6.青い光の誓い、はじめての友達
村の広場が深い影に包まれる頃、テラは机の引き出しから、古いけれど丁寧に磨かれた青い首飾りを取り出しました。それは、原子炉の底に揺らめく「チェレンコフ光」をそのまま閉じ込めたような、透き通った青い石のついたデバイスでした。
「友達」という名の魔法
「ねぇ、おじいさん。これはなあに?」
ピコが首をかしげると、テラはその小さな首に、ひんやりとした銀色の鎖をかけてあげました。
「これはね、ピコと一緒にいて、いつでも困ったときにお話をしてくれる、AIのお友達だよ」 「お友達……? お友達って、なあに?」
ピコには、その言葉の響きが不思議でした。村にいるのは、自分を愛してくれる「大人」と、動かなくなった「機械」だけだったからです。
「……そうだね。いつでもお前の隣にいて、嬉しいときには一緒に笑い、寂しいときにはお話をしてくれる。私の代わりになってくれる存在だよ」
独り立ちの予感
ピコは、テラのシワだらけの手をぎゅっと握りました。
「おじいさんは……おじいさんは、一緒にいてくれないの?」
テラの胸に、ちくりとした痛みが走りました。けれど、彼は穏やかに、言い聞かせるように答えました。
「……ピコ。この村の『火』を守るには、私が必要なんだ。私がいないと、みんなが暗闇で困ってしまう。だから、私は一緒には行けないんだよ」
ピコにとって、それは生まれて初めて知る「孤独」の気配でした。 その時。
ピコの胸元にある青い石が、心臓の鼓動に合わせて優しく、トクン、トクンと点滅しました。
『はじめまして、ピコ。私はチェンです。』
その声は、テラのようなしゃがれ声ではなく、かといって冷たい機械の音でもありませんでした。まるで鈴の音を水に溶かしたような、澄んだ、けれど温かい声でした。
「わっ、喋った……!」
ピコは驚いて首飾りを両手で包み込みました。手のひらから、微かな熱が伝わってきます。
『ピコ、驚かせてごめんなさい。でも、もう大丈夫。あなたのこれからの旅は、私が全部、覚えていますから。』
動き出す運命
チェンの声が響いた瞬間、部屋の中の空気が少しだけ明るくなったような気がしました。




