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推しの安寧のため、ゲームの正史を裏切って国を乗っ取りました ~転生した鉄の子爵による、愛と支配の完全統治計画~  作者: 八雲 律


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第8話 演出された危機

 王都は、一種のパニック状態に陥っていた。ヴァレット商会が業務停止したことによる物流の停滞。市場から消えた食料。民衆の不安が頂点に達したその時、追い打ちをかけるような凶報が王城に舞い込んだ。


「へ、陛下!緊急事態です!」


 玉座の間へ転がり込んできた伝令兵が、蒼白な顔で叫ぶ。


「王都近郊の『嘆きの森』から、魔獣の群れが溢れ出しました!その数、およそ三百!まっすぐに王都へ向かっております!」


「な、なんだと!?」


 国王クラヴィスが椅子から腰を浮かせた。三百の魔獣による暴走(スタンピード)。通常ならあり得ない規模だ。だが、今の王都には防壁を強化する資材も不足している。側近たちがざわめく中、王は引きつった顔で叫んだ。


「おのれ、不吉な……!だが、好機でもある。先日、鉄の子爵から徴収した『魔導小銃』があるだろう!近衛騎士団を出撃させよ!最新兵器の威力で、魔獣どもを消し炭にしてくれるわ!」


 王は知らなかった。その魔獣の暴走が、数日前に森の奥深くに撒かれた「高濃度の誘引香」――シリルが密かに手配したもの――によって引き起こされた人工的な災害であることを。そして、彼が頼みの綱とする新兵器が、致命的な欠陥品であることも。


 王都の城壁前。土煙を上げて迫り来る魔獣の群れに対し、王国の精鋭である近衛騎士団が布陣していた。彼らの手には、黒光りする魔導小銃が握られている。


「構えッ!陛下がご覧になっているぞ!一斉射撃!」


 隊長の号令と共に、百丁の銃口が火を噴いた――はずだった。

 ドォン!!射撃音とは違う、鈍い破裂音が次々と響く。


「ぐあぁッ!?」


「銃が、暴発した!?」


 魔弾が発射されるどころか、銃身が赤熱し、手元で爆発したのだ。シリルが納品した「不純物だらけの魔鉱石」は、魔力の伝導率が極めて悪い。連続して魔力を込めれば熱暴走を起こすのは、設計段階から織り込み済みの仕様だった。


「ひ、怯むな!次弾装填!」


「だめです!冷却が追いつきません!」


「石が割れました!」


 武器を失った騎士団は、ただの肉の壁だった。そこへ、興奮した魔獣の群れが雪崩れ込む。牙が鎧を砕き、爪が肉を裂く。阿鼻叫喚の地獄絵図が展開され、城壁の上で観戦していた王の顔から血の気が引いていく。


「な……なぜだ!?なぜ撃てない!?ヴァレットの奴、不良品を納めおったかッ!?」


 王が手すりを叩いて喚く。だが、もう遅い。魔獣の先頭集団が城門に殺到しようとした、その時だった。


 ヒュンッ――!!


 鋭い風切り音と共に、一筋の蒼い閃光が戦場を横切った。光の槍は先頭の大型魔獣の頭部を正確に貫き、その巨体を吹き飛ばす。


「――騎士団、後退せよ!ここからは我がヴィルトゥス家が引き受ける!」


 凛とした声が響き渡る。砂煙を割って現れたのは、紺碧の軍服に身を包んだアルフォード・ヴィルトゥス伯爵と、その私兵団だった。その数はわずか五十。だが、彼らが構える銃剣の先には、透き通るような青い輝き――最高純度の魔鉱石が煌めいている。


「撃てッ!!」


 アルフォードがサーベルを振り下ろす。一斉射撃。王軍のものとは比較にならない、太く鋭い魔力のレーザーが放たれた。


 轟音。閃光。


 一度の斉射で、前衛の魔獣数十体が蒸発する。


「な、なんだあの威力は……!」


「あれがヴィルトゥス家の力か!?」


 逃げ惑う近衛兵たちが呆然と見守る中、アルフォードは自らも魔導剣を抜き、戦場の先頭に立った。


「民を守れ!一匹たりとも王都に入れるな!」


逃げまどい傷ついた近衛兵たちはアルフォードの勇猛さ、美しさに目を奪われた。


 返り血を浴び、蒼い炎のようなオーラを纏って舞うその姿は、かつての「救国の英雄」そのものだった。だが、その英雄を支えているのは、牢獄にいる「悪徳商人」が不正に蓄え、横流しした力そのものだ。皮肉なことに、王が「反逆罪」とした行為そのものが、今まさに王都を救っていた。



 その夜、牢獄の格子窓から見える夜空は、魔獣討伐を祝う篝火かがりびで赤く染まっていた。看守たちが噂話をしている。


「聞いたか?王の軍は役立たずで、ヴィルトゥス伯爵が全部倒したってよ」


「鉄の子爵が納めた武器は、使い方が難しすぎて王軍には扱えなかったらしいぞ」


「子爵を捕まえてる場合かよ。あの人がいないと、武器のメンテナンスもできねえ」


 世論は動き始めた。「王の無能さ」と、「ヴィルトゥス家とヴァレット商会の必要性」が、明確な対比として刻み込まれたのだ。


「……お疲れ様です、アルフォード」


 私は冷たい石床の上で、膝を抱えてクスクスと笑った。聞こえてくる歓声は、王への弔鐘であり、私の勝利のファンファーレだ。


「王よ、貴方は最高だ。私の与えた『玩具』を使って、期待以上のダンスを踊ってくれた」


 王軍が壊滅したのは、私の武器が不良品だったからではない。彼らに「扱う技量がなかったから」だ。この噂も、すでに手下の商人たちを使って流してある。これで、私が釈放されるための土壌は整った。あとは、仕上げだ。


「さあ、ユリウス王子。出番ですよ」


 暗闇の中で、私は次の手駒の名前を呼んだ。王の権威が地に落ちた今、絶望した「正義の味方」に囁くべき言葉は一つしかない。


 ――父を倒せ、と。

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