バフバフ……ブー!!!
「ふぅ……やりすぎたな」
陽真はテントの中で横になっていた。
キャンプコットの上にバタリと体を投げ出す。
夕方から勢いに任せて畑を拡げ、3列だった畝はいつの間にか10列になっていた。
タバコ、人参、じゃがいも、トマト、カボチャ、謎の紫色の豆――
「やる気バフって怖ぇわ……」
体は重く、まぶたも勝手に落ちてくる。
でも、心のどこかがほんのりと満たされていた。
「なんか……久しぶりに……ちゃんと動いた気がする」
風の音、焚き火のパチパチという音。
コノハは足元のクッションに丸まり、眠っていた。
「……おやすみ、神様」
陽真の瞼が落ち、静かな夜が訪れた。
* * *
朝。
カラスの鳴き声すら聞こえない静寂のなか、
陽真はテントの中で目をこすった。
「うわ……身体バキバキ……やべぇ、何日ぶりにちゃんと寝たんだ俺……」
外に出て、あくびをしながら畑のほうを見やる。
「……え?」
そこには、青々と葉を茂らせた作物たちが並んでいた。
昨日まで、ただの黒土と芽だったはずの場所に。
人参は葉を揺らし、タバコの苗はまっすぐ空に向かって伸びていた。
じゃがいもの葉はうっすらと花をつけ、トマトにはすでに小さな青い実が膨らみ始めている。
「マジかよ……」
信じられない光景。
でも、間違いなく育っている。魔力が土と共鳴し、植物に生命を与えていた。
「……これなら、明日には……」
声が震える。
「明日には、収穫できる……!」
陽真の胸に、**明確な“希望”**が生まれた。
何もなかった場所に、自分の手で、命が芽吹いた。
土の匂いが、風に乗って鼻先をくすぐる。
「っしゃ……!」
思わず小さくガッツポーズをした――その時だった。
――ガサッ。
草もない荒地の向こうから、乾いた音が響く。
「……?」
次の瞬間、テラリンクが反応する。
《警告:地脈の乱れ検出》
《接近:中級魔獣クラス/対象種不明》
「なっ……!」
遠く、土埃を巻き上げながら、異様に長い足と背中に甲殻を持つ、イノシシに似た魔獣がこちらに向かって突進してきていた。
「……おいおいおい、ちょっと待て、嘘だろ……?」
芽生えたばかりの畑を蹴散らす勢いで、魔獣が迫る。
陽真は咄嗟に、鎌に手を伸ばした。
「チート道具、マジで頼む……!」