表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しの安寧のため、ゲームの正史を裏切って国を乗っ取りました ~転生した鉄の子爵による、愛と支配の完全統治計画~  作者: 八雲 律


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/36

第25話 永遠の監視者

 王都の北外れに、古びた修道院がある。かつては王族が祈りを捧げる場所だったが、今では世捨て人のための幽閉施設として使われていた。そこに、一台の馬車が静かに到着した。


「……ここが、私の新しい住まいか」


 馬車を降りたユリウス・アウルムは、灰色の石壁を見上げて力なく呟いた。その背中は丸まり、かつて「革命の英雄」と呼ばれた覇気は見る影もない。


「ええ、殿下。静かで良い場所でしょう?」


 私は馬車の扉を閉め、彼に微笑みかけた。


「王宮の喧騒を離れ、亡き父君を弔いながら余生を過ごす。……元老院も、貴方の『高潔な隠居』を称賛しておりましたよ」


「隠居……。追放の間違いだろう」


 ユリウスが自嘲気味に笑う。そうだ。これは事実上の流刑だ。セオドア王の精神不安が悪化し、レオンハルトという次代の光が生まれた今、過去の遺物であるユリウスは邪魔でしかなかった。だから私は、「王家の安寧を祈る」という名目で、彼をこの鳥籠へ押し込めようとしている。。


「シリル。……一つだけ聞きたい」


 修道院の重い扉が開かれる直前、ユリウスが振り返った。その瞳には、恨みでも怒りでもなく、純粋な疑問が宿っていた。


「君は、最初からこうするつもりだったのか?私を改革の神輿に担ぎ上げ、用が済んだら捨て、国を乗っ取るつもりで……?」


「……誤解しないでください。私は国を乗っ取ってなどいません」


 私は彼に歩み寄り、衣服の乱れを直してやった。


「私はただ、貴方が望んだ『理想』を形にしただけです。……民は飢えず、国は富み、争いはなくなった。私の支配下で、この国はかつてない黄金期を迎えている。違いませんか?」


ユリウスは、屈辱に唇を震わせた。


「……だが、そこに私の居場所はない」


「ええ。貴方は『種を蒔く人』でした。ですが、収穫をするには貴方の手は綺麗すぎた。……だから私が代わりに鎌を振るったのです」


 ユリウスは私の目をじっと見つめ、そしてふっと息を吐いた。それは、長い戦いが終わったことを受け入れる、敗北者の吐息だった。


「……そうか。私は、君という怪物を世に放つための、ただの鍵だったのだな」


 彼は視線を逸らし、私の後ろに立っていたアルフォードを見た。かつての忠実な騎士。今は、怪物の共犯者。


「アルフォード。……君も、それで良かったのか?誇り高き騎士が、こんな男に魂を売って」


「……殿下」


 アルフォードは痛ましげに眉を寄せ、しかし真っ直ぐに元主君を見つめ返した。


「私は、後悔しておりません。……シリルは非道ですが、彼が守った平和は本物です。私の娘も、孫も、彼の庭で幸せに笑っている。……それ以上の『正義』を、私は見つけられませんでした」


「……そうか」


 ユリウスは寂しげに微笑んだ。唯一の友さえも、もう自分の声が届かない場所へ行ってしまったのだ。


「元気でな、二人とも。……セオドアと、レオンハルトを頼む」


 それが最後の言葉だった。ユリウスは修道士に促され、鉄扉の向こう側へと消えていった。重い音を立てて扉が閉ざされる。二度と開くことのない、歴史の墓場の扉が。



 帰りの馬車の中。アルフォードはずっと無言で窓の外を見ていた。彼の中で、一つの時代が終わったのだ。青春を捧げた主君との別れ。それは、彼自身が「正義の騎士」としての自分を完全に葬り去った瞬間でもあった。


「……寂しいですか、アルフォード」


「……いや。これで良かったのだ」


 アルフォードは自分に言い聞かせるように呟いた。


「殿下はもう、苦しまなくて済む。政治の泥にまみれることも、息子に絶望することもない。……祈りの中で静かに暮らすのが、あの方にとって一番の幸せなのかもしれん」


「ええ。その通りです」


 私は彼の手に自分の手を重ねた。


「彼は守られたのです。私という『永遠の監視者』によって、外敵からも、自分自身の無力さからも隔離された聖域で、美しい思い出と共に生きていけるのですから」


「……お前は、どこまでも物事を、自分に都合よく解釈する」


 アルフォードは苦笑し、私の手を握り返してきた。その掌は温かかった。共犯者の温もり。もう二度と離れることのない、血よりも濃い絆。


「さあ、王宮へ戻りましょう。レオンハルト殿下が待っています」


「ああ。……あの子には、こんな別れを経験させたくないものだ」


「させませんよ。私がついている限り、彼の人生は光に満ち溢れています」


 馬車は王都へ向かって走り出した。背後の修道院は、夕闇に溶けて見えなくなった。「正史」の主人公は退場した。これから始まるのは、私が手塩にかけて育てる「覇王(レオンハルト)」の物語だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ