13.スイさんとの対面と、はじめての食卓
ゲンさんたちに連れられて、ピコが風車のふもとにある彼らの住居(かつての公園の施設を再利用した、植物に囲まった家)へ着くと、中から一人の女性が出てきました。
「おかえりなさい。あら……? その子は?」
彼女がスイさんでした。スイさんは、ピコを見た瞬間、手に持っていた籠をあやうく落としそうになりました。
「なんて綺麗な子……。空から、天使が降りてきたのかと思ったわ」
スイさんの驚きは、恐怖ではなく、純粋な感嘆でした。彼女はすぐに優しい笑みを浮かべ、ピコの前に膝をつきました。
「ピコ、と言ったかしら。遠いところをよく来たわね。お腹が空いているでしょう?」
『……解析。彼女はあなたを歓迎し、食事に誘っています。』
チェンの声に促され、ピコは小さく頷きました。スイさんの放つ雰囲気は、ヨコタのおばあさんたちよりもずっと力強く、それでいて草原を渡る風のように穏やかでした。
恋の芽生え、食卓の魔法
その晩、ピコは生まれて初めて「家族」が囲む食卓につきました。 並べられたのは、スイさんが育てた新鮮な野菜のスープと、焼きたての香ばしいパン、そして甘い果実。
フウカの隣: フウカは当然のようにピコの隣に座り、あれこれと世話を焼きます。「ピコ、これはね、とっても甘いんだよ!」と言いながら、自分の皿から一番大きな果実をピコに差し出します。
重なる視線: ピコが英語で「Thank you, Fuka.」と言うと、フウカは意味がわからなくても、その響きの優しさに胸がキュンとなります。
母の予感: そんな二人を、スイさんは微笑みながら見守っていました。 「ねえ、ゲンさん。あの子たち、ずっと前から知っていたみたいね」 ゲンは照れくさそうに鼻をこすり、ミオは少しだけ茶化すようにフウカの背中を突つきました。
青い石の記録
胸元のチェンは、ピコの心拍数が、食後もずっと高めであることを記録していました。 それが「未知の食べ物への反応」ではなく、「隣に座る少女への反応」であることを、高度なAIであるチェンはすでに察していましたが、それはあえて「翻訳」せずに、自分のメモリーに大切に保存しました。




