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虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍発売中


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8、相談

 その日はマルセナとリーナに案内され、用意された部屋でゆっくりと休むことになる。

 マルセナとリーナがテキパキと寝る準備をしているのを私はぼーっと見つめていた。今まで王国では侍女の手伝いなどあり得なかった。だって私は穢れた血だもの。


 一人ではない湯浴み、寝床の準備がない、何かを頼めば持ってきてくれる……この場で起こる事が私にとっては初めての事だらけで、少し狼狽えてしまった。

 リーナは気づいていないだろうけれど、きっとマルセナは私の不自然さに気がついているはずだ。


 ただ彼女はできる侍女だ。あの場で訊ねる事はしなかった。

 まあ……もし聞かれていたとしても、私は普通に答えていただろうけれど。


 全ての支度が終わり、ベッドに潜り込んだ。

 こんな温かい布団は初めてだわ、そんな事を思っているうちに私は自然と眠りについていた。


 翌日、私は日の出と共に目を覚ます。

 王国では大体仕事が終わらずに、いつの間にか寝ていた。そして陽の光で目が覚めてそのまま仕事に取り組む日もあったのだ。だからだろうか、光に敏感になっているのかもしれない。


 ベッド左横のサイドテーブルの上には、水差しが置かれている。そして右横のテーブルには昨日セヴァルが持ってきた魔法書が二冊置かれていた。

 一冊はデヴァイン王国のもの、もう一冊はソラル帝国のものだ。

 ニコニコしながらこの二冊を持ってきたセヴァルは、私が興味深そうに本を見つめていたからか満面の笑みだった。


「私の研究所に来ていただけば、色々とお教えする事もできますので、ええ、是非! 是非!」


 顔が近すぎるとマルセナにの手によって締め上げられたセヴァルだったが、それをものともしない表情で、私への勧誘を続ける。魔力量が多いことに加え、魔導皇女と呼ばれていた母を持つ私にきっと期待をしているのかもしれない。

 まずは本を読んでから、と告げれば手をさすりながらセヴァルは「絶対ですよ〜!」と言いながら帰っていった事を思い出した。


「興味もあったし、読んでみようかしら?」


 私は二冊の本を手に取り、読み比べながら進めていった。



「……様、エスペランサ様!」


 しばらくして。

 名前を呼ばれたと感じた私が顔を上げると、そこにはマルセナとリーナが立っていた。二人の表情はどこか憂を感じる。二人に「おはよう」と声をかければ、マルセナが目を伏せながら話し始めた。


「エスペランサ様が起きている事に気が付かず、申し訳ございませんでした」

「も、申し訳ございませんでした! な、何かご不便な事はございませんでしたか?!」


 頭を下げる二人に私は目を丸くする。

 ああ、そう言えばブレンダが一度専任の侍女に怒っていた事があったわね。仕える主人より前に起きなさい、とかなんとか。二人はその事を気にしているのかもしれない。

 けれども、朝早くに目が覚めてしまうのは私の習慣だ。彼女たちが合わせる事もないと思うのだけど……。


「こちらこそ、魔導書に熱中してしまって二人に気が付かず……申し訳なかったわ。水差しもあったし、不便な事もなかったもの。それに、私は日の出と共に目覚めるのが癖になってるみたいだから、気にしなくていいわ」


 そう笑って告げたのだけれど、二人は更に萎縮してしまったの。どうしようかしら、と悩んでいた私はふと手元にある魔導書が目に入った。

 仕事の時もそうだったけれど、朝は頭が働いているのか内容がスラスラと理解できるのよね……ならそれを理由に仕組みを作ってしまえば良いのでは? 勿論、公爵様にも許可を得なくてはね。


「だったら、お願いがあるのだけど聞いてもらえるかしら?」


 私は小首を傾げながら手を合わせて懇願した。


 私の提案は、やはり勝手には決められない事だったらしい。

 

 ただし、二人から『公爵様の許可が貰えたのなら』という言質を取ることができたので、改めて彼へ許可を得る事にした。その話が終わるとマルセナが私の着替えを用意し始め、リーナは軽食を取りに食堂へと行ったらしい。

 食堂で食事をした方が良いのでは……とマルセナに訊ねると、公爵様からそう提案されたのだという。

 

「『昨日の今日で、慣れない場所に疲れているだろう』という公爵様の配慮でしょう……その時はまだご就寝の最中かと思われておりましたから」

 

 との事だった。

 私があまりにも静かに読書をしていたので、就寝中かと思われていたらしい。そろそろ目覚める頃だろうか、と音を立てずに部屋へと入ったら、既に起きて読書している私が目に入り、マルセナは驚きで目を剥いたという。

 

「まさか日の出と共に目を醒まされているとは思いませんでした……」


 そう悔しそうに告げるマルセラを見て、私はクスッと笑ってしまう。きっと彼女は完璧主義なのだろうと思った。

 

 食事を終え、私はリーナに屋敷を案内してもらう。

 執務室や食堂、応接間だけでなく、武器庫や詰所、使用人棟の入口など隅から隅まで把握していく。これでも屋敷の部屋の位置を覚えるのは得意なのである。頭の中で地図を作りながら、全体像を把握していった。

 

 途中で仕事をしている使用人たちとも出会う。

 彼らの私に対する視線は、緊張が大部分を占めているようだが悪意は感じられなかった。王国では使用人からも侮蔑の視線を送られていたから、心が軽い気がする。だからだろうか、いつの間にか私も微笑んで「お疲れ様」と声をかけていた。


 リーナも非常に可愛がられているようで、使用人の中には彼女に手を振る者もいる。

 その後私を見て「申し訳ございません」と謝罪するのだけれど、使用人同士の仲が良いのは素晴らしい事だと思う。王国は使用人たちも切磋琢磨して……と言えば聞こえが良いけれど、根底には高位貴族たちに取り入りたいと思いがあったのだろう。皆が足の引っ張り合いをしていた気がする。


 「仲が良くて良い事よ」と伝えれば、その使用人は笑ってお礼を言っていたわ。本当に……素敵な場所ね。

 そんな事をしみじみと思っていた私が最後に連れられてきたのは、訓練所だった。


「エスペランサ様、こちらが訓練所です! 旦那様は大抵執務室か訓練所のどちらかにいます! 今日は……あ、あそこに!」

 

 リーナが指差す方を見ると、訓練所の中心には剣らしきものを構えている男性二人が見合っていた。

 

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