7、二人の侍女
その後、私が疲れているだろう、という事でセヴァルは退出を命じられた。よほど私の魔力を確認したいのだろう……彼は何度も「お嬢様」と嘆き叫ぶような声を上げている。
ヘンリーはそんなセヴァルを引きずって部屋の外へと追い出そうとしていた。ヘンリーは執事でありながらも鍛えているようで、セヴァルを襟元を掴み引っ張っていく。
けれども、セヴァルも負けてはいられない。扉にしがみついて離れないのだ。
「こんなに素敵な実験……いや、魔力量を持つ方がいるのに! なんで測定しないんですかぁ!」
私が魔導皇女の娘と知った上での、このゴネっぷり。それだけではなく、私の事を実験対象としか見ていない徹底ぶり。――ええ、研究者としては立派ね、と半ば呆れながらも私は感心していた。
こんな彼の手綱を握っているなんて、公爵様は凄いのね……と思って私は公爵様を一瞥するけれど、当の彼は手を当てて眉間を揉んでいた。どうやら彼も持て余しているようだ。
いつまで経っても終わらない喜劇。このままでは、セヴァルは永久に縋り付いているだけだろうと私は判断した。
「セヴァル、もし良ければこれを貸し出しましょう」
彼に近づいた私は、お母様の形見の首飾りや割れた宝石をセヴァルの前に差し出した。彼は泣き叫ぶのをやめ、私とそれを交互に見つめている。
「宝石は割れてしまいましたが……それでも何かしら研究には役に立つのではありませんか?」
そう告げた私に、セヴァルは満面の笑みを返した。
「よろしいのですか?! ああー、ありがとうございますぅ! こちらも研究させていただきたかったのですよぉ〜!」
先程の姿とは一変、小躍りしそうなほど飛び上がる彼に頭を抱える公爵様。そしてその姿を鋭い視線で睨みつけているヘンリー。
公爵様はこちらに向いたかと思うと、私に小声で貸し出す許可の確認を取ってきた。
「良いのだろうか、本当に」
「ええ、研究の役に立つのであれば」
そう話して公爵様に微笑めば、彼に頭を下げて感謝される。そして公爵様はセヴァルに言い聞かせるよう、告げた。
「セヴァル、丁重に扱うように」
「勿論でございますともっ! それでは、失礼しますぅ〜!」
先程とは打って変わって飛び跳ねながら部屋を出て行ったセヴァルを見送った公爵様。彼の背が扉に隠れた瞬間、大きなため息をついていた。
嵐が過ぎ去った後、公爵様は仕事を終わらせるために執務室へと戻っていく。ヘンリーもその後退出し、私は一人のんびりと過ごしていた。
カップの紅茶もそろそろ空になるだろうか、という頃。扉から入ってきたのはヘンリーだった。後ろから侍女の服を着た女性が二人入ってくる。
先頭の女性は澄ました表情を崩す事はない。
礼儀作法を極めている女性らしく、無駄がなく美しい動作で礼を執っている。私も王国では背が高い方に分類されていたが、彼女はそんな私よりも身長がありそうだ。眼鏡と髪をひとつに後ろでまとめており、凛とした立ち姿は王国の教育係を思い出した。
一方で後ろの女性は緊張しているためか、顔が強張っていた。
先頭の女性は華やかな美人なら、後ろの女性は可愛らしい可憐な女の子という感じだろうか。髪を三つ編みにし、上目遣いでこちらを窺う様子はまるで小動物のようだ。
私が血統主義である王国から来た、という事で少し警戒しているのだ。
まあ、その態度を咎めるつもりはない。もし、この場に本物のブレンダが来ていたとしたら、彼女たちは罵詈雑言を聞かされていただろうから。
ヘンリーは二人に言葉をかける。
「こちらにいらっしゃるお方が、公爵様の婚約者であらせられるブレンダ様――いえ、エスペランサ様でございます」
ヘンリーは包み隠さず私の身分を話す事にしたようだ。
大人びた女性は私の姿を見て予想していたのか、少しだけ目を細めただけだった。一方で可愛らしい女の子の方は、驚きを隠せなかったのか顔にありありと現れている。
女の子の表情に気がついた女性は、左手で彼女の腰辺りをポンと軽く叩く。その衝撃で女の子は我に返ったらしい。半開きになっていた口を慌てて引き締める。
「エスペランサ様の専属侍女として仕えますマルセナとリーナです。何かあれば二人に申し付けください」
マルセナは完璧な礼を執って頭を下げる。リーナはそんな彼女を見てあたふたと礼をした。対照的な二人ね、なんて思いながら私は二人に声を掛けた。
「私はエスペランサ・ホイートストン。よろしく頼むわね」
「こちららこそ、お仕えできて光栄です」
「あ……私も、お仕えできる事、楽しみにしておりましたっ……!」
冷静沈着なマルセナ、少しドジっ子気質のリーナ。
まさか自分専用の侍女が付くとは思わなかった。ありがたい事だと、心の中で公爵様に感謝を述べた。




