11.追いかけっこと、はじめての「命」の鼓動
ピコにとって、フウカという存在は「未知の生物」に出会ったような衝撃でした。 ヨコタの村にいたのは、背中の丸まった、歩幅の小さな老人たちだけだったからです。
菜の花の香りが漂う昭和記念公園の草原で、二人の子供の声が響き渡ります。
「ねぇ、フウカ。どうしてフウカは、そんなに小さいの……?」
ピコは驚きに目を見開いて尋ねました。チェンがその問いを素早く日本語に訳してフウカに伝えます。フウカは不思議そうに小首をかしげましたが、すぐに太陽のような笑顔を見せました。
「ピコ、それはね、私たちがまだ『こども』だからだよ!」
「……コドモ?」
ピコがその言葉を繰り返すと、チェンが耳元で補足します。 『ピコ。子どもとは、まだ成長の途中にあり、エネルギーに満ち溢れた若い人間のことです。ヨコタの村には、あなた以外には存在しなかったカテゴリーです』
フウカは誇らしげに胸を張りました。
「そう! 大人は大きくて、ゆっくり動くでしょ? でも、子どもは小さくて軽いから、風みたいにたくさん走れるの! さあ、ピコ、一緒に走りましょう!」
止まっていた時間が動き出す
フウカが地面を蹴って走り出しました。その足取りは、村の老人たちが農機具を操る時の重々しい動きとは正反対の、弾けるような軽やかさでした。
「Wait! Wait for me, Fuka!(待って! 待ってよ、フウカ!)」
ピコも思わず走り出しました。 自分の足がこんなに速く動くなんて、ピコ自身も知りませんでした。いつもは転ばないようにゆっくり歩くのが当たり前だったからです。
疾走する喜び、 草を踏む感触、頬をなでる強い風。それは ヨコタの村の静寂と「青い光」に対し、ここは笑い声と「緑のざわめき」に満ちています。
上空では昭島クジラが二人の影を追いかけるようにゆっくりと旋回し、お祝いのように「ズゥゥゥン」と低く鳴り響きました。
「Ahaha! It's so fun!(あはは! すごく楽しい!)」
フウカの背中を追いかけながら、ピコの胸は今までにないほど激しく波打ち、全身に熱い血が巡るのを感じました。これが「生きている」ということであり、テラじいちゃんがピコに掴ませたかった「未来」の正体でした。
丘の上の光景
フウカは丘の上の大きな風車のふもとで立ち止まり、息を切らしながら振り返りました。
「ね? 走るのって、最高に気持ちいいでしょ?」
ピコは膝に手をつき、肩で息をしながら、キラキラした瞳でフウカを見つめました。言葉は半分も分からなかったけれど、フウカと目が合った瞬間に、心が通じ合ったような気がしました。
その時、風車の向こうから、さらに何人かの人影が見えてきました。フウカよりも少し大きな人、そしてもっと大きな人。
「ピコ、あそこにいるのが私の家族だよ。紹介するね!」




