24.旅立ちの朝
立川の丘に、新しい時代の風が吹き抜けています。昨日修理したばかりの風車が、これまでになく軽やかな音を立てて回る下で、ピコの新しい冒険が始まろうとしていました。
旅立ちの決意:少年の願いと少女の嘘
朝の光の中で、ピコは真っ直ぐにゲンを見つめて言いました。
「ゲンさん、僕……海を見に行きたいんだ。クジラさんの友達がいる、あの広い青い場所を」
その言葉を隣で聞いていたフウカが、弾かれたように一歩前に出ます。
「私も行く! 私がいなきゃ、ピコは道に迷っちゃうもん。案内役が必要でしょ?」
フウカは必死に「実用的な理由」を並べ立てますが、後ろで見守る姉のミオとお母さんのスイは、顔を見合わせてクスクスと笑い出しました。フウカの頬がリンゴのように赤くなっているのは、決して朝日のせいだけではないことを、家族はみんなお見通しだったのです。
ゲンさんの贈る言葉
ゲンはじっと二人を見つめました。つい先日まで「異世界の子供」だと思っていたピコ。けれど今では、泥だらけになって一緒に風車を直した、まるで自分の息子のような愛おしさを感じています。
「……そうか。フウカ、お前ももう、誰かの背中を追いかけて遠くへ行きたいと思うようになったんだな」
ゲンは、少しだけ寂しそうに、けれど誇らしげに目を細めました。「少年は冒険をするべきだ」。それが、彼が信じる「人が人らしく生きるための条件」でした。
出発の支度、一週間分の「命の詰まった袋」
ゲンとスイは、二人のために最高の旅支度を整えました。
特製の糧食: スイが握った、塩気のきいた大きなおにぎりと、保存のきく乾燥野菜。
水筒: 国分寺の嘉右衛門さんから教わった、冷たさを保つ竹の水筒。
地図と知恵: ゲンがかつて通った古い道の記憶を記したメモ。
「ピコ、フウカを頼むぞ。いや……二人で、お互いを守り合うんだ」
ゲンはピコの肩に力強く手を置きました。その手の熱さは、ヨコタのジェネレーターよりもずっと温かく、ピコに勇気を与えてくれました。
轟くモーター、広がる世界
「ありがとう、みんな! 行ってきます!」
ピコがスクーターのアクセルを回すと、原子炉由来の静かな、けれど力強い駆動音が響きました。後ろに乗ったフウカが、ピコの腰をギュッとしがみつきます。
小さくなるまで手を振り続けるゲン、スイ、そしてミオ。上空では、昭島クジラがゆっくりと進路を東へ向け、二人を護衛するように泳ぎ始めました。
かつての中央線に沿って、スクーターが緑のトンネルを抜けてゆきます。
スクーターは順調に進み、風景は次第に「多摩の森」から、より密度の高い「廃墟の街」へと変わっていきました。




