ちんちん、ちんちん、ニコチン
カサッ……と風が砂を巻き上げる。
乾いた空気に目を細めながら、陽真はしゃがみ込んだ。
「……あー……タバコ吸いてぇ」
ぽつりと漏れる、どうしようもない本音。
転生して、世界も土地も変わったのに、思考のクセだけは変わらない。
「なんだよ、チートとか異世界とか言っといて、ニコチンは解決してねぇのかよ」
ぼそぼそと文句を言いながら、バックパックをゴソゴソと探る。
見つけたのは、茶色い紙袋に入ったタバコの種。
「はは……こっちは育てろってか……」
思わず苦笑が漏れる。
「転生しても、俺の脳みそってほんと変わんねぇな……」
荒れ果てた地面をぼんやり眺めながら、指で農具セットに触れる。
一つずつ並べられた道具たち――その中で、陽真の手が止まったのはクワ。
「……まあ、とりあえず……試してみっか」
重みを感じさせない、妙に手になじむ感触。
それをゆっくりと持ち上げ、硬い土に一振り。
ザクッ。
乾いた音とともに、土が一瞬で――いや、まるで別物のように変わった。
硬くひび割れていた地面が、ふかふかの黒土に。
「……おい、マジかよ」
もう一振り。
さらに一帯が柔らかく、湿り気すら感じるほどの理想的な土に変化していく。
「なにこれ……やべぇな」
呆れ混じりの声が漏れる。だが、目は確かに見開かれていた。
「ただのクワじゃねぇ……これが、“神農の農具”……?」
コノハが「コン」と短く鳴く。
陽真は狐に視線をやり、肩をすくめた。
「……ああ、うん。これは確かに、ありがてぇわ」
少しだけ、顔が緩んだ気がした。
けれどその直後――
「……でもタバコできるまで、何ヶ月かかんだよ」
現実は甘くない。
でも、不思議と――ほんの少し、気持ちは軽くなっていた。