14、魔宝石
「いやぁ、素晴らしいですねぇ! お嬢様の魔力量は魔導皇女様であったバレンティナ様以上の魔力をお持ちです!」
鼻息を荒くしてセヴァルが詰め寄ってくる。シュゼットはそんな彼の襟元を掴んで、後ろに引っ張ってから話し始めた。
「バレンティナ様が最後に魔力を測ったのが十六歳……王国へと嫁ぐ直前に測定されていますよぉ。現在エスペランサ様は御年十八だとお聞きしておりますが……バレンティナ様の総量の成長速度から考えても、エスペランサ様の魔力総量が多いと判断されますねぇ」
「ちょっと待て、お前たちが導き出した結果によると、魔力は使う事で総量が増えるんだろう? エスペランサ嬢は魔力なしと王国で判定されてから、魔法は教わっていないと聞いている」
公爵様の仰る通りだ。
私は王国で魔力を使った事など一度もない。強いて言えば、五歳の時の魔力測定くらいだろうけれど……あれは意図的に魔力を使ったというわけではないはずだ。
難しい表情をして考え込んでいる公爵様と同様、何故私の魔力の総量が増えているのかが気になった。すると、今もシュゼットによって強制的に椅子に座らされていたセヴァルだったが、そんな彼女の引き留めも気にならないと言わんばかりに身を乗り出し、拳を強く握りしめて話し始めた。
「そこです! 私もそれが謎だったのですが、ある仮説が立ちましてねぇ! お嬢様、先程お返しした首飾りはいつ頃魔導皇女様より戴いたものか、覚えていらっしゃいますか?」
私は首をひねる。あの形見のネックレスがどうしたのだろうか、と。戸惑いながらも、私は言葉を紡いだ。
「あれは物心着いた時から持っていたと思うわ。もしかしたら赤ん坊の頃からじゃないかしら?」
あれはずっと首にかけられていた気がするので、そう答える。すると、セヴァルはその言葉が予想通りだったのか、目を輝かせながら話し始めた。
「あの魔術の中に、『封魔の魔術』という術がある、と私が告げたのを覚えていらっしゃるでしょうかねぇ?」
最初にセヴァルと対面したあの時の事だろう。確か、魔力を封印する術が『封魔の魔術』だったはずだ。そう私が話すと、彼は「仰る通りです!」と声高に告げた。
「あの後宝石をよくよく調べてみたのですが、『封魔の魔術』で封印されていた魔力を使用して、他の魔術が発動している事が判明たのですよぉ!」
詳しく話を聞くと魔術というのは一度だけ発動させたい場合は、その分の魔力をこめるだけでいい。けれども、私の首飾りに掛けられていた『封魔の魔術』や『姿変えの魔術』などに関しては、常時発動させる必要があるのだ。
絶えず魔術を発動させる場合、所有者の魔力を常に必要とする。つまり、『封魔の魔術』で身体の中に留めていた魔力を使用して、常時効果が続く状態にしていたのだという。
「流石魔導皇女様でございますねぇ! 少しの歪みもない魔法陣! 魔術に関する知識量の豊富さ! そしてそれを可能にする魔力量! この首飾りは我が国の魔術の最先端……いや、私から言わせると十年以上先の技術かと思いますねぇ!」
今のセヴァルでもここまでの代物は作成できないのだという。何故母がそんなモノを作り上げる事ができたのかは分からない。これは魔導皇女の最高傑作と言われているらしい。
魔導皇女……母の素晴らしさを語り始めるセヴァル。話が脱線してしまった事に気がついたシュゼットは、セヴァルの口を塞ぐ。
「……興奮しているセヴァルに代わり、私がお話しします。エスペランサ様の魔力総量が多いのは、魔術の常時発動により魔力が必然的に使用されていたからだと思われます。この首飾りの魔石も複数の術式が組み込まれていますから、ある程度の総量がなければ稼働ません。つまりエスペランサ様が幼い頃から首飾りを所持していたと仰っていましたが、その頃からすでに首飾りの魔術を賄えるほどの魔力があったと考える方が自然かと」
それもそうか、と私は思う。部屋には鏡が置いてあるので、頻繁に自分の外見を確認する事も多いのだが、一度も自分の髪が黒色であるところを見た事がない。つまり、魔力の総量が多いため首飾りの効果が切れる事などなかったのだろう。
もしかしたら寝ている時に稼働していなかった可能性も否めない。まあ、幸いな事に王国では私は放置されていたので、気が付かれなかったのだろうけれど。
「そのため常に魔力が使われているお嬢様は、魔力の総量が増えているのでしょうねぇ! ああ、なんと夢のような話! 身につけるだけで魔力の総量を増やす事ができるだなんて! 私も作ってみたいいぃぃぃ〜!」
最後は叫び始めたセヴァルに周囲は少し引いている。まだこんな人物だと知っているから、苦笑で終わるけれど……彼をよく知らない人がこの状態を見たら、変人と評価しそうよね。
公爵様を見ると口角が引き攣っているし……シュゼットは頭を抱えながらため息をついている。その中で私は、ふと思った。
「この首飾り、セヴァルでは作れないのかしら?」
変人……もとい、有能研究者であるセヴァルであれば作れそうな気がするのだけれど……私がそう告げると彼は肩をすくめる。どうやら相当難しいようだ。珍しくセヴァルが唸りながら話している。
「お嬢様にお返しした土台の部分は作成可能ですが、割れてしまった宝石の部分が問題でございますねぇ」
「ほう……」
公爵様もセヴァルの言葉に興味を示していた。意気揚々と説明し始めるセヴァルだったが、あまりにも説明用語が多すぎて途中から何を言っているのかが理解できそうにない。私たちの様子にシュゼットは「簡潔にお伝えしなさい」とセヴァルを叱責し、話を引き継いだ。
「エスペランサ様の首飾りの宝石は、それ自体に魔力が溜まっているのです。採掘の際、稀に宝石に魔力が溜め込まれているモノが掘り出されるのですが、それを私たちは魔宝石と呼んでおります」
シュゼットの話によれば、魔宝石は滅多に出土しないモノだと言う。ただしその効果は素晴らしく、単なる宝石では一つの魔法陣を書き込むのが限界で、二つ目を書き込もうとすると耐えられずに割れてしまうらしい。
魔宝石だからこそ、複数の魔法陣を書き込めるのだとか。
「私たちも複数の魔法陣を書く事はできますが、三つが限界なのですよねぇ」
そう言ってセヴァルは何度も私を見る。これは……私が母のようにできるのではないかと期待しているのだろう。その様子に気がついたのか、公爵様はセヴァルを細目で睨みつけた。
「あまり無理を言うなよ?」
「そんなつもりはありませんよぉ?」
いや、そんなつもりだろう……という鋭い視線がセヴァルへと集まる。その中で私は答えた。
「公爵様の許可を得る事ができればですが、私も研究に参加してもよろしいでしょうか?」




