4.丘の上の境界線、眠る都市と回る風車
バイクを止めたテラとピコは、肩を並べて眼下の景色を見つめました。
1. 緑に呑まれた巨人の街
かつて数百万人が暮らしていたであろう大都市は、今や巨大な盆栽のようになっていました。 コンクリートのビルの隙間からは大樹が突き出し、割れた窓からは色とりどりの蔦が垂れ下がっています。そこには争いの跡はなく、ただ長い時間をかけて、世界が人間から自然へとゆっくり返却されていった穏やかな静寂がありました。
「ねえ、じいちゃん。あんなにたくさん家があるのに、どうして誰もいないの?」
ピコが不思議そうに尋ねました。
「……みんな、遠くへ行ったか、あるいは眠りについたんだろう。この世界が広すぎると気づいて、もっと小さな場所へ帰っていったのさ」
テラはそう答えながら、首から下げた古びた双眼鏡を覗き込みました。
2. 見知らぬ「白いくるくる」
テラが都市の廃墟に目を凝らしていると、ピコが小さな指で、廃墟の少し先、風が通り抜ける丘の斜面を指差しました。
「ねえ、あれは何? キラキラ回ってる!」
テラの視界が、ピコの指す方を捉えました。 そこには、自分たちの村にある重厚な原子炉とは対照的な、軽やかな白い風車が数基、リズムよく回っていました。
真新しい畑: 廃墟の灰色とは違う、鮮やかなエメラルドグリーンの畝。
動く影: 粗末な服を着て、けれど力強く地面を耕す、自分たち以外の「人間」。
家々の煙: 煮炊きをしているのか、小さな煙突から白い煙がのどかに立ち上っています。
3. 数十年ぶりの「他者」
テラの持つ双眼鏡が、わずかに震えました。
「……おお、人が、いる。……本当に、まだ他にいたんだ……」
テラの知る「人間」は、みんな村の老人たちのように、過去を懐かしみながら静かに消えていく存在でした。 けれど、あそこにいる人々は違います。新しい道具を使い、自分たちの手で、新しい「今日」を組み立てているように見えました。




