第三章 不穏
これは、平穏から不穏へと少しずつ吸い込まれていく、そんな物語。
山浦先生が言っていた『全寮制の取り壊し』と、『学校負担での引っ越し』。
そんなの急すぎて戸惑いが隠せなかった。
みやびがもし同じ立場だったら、どこに住むのだろう?
あの時の彼女が私に向けた笑顔は、どこか遠く感じて、何も言えなかった私は不安と焦りでいっぱいだった。
授業を終えて放課後になり、私たちはゲームセンターへと向かった。
その足取りはとても軽やかで、まるで遠足に行くみたいな感じだった。
みやび「ゲームセンター着いたら何して遊ぼっか?」
彼女はとても楽しそうにしている。
その笑顔を見て、私まで楽しい気持ちになる。
詩織「本当にね!着いたらなにしようかな〜」
私は少し微笑んでみやびに問いかける。
みやび「今私の言ったことをそのまま言っただけだよね!?」
ねぇ!?と、彼女は続けて言う。
そんなやり取りが、ごく普通の高校生で、ごく普通の日常。
みやび「あっ⋯!」
彼女がそう言い、指差す方向へ恐る恐る視線をやると、そこには待ちに待ったゲームセンターへと辿り着いたのだ。
ごく普通のゲームセンターなのに、学校帰りにゲームセンターへ着くと、とても特別な気持ちになる。
まるで、私たち二人のためだけに作られた、そんな感覚になる。
みやび「早速中へ入ろうよ!」
彼女は『もう待ちきれない!』と言わんばかりの顔をしている。
私はそのまま彼女の勢いにつられて、中へと入った。
そこには異次元的な世界があった。
ゲームセンター特有の空間、普段なら滅多に聞かない騒音。
そしてなによりも、ゲームセンター醍醐味のメダルゲーム。
その全てが揃って初めて、ゲームセンターなんて呼ばれるんだろうな、と私はそう思った。
みやび「ね!メダルゲームやろうよ!」
彼女はそう言いながら、メダル貸出機にお金を入れた。
『ジャララララ』と、排出口から大量のメダルが出てきた。
みやびは『カップが足りない!』なんて叫んでいる。
その姿も、その表情も、純粋無垢な子供みたいに、とても楽しそうだった。
詩織「カ、カップ持ってきたよ!」
私はオドオド焦りながら、ぎっしり入った大量のメダルカップを交換しながら、メダルが止まるのを待つ。
詩織「一体どれくらい買ったの⋯」
みやび「えーっとね、ざっとこのくらい⋯?」
そう言いながら片手で『一』を表している。
私は思わずため息を付いた。
けれど、みやびが楽しいならそれでいいやと、そう思った。
みやび「だって!少ないとすぐ終わっちゃうでしょ!?」
と、感情論で私に言ってくる。
詩織「またいつでも来れるから、その時買えばいいのに⋯」
みやび「新しく出来た友達と一緒にゲームセンターに行くのは、そのゲームセンターも私にとっては初めての空間になるの!だからいいの!」
ぷいっと、彼女は頬を膨らませながら、遊びたいメダルゲーム機を探している。
私はその彼女の気持に共感した。
詩織「そうだね、じゃあ今日は楽しもう!」
みやび「うん!楽しもう!」
と、さっきまでの様子が嘘みたいに一転した。
詩織「アレ、楽しそう!」
みやびのその無邪気さな笑顔を見ていると、私まで楽しい気分になれる。
彼女は、『光の象徴』そのものだった。
みやび「どれどれ?」
わー!楽しそう!と、その場ではしゃぎながら少し跳ねている。
その様子は、とても純粋無垢な感じで可愛い。
みやび「さっそくやろうよ!」
彼女が私の制服の裾をひっぱりながら、半ば強引に引き寄せてくる。
私たちはその席に着いて、投入口にメダルをカンストするまで大量に入れた。
ゲームセンターは過去に何度か行ったことはあるけれど、こんなことは人生で初めてだった。
隣に座るみやびをそっと見ていると、それに気がついたみやびは優しく微笑んできた。
目が合った私はすぐさま逸らし、メダルゲームの画面を見ると、とても盛り上がっていた。
詩織「わ、なんか来たよ⋯!」
みやび「本当だ!数字揃え〜!」
と言いながらみやびは、機械に向かって念を送っている。
私は『確立だから念を送っても⋯』と、言いそうだったけれど、言うのをやめた。
言ったらまた何か言って来そうだと、そう思ったからだ。
その時、みやびのすぐ後ろで、誰かが不気味に微笑んだ気がして、後ろを振り返ってもそこには誰もいなかった。
詩織「気のせい⋯か」
私は小さくボソッと呟いた。
みやび「見て!揃った!」
みやびが強く私の肩を叩きながら叫んでいた。
画面を見ると『WIN!』という文字。
すぐさまメダルフィールド内に大量のメダル五百枚が、流れ込んでいった。
あわわ!とみやびは驚きを隠せていなかった。
今日はとても運がいい日。
なにか嫌な予感がすると思いたくなかったけれど、誰かにそう言われたような気がした。
それから私たちは持っていたメダルを全て使い果たし、解散することにした。
みやび「楽しかったー!また来ようね!」
その表情は、無邪気さ全開の笑顔だった。
詩織「そうだね、また来よう」
約束だよ?という顔をしているみやびを見て、私の人生で最高の瞬間となった。
私たちはゲームセンターの出口へと向かい、扉を開くと時刻は夕方。
それぞれ解散して、帰る途中にふと思ってしまった。
その夕方はいつもより少しだけ暗い。
街の風景も、早く点く街灯さえも不気味で、その街灯はいつもなら光り輝いているのに、今日だけは薄暗く感じた。
詩織「あれ⋯」
その瞬間、私は立ち尽くした。
『綺麗なものには毒があるよね!』と、前に言っていた彼女の言葉が脳裏によぎる。
その場で無意識に目を開き、とある物を見ていた。
詩織「どうして⋯ここに⋯」
『桜の木があるの⋯⋯』
来る時は存在していなかったその桜の木は、風も吹いていないのに、花びらだけが揺れている。
その揺れ方はとても不自然で、恐怖を与えるような。
そして『次はお前だ』と、言っているかのような揺れ方をしていた。
その桜の木から、とある人物がこちらを見ている。
詩織「っ⋯!」
私は声も出なかった。
その人物は、メダルゲームで遊んでいる時、みやびの背後に立っていた人物と同じ。
その人は、『あの時と同じ笑み』を、こちらに向かって不気味に微笑んでいた。
続く。




