第29章:灼熱の試練と、パン職人の装備
王宮での騒動が落ち着いた後、ドワーフ王マグニは僕たちを玉座の裏にある隠し部屋へと案内した。
「お主らが探している『太陽の穂』……我が国では『火神の髭』と呼ばれる伝説の植物のことだろう」
王は古びた石板を見せた。そこには、燃え盛る炎の中で輝く一株の麦が描かれている。
「この麦は、地下最深部『焦熱の底』に自生しておる。だが、そこへ辿り着くには二つの難関を越えねばならん」
王が指を二本立てた。
「一つは、鉄さえも溶かす高熱。生身の人間なら数分で干物になるだろう」
「もう一つは?」
「古代の守護者、『火の精霊』だ。気性が荒く、認められた者以外が近づけば消し炭にされる」
なるほど、一筋縄ではいかない。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
「行きます。何か対策はありますか?」
王はニヤリと笑い、バルガスを呼んだ。
「バルガスよ、この命知らずのパン職人に、アレを作ってやれ」
***
数時間後、王立工房にて。
僕は全身に奇妙な装備を装着されていた。
耐熱性の高い竜の革で作られたエプロン。
冷却魔石が埋め込まれたミトン。
そして、背中には巨大なタンクのようなものが背負わされている。
「なんだいこれは?」
「『パン職人専用・耐熱機動鎧』だ!」
バルガスが胸を張った。
「背中のタンクには、お前の『水生酵母』を培養した冷却液が入っている。これがパイプを通って全身を冷やし、さらに手元のノズルからは高圧蒸気を噴射できる!」
すごい。ドワーフの技術とパン作りの知識が悪魔合体している。
「さらに、ニーナ嬢ちゃんにはこれを」
ニーナに渡されたのは、銀色に輝く耐熱マントと、氷の結晶が埋め込まれた杖だった。
「シルヴァン殿は自前の魔法でなんとかなるだろう。……準備はいいか?」
「ああ、完璧だ」
僕たちは装備を整え、地下深くへと続くリフトに乗り込んだ。
ガガガガガ……。
リフトが降りていくにつれ、気温が急激に上がっていく。周囲の岩壁は赤く発光し、空気は陽炎のように揺らめいている。
「暑い……!」
冷却スーツを着ていなければ、即座に意識を失っていただろう。
最下層に到着すると、そこは一面のマグマの海だった。
その中央に浮かぶ小島。そこに、黄金色……いや、炎そのもののように揺らめく一株の麦が生えているのが見えた。
「あれだ!」
しかし、島へ渡る石橋の上に、巨大な影が立ちはだかっていた。
全身が燃え盛る炎で構成されたトカゲのような怪物。守護者サラマンダーだ。
「ギシャァァァァッ!!」
サラマンダーが咆哮すると、マグマの海が呼応して荒れ狂った。
ただの戦闘ではない。これは「熱」との戦いだ。パン職人にとって、オーブンの温度管理は基本中の基本。
「見せてやるよ。最高の火加減ってやつを!」
僕はスチームノズルを構え、灼熱の守護者へと立ち向かった。




