15、魔道公爵夫人?
「それは助かるが……良いのか?」
公爵様の言葉に私は頷く。折角母から譲り受けた……多少はホイートストン公爵の恩恵もあるであろう魔力だ。宝の持ち腐れであるよりは、役立つのであれば研究に生かしてもらった方がいい。
「ええ。ですが、私……魔法ですら使えませんから、皆さんにご迷惑をお掛けするかもしれません」
王国で一切魔法の練習をしていない。だからそんな私が一から色々と覚えるには時間がかかると思う。そこは本当に申し訳ないと思っている。
視線を落とし、申し訳ないと思いながら話せば、セヴァルは目を輝かせて話し始めた。
「いえいえ! お嬢様は事情がおありでしたからねぇ! ああ〜、楽しみでございます! 第二の魔導皇女……いえ、第二の魔導公爵夫人となられるのですね!」
「魔導公爵夫人……」
セヴァルの言葉は、私の心に暗い影を落とす。本当に私は母と同じような高みに登る事ができるのだろうか……喜ぶセヴァルを尻目に、緊張が走る。
そんな私の背中をポン、と軽く叩く人がいた。公爵様だ。彼は私のことを優しい目で見つめていた。
「エスペランサ嬢は好きなようにやってくれ。できるに越した事はないが、できなければ、できないでいい。人には得意不得意がある。楽しんでやってくれたらそれでいい。私としては……君が笑って過ごしてくれれば、それで良い」
「そうですよ、エスペランサ様! エスペランサ様は今まで大変な思いをされてきたと聞いております! ここでは肩の力を抜いて、気楽にお過ごしください!」
「公爵様……リーナ……」
思わず私は公爵様へと顔を向ける。彼の瞳は優しい。そしてほんのり耳が朱に染まっているような気がした。
次にリーナへと視線を送る。彼女は握り拳を作り、気合を入れているようだ。二人の言葉が光となって、不安が少しかき消された気がする。そうね、二人の言う通り、気楽にやってみたらいいのかもしれない。
「最終的には私たちがバレンティナ様のように魔宝石に魔法陣を書き込めるよう研究しますので、そこはご安心ください」
シュゼットの言葉に私はお礼を告げる。
そう、ここはもう王国じゃない。失敗が許されなかったあの時じゃないのね。
王国で受けた心の傷はまだ癒えていない。まだ婚約白紙の件から一ヶ月しか経っていないのだから当たり前か……。
頭では分かっていても、心が追いついていない。けれども、いつかは……心も追いつけるようになる気がする。じんわりと温かくなる心を感じた私はそう思った。
その後、部屋へと戻った私の元にシュゼットが幾つかの本を運び入れた。
彼女が持ってきた本は魔法と魔術の基礎が描かれている本で、中には魔道具の本もあったりする。これからはこの本で勉強しようと気合を入れていた。そんな時。
「あら、よろしいのでしょうか?」
今日から私は食堂で公爵様と食事を摂る事になった。マルセナの案内で、私は奥へと座る公爵様の右側の席に座る。そして食事が来る間、公爵様より提案をいただいたのだ。
家庭教師のようなものはいるだろうか、と。
「ああ、エスペランサ嬢に帝国の礼儀作法や魔法・魔術の家庭教師をつけようと思う」
本だけでは解らないところもあるだろう、と公爵様は話す。有難い事ではあるのだけれど、良いのだろうか。そう訊ねると、「問題ない」と言われる。
「魔法・魔術については我が家の者を家庭教師とする予定だ。帝都から呼び寄せることもできるが……我が家の者たちもそれ相応の使い手だからな。礼儀作法については、私の伝手で来てもらおうと考えている。他に学びたい事などはあるだろうか?」
「それでしたら、帝国の地理と歴史に関しても把握したいのですが、よろしいでしょうか?」
『郷には郷に従え』とホイートストン公爵の言葉を思い出す。王国での経験上、地理や歴史を覚えておいて損はない。特に地理は他家との関係を作るためには、欠かせないものだ。
私はガメス公爵家の一員となるのだから。
最初は私の言葉に口を半開きにしていた公爵様だったけれど、彼はフッと笑った。
「良いだろう。手配する」
「ありがとうございます」
お客様でいるだけではない。私が有用である事を示さなければ。




