はじめてのかり、でも、そんなの
「……でかいな、こいつ」
陽真は魔獣の死骸の前にしゃがみ込み、しばらく黙っていた。
正確には、どうしたらいいのか分からず、座り込んでいただけだった。
「……食える、のか? いや、魔獣って、肉なのか? モンスターって肉なのか……?」
誰も答えてくれない。
狐は丸まって寝ている。
テラリンクに聞いても「肉質:不明。構成:動物性に近い。可食部位あり」なんて曖昧な情報しか返ってこなかった。
「食えるとは言ってねぇ……けど、食べれないとも言ってねぇ。
てか、これムダにしたらもったいなくね? 貴重なタンパク源じゃん……!」
そう自分を無理やり納得させて、陽真は《神農の鎌》を持ち直す。
ただの鎌とは思えないほど、スッと皮を裂き、内臓を避けて肉を分離していく。
「……うわ、やっべ、めっちゃうまそうな部位あるなこれ……ロースっぽい……? いや、焼き方わからんけども」
焚き火台に鉄板を乗せ、塩を軽くふり――スライスした魔獣の肉を乗せる。
ジュウゥゥゥ……!
あの、音。あの、香り。
明らかに美味そうなやつだ。
「……うわ、いい匂いすんな……普通に焼肉……」
ひと口、パクッ。
もぐ……もぐ……
「……う、うまい」
咀嚼のたびに、しっかりとした弾力と、獣臭さのない甘い脂の旨味が広がっていく。
想像していた“内臓臭”や“泥臭さ”はまったくなかった。
「これ、ふつーに……イケるな。てか、ちょっと感動……」
……
……
「……でも、これ、後で腹壊したら……どうしよう」
ふと、不安がこみあげてきた。
「未知のモンスターの肉を焼いて食う」って冷静に考えてどうなんだ?
寄生虫? 毒? 耐性ある? 火、ちゃんと通ってた?
「……ダメだ……俺、やっぱ食中毒こえぇ……でも、そんなの関係ねぇ、ほど美味い。」
残りの肉をそっと網から外し、ラップ(魔法結界フィルム)に包み、《無限バックパック》に戻す。
「保冷できるって言ってたよな……とりあえず寝よ、寝よ。明日、元気だったら食べよ……」
狐を横目にテントに戻り、コットに倒れこむ。
「……明日起きて、腹が平気だったら……魔獣焼肉、メニュー化……」
そう呟いた声は、すぐに寝息に変わった。
疲れと緊張と、食への未練が入り混じった、ちょっとだけマヌケな夢を見ながら――。