29.ある青年の介入
その時、ピコたちの前に、さっき出会った青年が再び現れました。
新宿の湿った空気の中で、張り詰めていた緊張感が、青年の登場によって奇妙な音を立ててほどけていきました。
青年は鉄パイプを振り回す男たちの前を遮り、ため息混じりに肩をすくめました。その背中には、かつて彼が捨てた「正論」の影がまとわりついています。
1. 彼の名はカイト。
新宿御苑という強固な理想郷(あるいは檻)を飛び出し、あえて混沌としたビルの底辺で「自由」を探そうとした男。しかし、皮肉にも彼がビルで見たのは、かつての家父長的な支配よりもさらに質の悪い、責任を放棄した「権利」の奪い合いでした。
「やれやれ……。お前たちも親父と似たようなことを言うんだな。あの狭苦しい村の掟が、ここではボロボロの看板を掲げて踊っているなんて、反吐が出るよ」
カイトは男たちに向き直ると、冷めた瞳で言いました。
「あんたたちは『権利』が欲しいんだろ? なら俺が、親父のところに直談判してやるよ。本当に手に入れるべきものがあるなら、俺と一緒に来い。……ただし、文句があるなら俺の拳が先に飛ぶぞ」
2. 奇妙な行進
ビルの住人たちは、カイトの冷徹な迫力に押され、武器を下げておずおずと彼に続きます。先頭を歩くのは、ピコのスクーターとカイト、そして頭上を低空で回る昭島クジラ。後ろには、先ほどまで息巻いていた住人たちが大人しくついてくるという、新宿でも見たことのない奇妙な行列が完成しました。
「ねえ、カイトさん。村長っていうのは、どんな人なの?」
ピコが尋ねると、カイトは苦々しげに笑いました。
「……規律と秩序を愛する、頑固な庭師さ。この新宿を『かつての文明の完璧な復元』にしようとして、必死になっている男だよ。皮肉なもんだろ? 完璧を目指せば目指すほど、門の外にはこんなに歪んだ不満が溜まっていくんだから」
3. 新宿御苑の門へ
しばらく歩くと、ビル群の隙間に、圧倒的な「緑の結界」が現れました。かつての新宿御苑の広大な敷地です。そこだけは、ビル群の鬱蒼とした蔦の壁とは異なり、まるで計算し尽くされたかのように整然と、かつ美しく維持されていました。
門の前には、質素ながらも力強い服装をした「庭園の民」たちが、鋭い目つきでこちらを見張っています。彼らにとって、カイトと、カイトを囲むビル住民の集団は、最も招かざる客に違いありません。




