ざまぁ対象のヒロインに転生したので、静かに生きることにしました
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悪役令嬢ものの物語に、私は「ヒロイン」として生まれ変わったらしい。
しかも、後に「ざまぁ」される側だ。
前世の記憶を思い出したのは、聖女の資格があるとされ、男爵家に養子入りした直後だった。
気に入っている作品だったから細かいところまで知っている。
悪役令嬢、セラフィーナ・アルトリオスが死に戻り、かつて自分を陥れた者たちに報いを与える話だ。
「ざまぁ」されるのは、皇太子と――聖女である私。
もっとも、真の聖女は悪役令嬢で、私は偽物という扱いになる。
読者としては楽しめる物語でも、当事者としては遠慮したい。
まず確認すべきは一つ。
今が死に戻りの「前」か「後」か。
それによって私の対応は変わる。
学園の入学式で答えは出た。
本来ならレオニス皇太子は婚約者であるセラフィーナと並ぶはずなのに、私を選んだ。
大義名分は「聖女だから」だの、いくつもあった。
ただ、レオニスは、悪役令嬢の隣に立ちたくなかっただけだろう。
入場の状況は「前」でも「後」でも同じ。
セラフィーナは何も言わず、前だけを見ていた。
それで分かった。――死に戻り後だ。
私は、物語通りの愚行を犯さないことにした。
レオニスに媚びもせず、派手に目立つこともしない。
学園では最低限の成績を保ち、空いた時間は教会で働いた。
治療、炊き出し、孤児の世話。
現場に出ることを嫌がる大人もいたが、「神の声」を理由に押し切った。
レオニスはよく顔を出した。
私は容姿はつい、目で追ってしまう程度にはあるらしい。
それと聖女という肩書を持つ私を所有したかったのだろう。
私は彼を崇拝せず、拒みもしなかった。
やがて彼は私に興味を失い、別の女性に夢中になったらしい。
別の女性が私の演じるはずだった「ヒロイン」を肩代わりしてくれた。
悪役令嬢のセラフィーナはキャストが変わってもシナリオ通りに舞台を続けてくれている。
それでいい。
私は脇役のままで、生き延びる。
そう思っていた矢先だった。
「いつになったら、自分が本物の聖女だと認める?」
学園の中庭で、もうはや見慣れてしまった美形に声をかけられた。
「セラフィーナが聖女でしょう」
「それは失敗した世界の話だよ。僕が認めたのはリュシエル、君だ」
彼は、神だと名乗った。
私、正確には「ヒロイン」のリュシエルに一目惚れをして花嫁にしたかったのだと。
そのために権能を与え、聖女としたが思惑通りにはいかなかった。
何度か試した結果が今、私がいる世界ということらしい。
惚れた女の魂が違っても好きだというこの神は本当にリュシエルのことが好きだったのか。
顔だけ好みなら彫刻を愛でていろ。
彼の言葉を半分聞き流しながら、思う。
私はただ、静かに生きたいだけだ。




