第33章:聖なる発酵と、迫りくるカビの軍勢
「作るぞ! 王都浄化用・特大聖パン『ユグドラシル・パネトーネ』だ!」
僕が提案したのは、ドライフルーツとバターをたっぷり使い、長時間発酵させて焼き上げる、巨大なドーム型のパンだった。
『太陽の穂』を挽いた粉は、それだけで眩い光を放っている。
「なるほど。パネトーネ種の強い生命力で、腐敗菌を圧倒するわけか」
ジャン=リュックが即座に理解し、粉を振るう。片手とは思えない速度だ。
「水は僕の『水生酵母水』、火加減はバルガスの『溶岩石』、そして風通しはシルヴァンの魔法で調整する!」
全員の力が結集し、生地が練り上げられていく。
ボワァッ!
生地に酵母を入れた瞬間、神聖な黄金色の光が溢れ出した。
「すごい……! 生地が生きているみたいだ!」
ニーナが目を輝かせる。
だが、その強すぎる「聖なる力」は、地上の敵にも感知されてしまった。
ズズズズズ……。
天井の土砂が崩れ、シェルター全体が揺れる。
「見つけたぞ、ネズミども……」
地面を突き破り、黒いカビの根が侵入してきた。
その裂け目から、カビに寄生された異形の兵士たちが雪崩れ込んでくる。
「焼き上がりまであと三十分だ! それまで持ちこたえろ!」
バルガスがハンマーを振るい、先頭の敵を吹き飛ばす。
「ここは通さん! ドワーフの意地を見ろ!」
「私も戦います! 【魔酵母】――カビ取りスプレー!」
ニーナも『水生酵母』を入れた噴霧器で応戦する。
だが、敵の数が多すぎる。シェルターの入り口が突破されようとしていた。
「くそっ、生地の発酵がまだ足りない!」
焦る僕の横で、ジャン=リュックが叫んだ。
「タクミ! お前はパンに集中しろ! ここは俺が守る!」
彼は怪我をしていない方の手で、焼きたてのフランスパン(武器用・カチカチ仕様)を二刀流のように構えた。
「王宮筆頭職人の『バゲット剣術』、味わわせてやる!」
仲間たちが必死に時間を稼いでくれる。
その想いに応えるように、窯の中のパンが脈動する。
膨らめ。もっと膨らめ。
人々の希望を乗せて、天まで届け!
チーン!
ついに、タイマー代わりの鐘が鳴った。
「焼き上がりだぁぁぁッ!!」
僕は窯の扉を開け放った。
ドォォォォォォォン!!
熱波と共に、目が眩むような黄金色の閃光が、シェルターを、地下道を、そして王都の地面を突き破って空へと昇った。
「な、なんだこの光はぁぁぁ!?」
光を浴びたカビ兵士たちが、悲鳴を上げて浄化されていく。
ついに、反撃の狼煙が上がった。




