第27章:黄金の麦酒パンと、王宮への突撃
「いいか、ドワーフのパンってのはな、噛みごたえがあって、喉が渇いて、酒が欲しくなる……そんなパンだ!」
バルガスの熱血指導のもと、パン作りが始まった。
彼らが隠し持っていた貴重な『黒ビール(スタウト)』の澱から採取したビール酵母。香りは芳醇だが、発酵力が弱い。
そこに僕の『水生酵母』をブレンドする。
「【魔酵母】――ハイブリッド・マリアージュ!」
二つの菌が共鳴し、生地が力強く呼吸を始める。
さらに、この灼熱の地下都市は乾燥している。通常の焼き方ではパンがカチカチになってしまう。
「窯の中に『蒸気』を満たすんだ!」
僕は溶岩の熱を利用した即席の石窯に、水を張った鉄鍋を放り込んだ。
ジュワァァァァ!
猛烈な蒸気が発生し、パンの表面をコーティングする。これにより、中はしっとり、外はパリッと焼き上がる。
「焼き上がりだ!」
窯から取り出したのは、濃い琥珀色をした『ビアブレッド・カンパーニュ』。
中には、燻製ベーコンと、熟成されたハードチーズがゴロゴロと入っている。
「……美味そうじゃねえか」
バルガスがゴクリと喉を鳴らす。
ナイフを入れると、ビールのほろ苦い香りと、チーズの焦げた匂いが爆発した。
「食ってみろ、バルガス」
彼が一切れ口にする。
「んぐっ……! こ、これは……!」
バルガスの目から涙が溢れた。
「懐かしい……いや、昔食ったものより数倍美味い! 麦の甘みとホップの苦味が絶妙だ! ああ、酒が飲みてぇ!」
「これなら、王様の目も覚めるはずだ」
僕たちは頷き合った。
その時。
ドォォォォン!!
鉄扉が爆破され、黒い鎧を着た兵士たちがなだれ込んできた。
「見つけたぞ、反逆者ども! 菌類所持の現行犯で逮捕する!」
王宮からの追っ手だ。
「チッ、嗅ぎつけられたか!」
バルガスが麺棒を構える。
「タクミ、パンを持っていけ! ここは俺たちが食い止める!」
「でも……!」
「王にそのパンを食わせなきゃ、この国は終わるんだ! 行けぇッ!」
レジスタンスたちが兵士に飛びかかり、道を切り開く。
「行こう、タクミさん!」
ニーナに引かれ、僕たちは厨房の裏口から飛び出した。
目指すは都市の中央、溶岩湖の上に浮かぶ『鉄の王宮』。
「待てぇ!」
追っ手が迫る。
僕は走りながら、試作に失敗してカチカチになったフランスパン(もはや棍棒)を抜き放った。
「パン屋を舐めるなよ!」
敵の剣をフランスパンで受け止め、カウンターで鳩尾に突きを入れる。
「グホッ!?」
さらにシルヴァンの援護射撃が敵の足を止める。
激しいチェイスの末、僕たちは王宮の大広間へとたどり着いた。
そこには、虚ろな目をしたドワーフ王と、その横で不気味な笑みを浮かべる細身の男――菌使いの側近が立っていた。
「おや、ネズミが入り込んだようだね。……カビ臭いネズミが」
男の周りには、あの赤黒い胞子が舞っていた。
「王様! これを食べてください!」
僕は叫びながら、焼きたてのビアブレッドを掲げた。
これが、この国を救う最後の希望だ。




