焼きおにぎりサイツヨ
陽真は、耕したばかりの黒土に、タバコと数種類の野菜の種を一つずつ埋めていった。
「……タバコ、人参、トマト、あと……じゃがいも。
つーか、タバコから先に蒔いてんの、どう考えてもダメだろ俺……」
ぼやきながらも、手は器用に動いている。
「まあ……何にせよ、育たなきゃ意味ねぇし」
ジョウロを取り出す。見た目はただの古びたブリキ製。
ところが、持った瞬間にジンと手が温かくなった。
中に水は入っていない。けれど、土に向けて傾けると――
**スーッ……と、まるで霧のような“魔力の水”**がふんわりと土に染み込んでいく。
「うお……なにこれ……」
土がしっとりと潤い、魔力が波紋のように畑全体に広がる。
「魔力で水やりって、こんな感じなのかよ……ていうか、普通にすげぇな」
納得したように頷きながらも、まだやる気スイッチは完全に入らない。
陽真は腰を上げると、バックパックの中からテントを引っ張り出す。
「……寝るとこ、作るか」
収納袋からテントを取り出し、無造作に広げた瞬間――
パシュンッ!
空気を押し返す音とともに、一瞬でテントが設営された。
四隅は自動でペグ打ちされ、薄い魔力の結界がふわりと張られている。
「……うわ、近未来かよ……」
唖然としていると、背後から妙な気配が。
振り返ると――さっき植えたばかりの畑の一角から、タバコの双葉がぴょこっと顔を出していた。
「……おい、早すぎんだろ……」
小さく笑いがこぼれる。
まるで現実味がなくて、ちょっと楽しくなってきた。
「よし……ちょっと飯にすっか」
焚き火台を設置し、薪をくべる。
火をつけると、焚き火台の炎がじわじわと淡い魔力の色に変化していく。
「……あったか。いい火だな……」
乾燥米と水でおにぎりを握り、網の上で焼きはじめる。
**ジュゥ……**と音を立てて、表面が香ばしく焦げ始めたそのとき。
《キャンプギアスキル発動:焼きおにぎり【バフ:やる気+集中力】》
「……は? やる気バフ……?」
信じられないまま、一口かじる。
……うまい。
焦がし醤油の香りと、ほのかな魔力が舌と頭にじんわり染み渡る。
「なんだよこれ……やべぇ、ちょっと元気出てきた」
焚き火の前に座り込む陽真の口元が、わずかにほころんだ。
「……ちょっと、畑……増やしてみっか」
立ち上がった陽真は、再びクワを手に取り、
今度は少しだけキビキビとした動きで、さらに広い範囲を耕し始めた。