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推しの安寧のため、ゲームの正史を裏切って国を乗っ取りました ~転生した鉄の子爵による、愛と支配の完全統治計画~  作者: 八雲 律


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第20話 祝福なきロイヤルウェディング

 王都の大聖堂は、国一番の慶事に沸き返っていた。セオドア国王陛下と、ヴィルトゥス伯爵令嬢エレノアの結婚式。鐘の音が鳴り響き、純白のドレスに身を包んだエレノアが、父アルフォードのエスコートでバージンロードを歩いてくる。祭壇で待つセオドア王は、恋い焦がれた少女の姿に、陶酔しきった笑みを浮かべていた。


「……美しい式ですね、後見人殿」


 最前列の参列席で、私は隣の男に声をかけた。ユリウス・アウルム。かつての「正義の王子」は、今や白髪が混じり、実年齢よりも遥かに老け込んで見えた。彼は膝の上で拳を握りしめ、震えている。


「……あぁ。美しい」


 彼は掠れた声で答えた。その視線の先には、愛する息子と、アルフォードの娘がいる。自分の血統が、完全にシリルの傀儡であるヴィルトゥス家に取り込まれる瞬間だ。


「笑ってください、殿下。今日は祝いの席ですよ」


「……わかっている」


 ユリウスは引きつった笑みを浮かべた。逆らえばどうなるか、彼は骨の髄まで理解させられている。「セオドア王の平穏」という人質を取られている限り、彼は私の振付通りに踊るしかない道化なのだ。


 

 誓いの口づけが終わり、披露宴が始まった。会場の中心で、新郎新婦が幸せそうにワルツを踊る。セオドアはエレノアの腰に手を回し、まるで母親にすがる子供のように密着していた。エレノアもまた、そんな王を慈しむように見つめ返している。


「……エレノアは、幸せそうだな」


 アルフォードが、私の隣でグラスを傾けながら呟いた。その表情には、娘を嫁がせた父親の寂しさと、同時に「安堵」の色が見えた。


「ええ。彼女はこの国の母となる。誰よりも尊く、安全な場所へ登り詰めました」


「ユリウス殿下のおかげ、とは言えんのが辛いところだがな」


 アルフォードの視線が、会場の隅に向けられる。そこには、貴族たちから「王のお父上」としてお追従を言われ、愛想笑いを浮かべるユリウスの姿があった。かつては改革の旗手として輝いていた男が、今や息子の威光にすがるだけの「飾り物」に成り下がっている。


「さて。……そろそろ仕上げと行きましょうか」


 私は懐中時計を確認し、司会者に目配せをした。会場の音楽が止まり、スポットライトがユリウスに当てられる。


「――それではこれより、新郎のお父上、ユリウス・アウルム後見人より、お二人の門出を祝うお言葉を頂戴いたします!」


 盛大な拍手。不意打ちだったのだろう。ユリウスが驚愕に目を見開き、私を見た。私はグラスを掲げ、無言で口パクをした。『さあ、祝福を』と。


 ユリウスはよろめくように立ち上がり、壇上へと進んだ。数百人の視線が彼に突き刺さる。聴衆の前に立った彼は、震える手でグラスを持ち、息子夫婦の方を見た。


「……陛下、エレノアさま。ご結婚、お喜び申し上げます。」


 声が裏返る。セオドアは、興味なさそうにグラスを揺らしているだけだ。エレノアは気まずそうに目を伏せている。


「私は……嬉しい。私の息子が、我が友であったヴィルトゥス伯の娘と結ばれることが。……これ以上の喜びはない」


 嘘だ。腸が煮えくり返るような屈辱だろう。自分の理想を否定し、国を乗っ取った男の操り人形同士が結婚するのだから。だが、彼は続けなければならない。


「陛下。あなたは立派な王だ。……私などが及ばぬほどに、賢く、強い」

「エレノア嬢。どうか、陛下をお支えください。……この国の未来は、お二人ののものです」


 ユリウスの声が涙で濡れた。会場の貴族たちは「なんと感動的な父の愛だ」とハンカチを目に当てている。だが、私とアルフォードだけは知っている。それが「愛の涙」ではなく、「敗北と決別の涙」であることを。


「――乾杯!」


 ユリウスが叫ぶようにグラスを掲げた。唱和する声がホールを揺らす。彼は一気にワインを飲み干すと、逃げるように壇上を降りた。その背中は、もはや誰の目にも留まらないほど小さく萎んでいた。



 宴の最中、テラスで風に当たっていたアルフォードに、私は近づいた。


「残酷なことをさせる」


「必要な儀式ですよ。彼が公衆の面前で二人を認めることで、正統性は揺るぎないものになる」


 私は夜空を見上げた。


「それに、彼にとっても救いでしょう。これで完全に『父親』という重荷から解放されたのですから」


「……お前は、本当に悪魔だな」


「ええ。貴方のための悪魔です」


 私はアルフォードの肩に手を置いた。ホールの中では、幸せそうな新郎新婦が笑っている。その笑顔の土台には、一人の男の尊厳が無惨に埋められている。だが、それでいい。この平和で残酷な箱庭こそが、私がアルフォードに捧げる「永遠の安寧」なのだから。


「さあ、戻りましょう。……次は、貴方のスピーチの番ですよ、父君」


 私は悪戯っぽく微笑み、彼の手を取った。アルフォードは深いため息をついたが、その手を振り払うことはしなかった。

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