表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍発売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/19

2、帝国へ

 謁見後に渡されたのは、水桶と粗末な食事、そして「餞別である」古びたトランクのみ。

 この中には、袖や裾が汚れている平民服が一枚と、これまた古そうなドレスが一枚だけ入れられていた。私は母の形見である本を入れてトランクを閉める。

 

 公爵家でも王城でも、私にドレスや装飾品などを与えられる事はなかった。母の形見であるドレスは全て後妻とブレンダに取られている。

 私の手元に残っているのは、トランクに入れた母の本と、首元に残ったお守り代わりの首飾りだけ。幸い安物と侮られたおかげで、これは彼女の手へと渡らずに済んだもの。

 

 その後は精神的に疲れたのだろうか、私は寝具に横たわったまま寝てしまっていたらしい。扉を叩く大きな音で目が覚めた。

 飛び起きた私は、書類仕事が残っていたのかしら……と働かない頭で考えてから、寝具の横に置いてあった水で顔を洗う。そして今日が出立の日であった事を思い出した。

 

 乱れている髪の毛を適当に撫で付けた後、テーブルの下に置いてあったトランクを手に取り、扉を開ける。するとそこには眉間に皺を寄せた男が、苛立ちを隠さない表情でこちらを見ていた。


「遅い! もう既に皆様は揃っているぞ。何をしている!」


 男は舌打ちをした後、私の手を乱暴に掴み部屋から強引に引っ張り出して、顎で着いてくるよう指示を出す。

 

 着いた場所は正門の正反対に位置する裏門。そこには公爵家の面々と元婚約者が揃って醜悪な笑みを浮かべている。

 

「着いたか、エスペランサ……いや、ブレンダ。もしかして、血濡れの公爵に会うのが怖くて、怯えていたか?」

「ジオ様、この図太いお姉様がそんな繊細な心を持っているはずがありませんわ」


 私を蹴落とし、ジオドリック様の隣に立てた事が何より嬉しいのだろう。ブレンダはこちらを見て、ニンマリと笑った。


「最後にお姉様へと贈り物を差し上げますわね?」


 無言の私に痺れを切らしたのか、彼女は呪文を唱える。昨日公爵が言っていた、制約魔法でしょう……。魔法が掛け終わると、ブレンダはニヤニヤとこちらを見てから問いかけた。


「あなたの名前は?」

「……!」


 私の言葉に周囲は満面の笑みだ。魔法が成功したからだろう。下品な笑みでブレンダは笑う。


「お姉様、これは声がでなくなる魔法よ。まあお姉様にとっては、呪いかもしれないわね」

「『郷には郷に従え』という言葉があるのだ。声が出ないと殺されても、文句を言うでないぞ?」


 ホイートストン公爵も私を追い出せる事が嬉しいのか、満面の笑みで話す。

 

「……郷には郷に従え、か。いい言葉だ。これで、我々がどれほど帝国に耐え忍んできたか、奴らにもわからせてやれるだろう」


 ジオドリック様の言葉に、全員が頷いた。

 

 そのまま馬車へと押し込まれ、私は御者と古ぼけたトランクと共に出立する。

 一人もお供を付けないで送るなんて……ブレンダに何かある、と帝国が勘付くとは思わないのかしら。いや、そもそもその前に私を亡き者として始末する可能性もあるかしら。

 

 そこまで考えて、私はふう、とため息をついた。


『ねえ、お母様。私はいつまで頑張ればいいのかしら?』


 天井に向かって私は口を動かす。魔法により声は制限されているため聞こえないけれど、誰もいないのだから良いわよね。


『お母様は「頑張りなさい、そうすれば貴女に幸せがやってくる」って最後まで私を励ましてくれたじゃない。けれども、結局追放されてしまったわ』


 私は辛かった日々を思い出す。


『お母様がお亡くなりになった後、私は王城へ召し上げられたわ。王太子妃業務は勿論のこと、王太子業務……果ては王妃業務まで私がこなして……それでもいつかは認めてくれるって思ったのに』


 必死になってこなした業務。けれども、誰も私の努力について認めてくれる人はいなかった。

 ……むしろ、『やって当たり前』なのだとか。

 

『まだ見ぬお母様の故郷……どんな方々がいるのかしら?』


 その前に……無事にガメス公爵家へと辿り着く事を祈って、私は瞼を閉じた。



 私の心配を他所に馬車は何事もなく王国にある関所を通り抜け、帝国の関所へと辿り着く。関所というよりも、小さな王城と言った方が良いかもしれない。御者はこの関所に着くと、乱暴に馬車の扉を開け放った。


 最初は眩しくて目を細めていたが、段々目が慣れてくると御者の行動が見えるようになってきた。彼は顎を突き上げて鼻を鳴らしている。


 どうやら降りろ、と言いたいらしい。


 私がトランクを持って降りようとする。しかし、御者はそれを知らんぷりして席に戻っていく。

 意外と重いトランクに四苦八苦しながら下ろしていると、最初は目を丸くして見ていた門番たちが見兼ねて手伝ってくれた。鎧を見る限り、帝国兵のようだ。一人がトランクを預かってくれ、一人が私をエスコートしてくれた。

 その間に御者は、門前にいる他の者に一通の手紙を渡していたようだ。

 

 そしてやっとこさ私が馬車から降りると、御者は「自分の仕事は終わった」と言わんばかりに、さっさと帰っていった。その馬車を呆然と見送っているもう一人の若い門番。


 仕事が終わったからと、何も言わずに帰るのが普通……なのかしら?


 私が首を傾げていると、手紙を受け取った彼が私に訊ねてくる。

 

「ブレンダ・ホイートストン様でございますか……? まさかお一人で……?」


 私は無言で頷くと、彼の目が見開かれる。最初は信じられないといった様子だった彼だが、我に返って若い門番に声をかけた。


「ガメス公爵に至急連絡を!」


 ああ、御者しかいない馬車で婚約者が来るなんて驚くわよね……普通。


 指示を受けた若い門番は、返事をしてから中へと入っていく。彼の話が次第に広まっていたからか、王城内は先ほどよりも慌ただしい雰囲気だ。

 そんな騒ぎの中、私はすぐに現れた執事に応接室らしき場所へと案内され、軽食とお茶まで出されていた。

 

 ……少なくとも、この国では私は“いないもの”扱いではないのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ