなかった。
山浦先生「早乙女、笹塚とよく一緒にいたよな?」
詩織「いました⋯」
山浦先生は眉間にシワを寄せたまま続けて言う。
山浦先生「疑っているわけじゃないんだ、なにか変わったことはあったか?」
詩織「昨日⋯」
山浦先生「昨日?」
詩織「いえ、なんでもありません⋯」
私がそう言うと、山浦先生は『そうか』とだけ言うと、それ以上は何も言ってこなかったし、聞いても来なかった。
むしろ、聞かなかったのだ。
どうして何も聞いてこないんだろうと、私は思ったけれど、私も言わなかったし聞かなかった。
山浦先生「仲の良い友達がこんな形になってしまうのは気の毒だが、あまり深く考え込むなよ」
詩織「はい⋯」
私はそれだけ言い残し、その場を後にした。
帰りの支度をしていると、クラスの男子たちが私を囲む。
クラス男子「なぁ、お前がやったんだろ?」
その言葉だけを聞いた他の人達が『やっぱり⋯』とか、『怪しいと思っていた』など、その時の感情で言ってくる。
詩織「⋯違うよ」
クラス男子「じゃあなんで不自然なんだよ」
詩織「⋯」
私は言い返す気力が無かった。
黙っていればいるほど、私が不利になるのは分かっているはずなのに、言葉が出てこなかった。
クラス男子「やっぱりお前⋯!」
と、そう言いながら私の胸ぐらを掴みかかってくる男子。
山浦先生「やめろ!何をしている!」
それを見た山浦先生が止めに入る。
その力はとても強く、私とその男子は勢いよく引き離された。
山浦先生「早乙女がやったということじゃないんだからな!」
そう男子に向かって、いつも以上に声を張る山浦先生。
初めてそのことを見た私は、少しだけ心が軽くなった。
山浦先生「早乙女、もう帰れ。しばらく家で安静にしていろ」
と言われた私は、すぐさま下校した。
帰り道、時刻は夕方を周りもうすぐ夜になる。
いつもならこの時間でさえも、何も感じないのに、今日だけは恐怖に感じていた。
詩織「みやび⋯」
私がそう彼女の名前を静かに呼ぶと、どこからか不自然で不気味な笑い声が聞こえてきた。
私が恐る恐るその笑い声の方に目をやると、そこには『あいつ』が立っていて私の方を観察するような目で見ていた。
『桜の木を見た回数と、その意味を知れ。』
あいつは確かにそう言って、私が視線をそらしもう一度見ると、そこにはもう誰もいなかった。
詩織「桜の木を見た回数とその意味⋯」
いつも以上に深く考え込み、答えは見つからない。
何を考えても、今何を考えているのかさえも、分からなくなっていた。
私はもう急いで家に帰り、玄関を開け中へと入っていく。
その玄関のドアはいつもならなんとも思わないのに、いつも以上に重く感じた。
自室へと向かい、夕食を食べ終え、お風呂も済ませた私は、リビングにいた。
その時、ふと視線がテレビに向かっていた。
『先日、何者かによって殺害された高校生の事件ですがー』
アナウンサーがそう言うと、被害者の名前は出ていないのに私は『彼女』の事だと、自然に思ってしまった。
そこでそのニュースを見ていると、後ろには『桜の木』が写っていた。
詩織「いやぁぁっ!」
私は思わず声を上げ、急いで自室へと向かい、布団の中に潜り込み震えていた。
私は事件の関与もしていないのに、まるで犯人になった気分でいっぱいだった。
その時私の携帯が着信で鳴り響く。
その音を聞いた途端、私はさらに震えた。
携帯を取り出し、名前を見るとこの世にはもう存在しないはずの名前、『みやび』の文字が浮かび上がっていた。
詩織「っ⋯」
私は息を呑み、恐る恐る電話に出る。
『桜の木を見た回数と、意味を知れ。次はお前だ。』
詩織「嫌やぁぁあっっ!」
私はすぐさま電話を切り、持っていた携帯を部屋のドアへと投げつけた。
その電話の声のトーンは、彼女と少し似ていた。
目を瞑っても、あの言葉が脳裏をよぎっては消えての繰り返しで、私は鳥肌や震えが止まらず、その日は寝て起きての繰り返しだった。
ふと時計を見ると時刻は朝の六時。
学校へ行く気力が無くなっていて、その日を境に欠席する日数が増えていき、そのまま不登校へとなった。
私の心はボロボロの状態。
たまに心配そうに来る山浦先生が来ても、私は会おうとはしなかった。
私はたった一人の友達を失い、生きる理由もどこかへと行ってしまった。
詩織「私もいなくなれば、みやびに会えるのかな⋯」
私は良くないことを無意識に考えていた。
そのとき、部屋の窓の外から舞い上がる小さな欠片が、私の部屋へと侵入した。
その欠片は見覚えがとてもあり、その直後に私の携帯が震えた。
詩織「メール⋯」
差し出し人を見るとあの子の名前。
私は記憶が蘇り、過呼吸になりそうだった。
今までにない以上に、苦しみながらも携帯を手に取る。
そのメールを開こうとする瞬間『見るな!』とどこから声が聞こえてきたが、もう既に遅かった。
『見ている、逃げられない、ずっと。』
詩織「ひっ⋯!」
私は声が裏返り、急いで携帯を閉じた。
見てはいけないものを見てしまい、心臓がいつも以上に鳴り響く。
私はご飯も食べれず、ほぼ毎日自分の部屋に引きこもっていた。
外へは出ず、インターネットも開かず、元々持っていたノートパソコンを見るだけで、鳥肌がとまらない。
そして視線を外へと向けると、誰かが不気味に微笑み、こちらを見ているそんな気がした。
私は、その視線へ向けず、カーテンを締め切った。
部屋の中は暗く、外の光だけが私の孤独感を映すように、小さく照らし続けていた。
続く。




