えっ、えっ、なんで!?
「チート道具、マジで頼む……!」
陽真は咄嗟に鎌を引き抜いた。
見た目はただの古びた刃、柄も少し歪んでいる。
だが、握った瞬間――
空気が変わった。
風が収束するように、刃先にピタリと魔力がまとわりつく。
魔獣が距離を詰めてくる。
その巨体と、地面を割る蹄音が喉を震わせた。
「無理だ、やっぱ無理! 逃げ――」
次の瞬間、陽真の手が勝手に動いた。
右から左へ、鎌をなぞるように振る。
まるで、雑草を払うように――
軽く。迷いもなく。
ヒュオオオ……
鎌が空を裂いた瞬間、魔獣の動きが止まった。
ピタ。
刹那、魔獣の身体がすぅ……っと音もなく、真っ二つに崩れ落ちた。
血も、肉の裂ける音もない。
ただ、刈り取られた“雑草のように”その命が消えていった。
「…………は?」
陽真は自分の手元の鎌と、消えた魔獣の影を交互に見た。
「な、なんで……? 今、俺……? いや、勝ったのかこれ?」
コン……
背後から、乾いた鼻鳴きが聞こえた。
コノハが、陽真の足元に寄ってくる。
「……お前、今の見てたよな。やばくない? 今の、俺……」
「 カッコ……よかった 」
その声は、驚くほど小さかった。
でも、確かに聞こえた。
陽真は硬直したまま、狐を見下ろす。
「……え?」
「……すこし、だけ」
また一言。
口は動いていないのに、頭の中に直接響いてくる感覚。
コノハは小さく尻尾を揺らし、
陽真の足元にちょこんと座った。
「しゃ、しゃべった……!? ついに!? お前、ついにしゃべった!?!?」
「……ひとこと、だけ。つかれた」
そう言って(というか、思って)、
狐は小さくあくびをして、また丸くなった。
陽真はしばらく立ち尽くしていたが、
ようやく力が抜けたように、腰を抜かして座り込む。
「……なんなんだよ、マジで……」
でも――その顔には、笑いが浮かんでいた。