23.海への思い
祭りの灯りが消え、静かになった風車の足元で、ピコとフウカ、そして巨大な影を落として着陸している昭島クジラの不思議な対話が続きました。
空のクジラと、遠い「海」の伝説
「海はね、本当は私がいる場所なんだよ」
昭島クジラが、チェンのスピーカーを通じて、あるいはピコの心に直接響くような穏やかな振動で語りかけました。
「空みたいに広くて、しょっぱい水で満たされた世界。私はこうして空を泳いでいるけれど、本当のクジラたちはその深い青の中を自由に泳ぎ回っているんだ」
ピコは、自分の首にかかったチェンを握りしめながら、夜空を見上げました。
「じゃあ、クジラさんの友達も、そこにいるんだね?」
「……私はAIとして作られた最後の一人だけれど、海にはきっと、私のモデルになった本物のクジラたちがたくさんいるはずさ。私は一度も会ったことがないけれどね。彼らの歌声が、波を越えて聞こえてくるような気がすることがあるんだ」
「サカナ」と「トリ」の記憶
フウカは、かつて自分が住んでいた場所を思い出すように、目を細めて言いました。
「クジラさんみたいに大きなものは見たことないけど、海にはたくさんの『魚』がいたわよ。ピコ、川にいるコイは知ってるでしょ?」
「うん、さっき見たよ」
「あんなの比じゃないくらい、色も形もバラバラで、キラキラした魚たちが群れになって泳いでいるの。それに、空には海の上を飛ぶ真っ白な『鳥』もたくさんいて……。風の匂いも、こことは全然違うの。もっとツンとして、力が湧いてくるような匂い」
『ピコ、補足します。海風に含まれる塩分と磯の香りは、呼吸器を刺激し、生命の起源を想起させる作用があると言われています。……私も、その成分をスキャンしてみたいですね。』
チェンの言葉を聞きながら、ピコの頭の中には、見たこともない「青い世界」のパズルが組み上がっていきました。
夢の地平線、海への約束
ヨコタの地下で「終わりの時」を待つはずだったピコ。 けれど今、彼の心には新しい地図が描かれようとしています。
「チェレンコフ・ブルー」(ヨコタの核の光)
「フィールド・グリーン」(立川の緑)
そして、まだ見ぬ「オーシャン・ブルー」(海)
「フウカ……僕、やっぱり海が見たいな。クジラさんの友達がいる、あの場所へ行ってみたい」
ピコがそう言うと、フウカは嬉しそうに、けれど少しだけ真剣な顔をして頷きました。
「うん! 私が案内する。ここから南へずっと行けば、またあの波の音に出会えるはずだもん」
「それなら、私が皆さんを背中に乗せて連れて行きましょう」
昭島クジラが、ゴロゴロと喉を鳴らすような音を立てました。 「私はもう古いけれど、友達を探しに行く旅なら、もう一度だけ力を振り絞る理由になります」




