5.準備と約束、夕闇に灯る希望
テラは、ピコの小さな、けれど力強くハンドルを握る手を見つめました。 自分たちの村は、古い原子炉と共にゆっくりと眠りにつこうとしています。けれど、あの丘の向こうに回る風車は、新しい風を捉えて回る「これからの時間」の象徴に見えました。
「これは、準備をせねばなるまいな……」
テラの呟きは、風にさらわれて消えました。 嬉しいのは、ピコに未来があることがわかったから。 寂しいのは、その未来が、自分たちの静かな村の外側にあると悟ったからです。
帰り道のレッスン
「さあ、ピコ。そろそろ帰ろう。これからこのスクーターの乗り方を教えてあげよう」
テラがそう言うと、ピコは弾かれたように顔を上げ、満面の笑みを浮かべました。
「ほんと? じいちゃん、僕、一人でこれ動かせるようになるの?」 「ああ。アクセルの回し方、ブレーキの加減。じいちゃんが全部、この手に覚えさせてやるよ。お前はもう、歩く速さだけじゃなくて、風の速さを知ってしまったからね」
ピコはもう一度、遠くの「クルクル」を見つめました。
「ほんと? じゃあ、今度は、あのクルクルのところまで行けるかな?」 「ああ、行けるさ。……ずっと向こうまでね」
動き出す「未来」
帰り道、バイクの唸るような高い音が、静かな荒野に響き渡ります。 テラは、ピコの手の上に自分の手を添え、ゆっくりとアクセルの感覚を教えました。
加速する期待: ピコが少しだけ手首をひねると、バイクがグンと前に出ます。「わあ!」と声を上げるピコの背中に、テラはかつての文明が持っていた「前へ進む意志」を感じていました。
青い光の出迎え: 村が近づくと、原子炉から漏れるチェレンコフ光の淡い青が見えてきました。それは古い時代の終わりを告げる篝火のようであり、同時に、これから旅立つピコを温かく見守る母の目のようでもありました。
その晩、村に帰った二人は、原子炉の隣でバイクの整備を始めました。 老人たちは、夜遅くまで聞こえる「カチャ、カチャ」という金属の音と、ピコの楽しげな笑い声を、まるでお伽話でも聞くような穏やかな表情で聞き入っていました。




